「…携帯も、違う。」

しかもスマートフォンになっている
喜んで良いのか。けど使い方がわかんない
仕方なく携帯を机に置き、ぐるりと部屋を見る
簡単なワンルーム
寮なんて初めてだが、なんだか落ち着かない
けれどその前に、はらはらしてる

「トリップ…てやつかな…これは。」

保健室で見た「夢」

梅雨の横断歩道
視界いっぱいの乗用車
私はきっと、一度死んだんだ



ぐぅ



可愛くない音をお腹が立て、真面目に考えてた集中力が途切れた

「…ご飯、食べよ。」

はぁ、と溜め息一つ
使えない携帯を片手に、私は食堂へと足を運んだ



「…おぉ、」

食堂にたどり着けば、見渡す限り男子
これはもうときめきより恐怖しか出て来ない
こんなところで青春なんて出来るか!とゲームを批判しながらも、平静を装って一歩踏み出す

(…視線が……)

痛い、というか、怖い
値踏みされているかのような、感覚
ここで見る女子が珍しいからだろうけど、そんな見られても私はゲームのヒロインみたいに可愛くないから、困るばかり
右も左もわからない
味方どころか、知り合いもいない
そもそも、私の世界じゃない場所
急に襲ってきた、言いようのない恐怖感

かたかたと、全身が震える
あれから何時間も経ったけれど、目が覚めることはない
むしろドアにぶつかれば痛かったし、物を持ち上げた重さや体感する春は、間違いなくリアルだった

――嫌だ

ここは何なんだろう?
私は?私は、どうなったの?
死んでしまったんだと、漠然と理解はできる
けれど、じゃぁ今私はどうしてここにいるんだろう?
どうして、あそこで私の全ては終わらなかったの?
この手の中にある携帯は、誰にも繋がらない
私の親は?友達は?私はここで、何をするの?



私は 何 ?






「ねぇ、大丈夫?」






綺麗な、アルト
暗かった視界に、急に光が戻ったような感覚

「え…、」

「キミ、始業式で倒れたんでしょ?まだ本調子じゃないんじゃない?」

振り返れば、綺麗なアメジストの瞳
気高い雰囲気は、何回も見たことがあった

「……あ…、」

思わず、名前を紡ぎかけた
あぁ、本物はこんなにも格好良いのか
画面越しだと、どうしても可愛い子だなと言う印象が強かったけれど、目の前の彼は、ちゃんと男の子だった

「…ねぇ、悪いことは言わないから、今日は大人しく部屋に戻れば?自分の体調管理くらい、しっかりしなよ。」

ぽん、と掌に、銀色のパックが置かれる

「そんなぼーっと突っ立ってたら、喰われるよ?」

手短に、と言った感じでそれだけを言い相手は席に行ってしまった
少し小馬鹿にされたような口調、的確な指摘
聞いてた通りだけれど、それより私は、手の中の宇宙食に彼を見た気がした
これはきっと、彼なりの優しさだ

「あ、あのっ、ありがとう、木ノ瀬くん…!」

「え?」

驚いたようにこちらを振り返った彼に、ぺこりとお辞儀をして食堂を後にした
この世界で初めて触れた優しさに、胸を少し、震わせながら



「ぬぬ?梓、あの女子と仲良くなったのか?」

「まさか。あんな無防備に立ってたら他の奴らが、変な気起こしそうだったから、忠告しただけ。入学早々面倒なこと起きても嫌だろ?」

この学園には二人しか女子が居ないんだ
もう少し警戒心を持たないといけないんじゃないか?とぼけっとしていた彼女に少なからず呆れた
だから少し辛辣に言葉を紡いだつもりが、まさか感謝の言葉で返されるとは

(というか、何で僕の名前知ってたんだ?)

「……世良、依架だっけ?」

弓道でもやってたのだろうか?
今年唯一の女子の名前を小さく呟き、梓は自分の夕食にありついた






(木ノ瀬くん、意外と背が高かったな…)




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