私はこの間の出来事を含め、梓くんと付き合う経緯を全て星月先生に話した
出された温かいお茶を両手で握り締めながら、ぽつりぽつりと話す私の言葉を、先生はただ黙って聞いてくれていた
「なるほどな…。」
ぽつりと呟き、星月先生が私の髪に手を伸ばし、それを止める
「辛かったな…いや、今も辛いだろう…。」
優しい声色に、涙が出そうになった
大丈夫です、と紡ぐ代わりにふるふると首を横に振る
すると星月先生は何かを考えるように顎に手を添えた
「しかし…木ノ瀬は付き合っているんだろう?お前のそれに気付いていないのか?」
「…梓くんは、平気なんです…。」
泣きそうになるのを堪えている声は随分震えていて、なんだかいっそ笑えてくる
「助けて貰ったからだとは思うんですけど…刷り込みみたいに、この人なら大丈夫って思ってるんですよね、きっと。……すみません。先生達だって大丈夫だって、知ってるのに…」
「そんなこと気にするな。今は自分のことを考えていなさい。」
星月先生の言葉に静かに頷き、お茶を一口飲みこむ
身体の内側から温かさが戻っていき、ふぅ、と息を吐く
「美味いか?」
「はい。…自分でこんな美味しく淹れられるなら、月子のお茶じゃなくても良いじゃないですか。」
「自分では面倒なんだ。今日は特別だぞ。」
「…ありがとうございます。」
おどけるみたいに言われ、ようやく少し口許が緩まった
それを見て、先生もどこか安心したように目を細める
けれど、星月先生の提案に私はまた表情を強張らせてしまう
「…朝霞。多分お前は隠しておきたいんだろうが、せめて木ノ瀬にくらい伝えておくべきだと俺は思うぞ。」
「、」
「その方があいつも動きやすいだろう。」
「…言わないで下さい。」
「朝霞…、」
「わかれる…」
「は?」
「…別れるから、言わないで下さい。」
私のその台詞に、一瞬目を丸くした星月先生が、珍しく眉を顰める
「朝霞…お前自分が何を言ってるのかわかってるのか?そんな状態で木ノ瀬と別れて、こんな男ばっかりの学園でどうやって生活していくつもりだ?」
「っ、じゃぁ!これ以上迷惑かけろって言うんですか!?ただの他人に!?」
衝動的に叫ぶと、感情が高ぶったせいでぽろりと涙が一粒零れた
「…梓くんは、私のことなんて好きじゃないんです…。そんな相手にこれ以上頼られても、いい迷惑ですよ…っ。」
きつく唇を噛み締め先生を睨めば、彼は困惑気味に目を伏せ頭を僅かに抱えた
「…だが朝霞。迷惑になるのを承知で、お前だってあいつの手を取ったんだろう?」
「…そうです。そうですよ、だって…!」
こぼれ落ちる
自分の中にはもう抱えきれない感情が、涙と共に
あの日からずっと、ずっと抱えていた
誰にも知られたくなかった、感情
「…だって私、どうでもよかったの。……梓くんなんて、どうでもよかった…。」
あの日、あの倉庫で差し延べられた手に
私は最低なことを思った
―――彼は利用できるんだ、と。
(あの手を取ったのは、綺麗な気持ちからじゃない)
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