「………はい?」
初めて話す後輩くんからの告白に、そんな言葉が出ても、きっと仕方ないと思う
間抜けな返事を返した私に、木ノ瀬くんはくすくすと笑みを零した
「あぁ、すみません。言葉が足りませんでしたね。まぁ、彼氏と言う名のボディーガードになっても良いですか?ってことです。」
「……つまり、ふりってこと?」
「そうです。さっきの奴らも、先輩が一人だったから先輩を狙ったんでしょう?それなら恋人と一緒に居たら、そんなこともなくなるはずです。」
「そりゃ、そうだけど…、」
確かに、さっきの男子の言い方だと、一人で居なかったら私も月子同様狙われることはないということだ
それは理解できる、けど
「どうしてわざわざ彼氏?」
「そっちの方が予防線の強度は増すはずです。こう見えて、僕強いですしね。」
にっこり笑う木ノ瀬くんはどちらかと言えば可愛らしくて、とてもそうは見えなかった
けれど、さっき声だけで彼らを打ち負かしたのだからきっと本当なのだろう
それに正直な話、その提案は今の私には救いの手にも見えた
だって今のままじゃ、明日からの学校が怖くて登校拒否をしてしまいそうだ
だけど、本当に良いのだろうか?
「木ノ瀬くんは…本当に良いの?」
「良くなかったらこんな提案、そもそもしませんよ。」
「だって私も木ノ瀬くんも、今が初会話だよ?私だって全然知らないけど、木ノ瀬くんも私のこと知らないでしょう?それにそれって、周りに誤解されちゃうんだよ?」
「知らないなら、知っていけば良いだけですよ。それに今、誤解されて困るような相手はいません。あ、先輩もしかして好きな人います?」
「いやそれは…いませんけど…」
「それなら、悪くない提案だと思うんですけど。あの人達だってこれがきっかけで僕と付き合いだしたって勘違いするはずですし。」
「……それで、木ノ瀬くんにメリットはある?」
純粋に気になったから、そう尋ねた
すると少しきょとんとした表情をしてから、木ノ瀬くんは楽しそうに口元に笑みを浮かべた
「僕、先輩に興味があるんです。」
「…興味?」
「はい。キスとか先輩が嫌がることは絶対しません。先輩に好きな人が出来たらすぐに別れます。だからどうですか?」
興味とは、何なんだろう?
というか本当にメリットは彼にあるのか?
ぐるぐると悩んでいると、目の前でくすくすとまた木ノ瀬くんが笑った
「騙されたと思って、僕の名前を呼んでみてください。――和先輩。」
僕に貴女を、守らせてください
真っ直ぐに、私を映すアメジストの瞳と甘く私の名前を呼ぶ声に
きっと本当に私は騙されたんだ
「…よろしくお願いします、…梓、くん。」
不覚にも高鳴った胸には、さっきまでの恐怖はもうなかった
(ゼロから君と始めましょう)
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