「そう言えば世良。お前友達はいるか?」

「はい?」

突然の星月先生の質問に、持っていた味噌汁を思わず零すところだった

「…クラスの人とも会話くらいなら普通にしますけど?」

「他クラスは?」

「……あ、月子先輩とか、哉太くん羊くんとか。」

「あぁ、夜久と幼なじみグループか。」

「うーん、流石に2年は無理だなー。」

一人は嫌われてるみたいですけど、と心の中で苦笑する

「あ、そういえば…何の話ですか?先生方。」

お味噌汁を無事に星月先生と陽日先生に渡し、自分も席について首を傾げた

自分で作るようになってからこの光景はよく見る
最初は星月先生と二人だったけど、話を聞いた陽日先生も含めて夕食を囲むことが増えた
食堂の方が美味しいんじゃないですか?と一度訊いたが、「こっちの方が俺好みだ」とか何とか、さらりと言われてしまった
きっと一人で食べる私に気を使ってくれているんだろうなぁ、と考えると申し訳ないが、やっぱり誰かと囲むご飯は美味しくて、つい甘えてしまっている
だからなるべく二人の好きなご飯を一品用意するのも、いつの間にか習慣になっていた
そんな食卓でいきなり友達の話をされるということは、やっぱり心配されているのだろうか?

「あー、悪い悪い。そうだよな、ちゃんと話さないとだよな。世良のクラスでももう話あっただろ?オリエンテーションキャンプ!」

「あ、ありました。」

「それのグループ決めなんだけどな、基本は他クラスとの交流謳ってるから知らない奴らをグループにしたりするんだ。けど女の子にそれはマズイっつーかキツイっつーか、アレだろ?だからそこだけは友達グループにしても良いってことにしてるんだ。だから夜久は幼なじみグループだし。」

「なるほど…。だから友達いるのか?発言だったんですね。」

星月先生、言葉足りなさすぎじゃないですか?
苦笑いしながらご飯を頬張る星月先生を見やる

「こんなオッサン二人と夕飯食べてるんだ。聞きたくもなるだろ?」

「おっさんって…まだ若いですよ、二人共。でも別に、私知らない人とで大丈夫ですよ?月子先輩みたいに幼なじみとかいないんで…正直誰でも一緒かと。」

率直な意見を言えば、陽日先生が唸りながら机に突っ伏してしまった

「そうだよなぁ…。でもなぁ〜、生徒のこと信じてないわけじゃないが、何かあったらと思うと…!」

「まぁな。こんな小さいし、押し倒されたらおしまいだからな。」

「月子先輩じゃないんですから、そんな物騒なことないと思うけどなぁ…。」

「何言ってるんだ!世良は可愛い!!」

「そうだぞ。夜久は美人だがお前は可愛いだな。美味い飯も作れるし、良い嫁になる。」

「え!?あ、ありがとうございます…。あ、煮物の味、しょっぱくないですか?」

力説されてもそう思ったことはないので曖昧に笑ってごまかして、突っ伏したり起き上がったり忙しない陽日先生の隣で箸を休めることのない星月先生にそう尋ねた

「ん?いや、丁度良いよ。世良は魚料理は作れないのか?」

「作れますよ?今週末買い出ししてきますから、何食べたいか考えておいてくださいね。」

「あぁ、楽しみにしてる。」



「そうだ!!」



「ひゃっ!?」

星月先生とほのぼのと話していたから、油断していた
陽日先生が満面の笑顔で叫んだ衝撃で、少しお茶を零してしまった

「な、何ですか?陽日先生。」

「夜久の知り合いでかためよーぜ!!」

「へ、」

「成る程な…。それなら確かに安心だな。」

「だろだろ!?四人組だから丁度良くメンバー集まるし!」

うきうきと提案する陽日先生に、星月先生が少し首を傾げる

「周りって言うと…、弓道部の小熊と、生徒会会計の天羽ぐらいじゃないのか?一人足りなくないか?」

「それなんだけど…世良!」

「はい!?」

「木ノ瀬を説得してくれないか!?」

「……はい?」

テーブルに身を乗り出して懇願される
けれどその内容に、間抜けな声を出してしまった

「説得って…直獅、お前まだアレやってるのか?」

「まだってなんだよ琥太郎センセ!オレは諦めねぇぞ!!」

「諦めも肝心だと思うがな…。」

「あの、説得って……弓道部の?」

「何だ?世良、木ノ瀬が弓道してたの知ってるのか?」

「え?あ、あぁ!そう、そうなんです!四段なんて凄いですよね!ま、まだ入部はしてくれないんですか…?」

「そうなんだよ、ぜんっぜん相手にしてくれねぇんだ…!!」

(確か…6月1日だったよね、見学…。)

今はまだ4月末だから、ゲームの通り進むのなら陽日先生にはもう少し頑張ってもらわないといけないのか
そう思うと少しかわいそうだなぁ、と机にまた突っ伏してしまった先生に眉を下げて笑う

「でも、私が言っても何の説得力もないと思いますよ?」

「わかんないぞ!木ノ瀬も男だ。『木ノ瀬くんの弓道見たいなぁ〜。』とか言われたらぐらつくかもしれないだろ!?」

「気持ち悪いぞ直獅。」

「うるせぇよ琥太郎センセ!!」

二人のコントみたいな会話は楽しいけど、また話が逸れてしまうからまぁまぁと宥める

「でも、私も仲良くなってみたいです。頑張って話してみますね。」

「おぉ!本当か!?期待してるからな、世良!!」

「え、いやそんな過度な期待は困りますからねっ?会って数分で嫌われたりするかもですし…。」

「お前はそんなタイプじゃないから大丈夫だろうよ。」

星月先生の台詞にそんなタイプだったりするんです、と顔が引き攣ってしまった

(でも、梓くんか。初日以来だなぁ、会うの。)

あの短い会話を彼は覚えているのだろうか?
梓くんだから、そんな些細なことは忘れているかもしれない
興味のないことには、一切関心を向けてくれない人なんだから

でも、もしも覚えていたなら――




「っておい!!聞いてるのか世良!!」

「え!?何か言ってたんですか!?」

「ずっと喋ってただろー!?」

「お前がうるさいからシャットアウトしてたんだろうよ。」

「琥太郎センセさっきからオレ結構傷付いてんだけどわかってる!?」

結局何を話されてたのかは全然わからなくて、おかわりですか?なんて訊いたら違う!と嘆かれた

「あまり気にするな。一年の方は俺も同伴するから何かあったら起こしてくれ。」

「何で寝てるの前提なんですかっ?」

「こういうのは若い奴らが頑張るんだよ。」

ご馳走様、とお箸を置いて星月先生が緩く笑んだ

「楽しむんだぞ、世良。」

「…ふふ、何だか星月先生が陽日先生みたいなこと言ってる。」

「そうか?それはまずいな。」

「どういう意味だよ琥太郎センセー!!」


春の星の下
輝く星座は、さてはていかに




オリエンテーションキャンプまで、あと10日





(というか、凄い目立つメンバーだなぁ、それ。)




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