それはほんの少しの違和感



「dlicieux…!」

「へ?え?わわわ!よ、と、土萌先輩!そんなぐちゃぐちゃ食べないで下さい!!」

「これすっごく美味しい!全然脂っこくない。」

「え、えーと、恐らく豆腐ハンバーグだからだとは思うんですけど…」

哉太くんに食べさせるのも憚られるのに、まさか土萌先輩まで食べるとは
隣で哉太くんが喚いてるから、盗られたのは明らかだけど

「君のお弁当、錫也のお弁当とはまた違って美味しいね。君、なんて名前?」

「あ、世良、依架です。星詠み科1年の…。」

「依架。可愛い名前だね。僕は天文科2年の土萌羊。羊って呼んで。」

(わぁ…!)

ふわりと笑う羊先輩はとにかく綺麗で、思わず見惚れてしまう
もっと敵対心を向けられるかと思っていたのだけれど…

(お弁当マジック、恐るべし…!)

「羊くんだけズルイ!私、天文科2年の夜久月子です。私も月子で良いから、依架ちゃんって呼んで大丈夫?」

「ぜ、全然大丈夫です!」

羊先輩に気を取られていた私に自己紹介をしてくれた彼女に、私は目を惹かれてしまった

綺麗な亜麻色の髪と、心地の良いソプラノ
白い肌と可愛い二重の瞳は、誰が見ても納得のヒロインだ

(と、いうか…そうか。この人はこの世界では、“月子先輩”って人格がちゃんとあるんだよね。)

ゲームで選択するわけじゃない、この人本人が考えて動く、世界
この世界で、この可愛い人は、どんな道を辿るのだろう?
誰と恋をして、どういう結末を描くのだろう?

「で?」

「え?」

「何で哉太が世良のお弁当食べて、世良が哉太のお弁当食べることになったんだ?」

「、」

視線が合った瞬間、心臓が一瞬萎縮した

「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は2年天文科の東月錫也。俺らみんな幼なじみみたいなもんなんだ。よろしくな、世良。」

「あ…よろしく、お願いします。」

ぺこ、と頭を下げると、彼は人当たりの良い笑顔を向けてくれる
けれど少し、よくはわからないけれど何か不思議な違和感がそこにはあった

「すみません、私がドジしてお弁当ダメにしちゃったから、哉太くんが交換しようって言ってくれたんです。でも私、別に購買のパンでも大丈夫ですから。」

「ばーか。変な遠慮すんなって!な、錫也。」

「そうだよ、私も依架ちゃんと一緒にご飯食べたいもん!」

申し訳なくて首を横に振ったけれど、哉太くんと月子先輩が引き留めてくれる

「…そうだな。哉太の弁当なんだけど、いつも俺がまとめて作ってるんだ。だからこれを一緒に食べることになるんだけど、大丈夫か?」

「えっ?あ、それは全然、大丈夫ですけど…良いんですか?」

「月子や哉太もあぁ言ってることだし、皆で食べた方が美味しいだろ?」

な?と言ってお箸と取り皿を渡され、少し悩んだが東月先輩の隣に腰を下ろした

「じゃぁ、お言葉に甘えて。いただきますね。」

「あ、錫也ズルイ!依架ちゃんの横なんて!」

「月子は僕の横じゃ嫌?」

「え?そういうわけじゃないけど…!!」

しょんぼりとする羊先輩に、月子先輩が慌ててフォローを入れてる
なんか可愛いなぁ、なんてその光景を見ながら、東月先輩が開けてくれたお弁当にちょっとお腹が鳴った

「さ、世良も沢山食べろよ。」

なんとなく
なんとなくだけど、わかる

「――はい。いただきます、東月先輩。」






私、多分錫也くんに嫌われている







(何でか全然わかんないけど…!!)




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