「なるほど…星座ストラックアウトって何かと思ったら、こういうことか。」
「中々うまく考えましたね。」
星月学園では中々見る機会のない男女入り混じる混雑した廊下
梓くんと二人、目的地は2年星座科「星座ストラックアウト」です
「そうそう!くじの中からお題を引いて、それに該当する星や星座のパネルをこのボールで当てていけばいいんだよ。結構面白いアイディアだろ!?」
「そうですね。星の勉強にもなりますし。…あ、僕夏の大三角を作る星だそうです。楽勝ですね。」
白鳥くんが差し出してくれたボックスの中から一枚紙を引いた梓くんがそう言って笑う
これから指定のパネルを当てなきゃいけないのに、多分梓くんはそんなことなんでもなくこなせるんだろうな
「ちなみに三球で決められた奴は、賞品の他に宮地おススメスイーツガイドマップがついてくる。裏メニューやら隠れ名店まで何でもござれらしいぜー?」
「何それ良いな!梓くん頑張って!」
「あはは、わかりました。じゃぁそのガイドマップ貰ったら、今度それを持ってデートに行きましょうね。」
「え!?」
「じゃぁ、やってくるんで和先輩、絶対に知らない人に声をかけられても答えちゃだめですよ?」
すぐ終わらせてきますから、と可愛い笑顔でパネルの方へと向かった梓くんを手を振って見送る
「木ノ瀬ぇ、そう簡単にいちゃいちゃさせてやるもんかぁぁ!お前には特別ルールで俺が邪魔してやるー!!」
「えぇ!?そんなのずるいですよ白鳥先輩っ。」
「うるさいうるさーい!ここでは俺らがルールだぁぁ!!!」
(うーん、なんて大人げない…)
本当にストラックアウトの前に立ちはだかり邪魔し始めた白鳥くんに、思わず苦笑いする
時間がかかりそうだなぁと思い、なるべく人に当たらないところに移動して梓くんの活躍を見守ることにした
「結構楽しんでるんだね。」
意外だな、と。隣から声が降ってくる
そちらを向けば、先日散々言いたい放題してくれた人が立っていた
「…何ですかその恰好。」
――王子様のような格好で。
びっくりして思わず一歩後退ってしまった私に、水嶋先生が苦笑して見せた
「仕方ないでしょ?月子ちゃんがわざわざ作ったんだから、着ないわけにはいかないじゃない。」
「あれ?学ランなんじゃなかったんですか?」
「それは陽日先生だけだよ。僕が着てたらこれよりもっと違和感だったでしょ?」
「そうですね、正直水嶋先生の高校生姿って全然想像できないですし…。」
「君も結構言うよね。」
ふぅ、と溜め息を一つ吐き出し、改めて水嶋先生が言葉を紡ぐ
「…もっと悲壮な顔してるかと思ってたよ。」
「…そんなこと言うために声かけてきたんですか?わざわざ。」
「心外だなぁ。キミの騎士くんが面倒なのに捕まっちゃってるから、暫く代理で虫除けに来てあげたんじゃない。」
「物凄く上から目線ですね…。」
いっそ清々しい、と少し笑みを零す
「…そんな、勿体ないこと出来ませんよ。」
「え?」
「だって、初デートですもん。」
――そして、最後のデート
きっと梓くんは、あのガイドマップを手に戻ってくるだろう
だけどね、梓くん
私は、一緒になんて行けないよ
「色々考えて…私梓くんにしてもらってばっかりだったから、せめて少しくらい梓くんにも楽しんでもらえるように、今日は頑張るんです。」
「へぇ、それはまた馬鹿なことを考えたね。」
「ばっさり言い切らないでくださいよ。色々吹っ切ったんですから。」
「泣いたあと、微妙に目に残ってるよ?」
「う!…目ざと過ぎやしませんか?本当に…」
目元を少し覆い、容赦のない水嶋先生に視線をやる
「いっそ告白してみれば?」
「えぇ?私だったら自分のこと利用した女なんてごめんですよ?」
「まぁ、それは僕も同意見だね。」
「先生そこは慰めてくれるんじゃないんですねっ?」
そんな女嫌だな、とさらりと言われ、反論する気はないのにびっくりしてしまう
どこまで容赦ないんだ、この人は
「別に良いですよ、先生に嫌われても痛くも痒くもありませんもん。」
「やだな。確かに嫌とは言ったけど嫌いなんて言ってないよ。」
「?」
「次の恋人になってあげても良いって思うくらいには、嫌いじゃないよ。」
そう言って水嶋先生が微笑むと、近くにいた一般客の女性が少しざわついたのがわかった
けれど私はその言葉に思わず眉を下げて笑ってしまった
「水嶋先生なら好きにならないから安心ですね。」
「ちょっと…、それどういう意味さ。」
「――ありがとうございます。」
不満そうな顔をした水嶋先生に、ずっと言いたかった言葉をようやく紡ぐ
「…先生の言葉って、もうすっごいグサグサ突き刺さるし気付きたくなかったこと気付かされちゃうし、本当梓くんの言うように翼くんの発明の実験台にしてやろうかって思ったくらいなんですけど、」
「ちょっと。前後の言葉あってないんだけど?」
ていうかそれ死なない?と口の端を引き攣らせた水嶋先生に、少し微笑んだ
「心配してくれて、ありがとうございました。」
「、」
言い方はどうであれ、あれは私のことをちょっとでも気にかけてくれていたからこその言葉だと、冷静になってから理解した
水嶋先生は星月先生達のことを甘いなんて言っていたけれど、結局のところ、水嶋先生もいい勝負だと思う
私には、分不相応なくらいの優しさだ
「嫌われたら、慰めてくださいね?」
冗談めかして笑えば、水嶋先生も少しだけ笑った
馬鹿だねって声が聞こえそうな、そんな表情で
「和ちゃん」
「はい。…何ですか?」
目の前にひょいと出された小指に一瞬目を丸くする
「ん?約束の指切りげんまん。」
「は、」
「これくらいなら、大丈夫でしょ?手袋越しだし。」
その言い方からしてきっと、リハビリ代わりか何かのつもりなんだろう
決してそれを言葉にはしない辺り、水嶋先生らしいな、なんて思いながらそろりと右手を持ち上げる
「………遅い。」
「優しいのか意地悪なのかわかんなくなるからそういうのやめてくださいよっ!」
思わず突っ込みを入れながらも、ようやく水嶋先生の指に触れた
久しぶりに梓くん以外の人に自分から触れるのはやっぱり怖くて、心臓がやけにうるさかったけれど
弱弱しく絡めた小指に水嶋先生は小さく笑んでくれた
「よくできました。」
「いくつですか、私は…。」
「まぁ、約束したからには守るけど、ね。僕はさっきも言ったようにキミを嫌ってるわけじゃないんだよ?」
「?」
「なるべくなら、キミが笑って終われる最後が見てみたいな。」
その優しい言葉に、私は情けなく笑みを返すことしか出来なかった
そんな未来、私には想像も出来ないから。
(嫌われたらちゃんと慰めてあげるよ、身体で)(ほんっと笑えませんから!)
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