「美味しい…!!」
ぱくり
月子先輩に勧められて食べた唐揚げに、思わず目を輝かせる
「すっごく美味しいです東月先輩!」
「そっか。それなら良かった。」
「味染み込んでますね、やっぱり漬け込む時間長いですか?」
「ん?あぁ、今日のは一日漬け込んでるよ。手間かけた方がやっぱり美味しくなるからな。」
「なるほど…、今度やってみよう。でも、やっぱり東月先輩のお弁当は美味しいですね。これをいつも食べられるなんて、皆さん羨ましいなぁ。」
「――ありがとう、」
「、」
気まずい雰囲気も忘れて素直な感想を述べて笑ったら、錫也くんもほんの少し笑った
でもそれは、嬉しいとかそういう類のそれじゃなくて
どこか苦しそうな、それでも綺麗な微笑み
どうして彼がそんな表情をするのか、私には全然わからなかった
(それにしても、あれかな。対象キャラ攻略しそこねるって、こういう気分なのかな…?)
ゲームやったことないけど。とご飯を食べ終わり一人悶々と考える
会って数分、それなのに嫌われるなんてある意味私は凄いと思う
嫌うというか、あまり近付きたくないような、敬遠されている感じ
そりゃ、誰とでも仲良くなれるなんて思っていないけれど(不知火会長とか私だって苦手だし)
意味もわからず、というのはもやもやしてしまう
そしてとても居心地がよろしくない
直球で聞いてみようか、それとも時間が解決してくれるか
そんな答えの出ないことをぐるぐる考えていると、依架ちゃん、と声をかけられる
「大丈夫?体調でも悪い?」
「えっ?いえ、大丈夫です!」
「本当?女の子一人って大変だと思うけど、無理しちゃだめだよ?私も力になれることがあったら力になるから。」
亜麻色の髪を揺らし、月子先輩が心配そうに、でも可愛く笑いかけてくれた
なんかもう、本当に仕種の一つ一つが可愛くて女の私でもドキッとしてしまう
飾ることもなく自然体なのに、きらきらふわふわしている月子先輩
みんなが好きになるのはきっと当然なんだと思う
嫌われるなんてこと、彼女はないんだろうなぁ、なんてぼんやり考えてしまった
「依架ちゃん?やっぱりちょっと疲れてるんじゃ…」
黙り込んでしまった私に、いよいよ心配そうな月子先輩の声が届く
大丈夫だと告げようと顔を上げた時、優しく、でも強い決定権を持った声が隣から聞こえた
「世良に無理させても悪いし、そろそろ戻ろうか?」
「、」
「…うん、もう少しお話したかったけど、しょうがないよね。あ、私保健室連れて行こうか?」
「こーら。女の子二人でなんて危ないだろ。ここは男に任せなさい。――世良も、ゆっくり休んできな。」
人当たりの良い笑顔で紡がれ、一瞬で悟る
(これは、帰れって言う意味か、な…。)
月子先輩は気付いていないみたいだけど、哉太くんも錫也くんの態度に何かを感じ取ったらしく、不思議そうに私と錫也くんを見た
やんわりと、けれど確かな拒否
真綿で絞められてるように、じわじわと痛みがくる
これなら、きっぱり嫌いだと言われた方が案外楽かもしれない
胸が少し軋んで、気持ちが昏くなる
けれど月子先輩達の前で弱々しい顔なんてしたくなくて、精一杯笑顔を作った
「私、一人で大丈夫――」
「――じゃぁ、僕が連れてくよ。」
「……え、」
「は…?羊が?」
響いた声にそこにいた誰もが驚いた
羊くんの口からそんな言葉が出るなんて、意外すぎる
けれど当の羊くんはそんなこと気にも留めずに屋上から校舎へと続く扉を開いた
「依架は、僕じゃ嫌?」
「い、いえ。」
というか、保健室に連れて行ってもらうこと自体を遠慮したい
けれどそんなことを言い出せる雰囲気ではなくて、結局、じゃぁ行こうかと甘く笑う羊くんの後ろに付いていくことしか出来なかった
「あ、あの、ご馳走様でした、東月先輩!月子先輩と哉太くんもありがとうございましたっ。」
ぺこっと頭を下げて立ち去った後の屋上で、哉太くんが錫也くんを軽く蹴っていたのは、私の知らないお話
(び、美人と二人きりって緊張する。)
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