「そうか。世良は木ノ瀬のこと、ちゃんと誘惑出来たのか。」

「ゆっ!?ほ…星月先生、誤解しか生まれないからやめて下さいよその言い方…。」

「そうか?あながち間違ってもいないと思うぞ。それに天羽も誘惑したんだろう?案外魔性の女なんだな、世良。」

「だから違いますってば!」

のどかな風が吹く山頂で、お茶をすすりながら星月先生が楽しそうに隣で笑う
明らかに楽しんでいるその様子に、私は少し唇を尖らせた



「でも、ハイキング女子は不参加で良いって聞いてちょっと安心しました。」

「ハイキングって言うにはこの山の傾斜は少しきついからな。元々男用に組んであるメニューなんだ。宇宙科でもないんだし無理はしない方がいいだろう。」

「なるほど…。で、ちゃっかり星月先生もロープウェイってわけですか。」

「可愛い生徒をこんな山頂に一人で待たせておくわけにはいかないだろう?他の先生より、俺の方がお前と仲が良いんだ。これはお前の為の人選でもある。」

「凄く上手い感じにまとめましたね…。」

自分が楽したかっただけなんだろうけど、とその言い分に苦笑する
でも正直、先生の言うとおり星月先生と二人きりが一番安心できる
一方的ではあるが、知っているというのはやっぱり楽だなぁ、なんて考えつつ、自分もお茶を啜る

「それにしても、この後ここで勉強って聞きましたけど、こんな山頂で何を勉強するんですか?教材もなければ星もないですよ?」

「何言ってるんだ。太陽だって立派な星だろう?昼の星の知識もしっかり身に着けてこそ、立派な星オタクってもんだ。」

「なるほど…。…夜だけでも精一杯なのに、頭パンクしそう…!」

もう今でもパンク出来ます、と嘆けば、苦笑交じりに星月先生が頭を撫でてくれた

「まぁ、星詠みの奴らは星が好きって言うより、力のコントロールの為の入学だからな。そういえば、世良はどれくらい力があるんだ?」

「え?」

「特待生ってわけでもないから、神楽坂ほどではないんだろう?」

「か…?え?」

かぐらざか?

聞いたことのあるようなないような名前に、首を傾げる

「何だ、知らないのか?星詠み科唯一の特待生だから、有名かと思っていたんだが。」

「いえ、多分知ってるはず…?」

そんな肩書きを持っているのであれば、きっと物語の中でも大きく関わってくる存在なのだろう
かぐらざか、星詠み、特待生。ん?星座は何座になるんだろう?

(――あ、)

「蛇遣い座の四季くん!!」

「ぅおっ!?」

「あっ、すみません!知ってます知ってます!いや、知りませんけど。」

「どっちなんだそれは。」

「いえ、名前と存在は知っていますけど、謎に包まれていてそれ以外は知らないんです。」

私が知っているのはあくまでゲームの知識だけ
彼は確か特典のCDで存在が明らかになった人物だったから、主要キャラだけど、唯一何も知らない人なのだ

(そっか。私が知らなくても存在するわけだから、関わるんだよね…。)

「神楽坂、先輩?って、不知火会長よりも力は強いんですか?」

「あぁ。なんせ特待生だからな。あいつはもう殆ど、力をコントロールしているようなもんだよ。」

「コントロール…。」

じゃぁ彼は、本当の意味での星詠みなんだろう

(…彼も、)

彼も、傷付いたりするのだろうか


誰かを、守るために

「…やっぱり、コントロール出来るようになるのが目標か?」

星月先生の問いかけに、少し言葉に迷う

「うーん…。コントロール、というより…私はこの力で何をするのかが、知りたいです。」

じっと自分の手を見つめ、落とすように紡いだ

「どうして私だったのか、私である必要があったのか…。」

誰かを特別好きだったわけでもなく、曖昧な知識しかない自分
星詠みというには、酷く不安定なこの存在
どうして、私だったんだろう?




――この世界での、私の存在意義は何なんだろう?




「依架ー!」


「ぅわ!?」

勢いよくドンっと背中に衝撃を受け、身体が前に倒れる

「こら天羽。世良が潰れるだろう?」

「ぬっ、素足隊長ずるいのだ!依架を独り占めしてー!」

「あま、天羽くん、ギブ…!」

いくら身長の割に軽いからといっても、重いものは重い
なんとか踏ん張ってみたけれど本当に転んでしまいそうで、震える声で精一杯アピールしてみた

「こら翼、星月先生の言うとおりだよ。早く離れなよ。」

「あ、木ノ瀬くん。もう登ってきたの?」

「翼が依架依架って喚きながらさっさと登って行くもんだから、追いかけてたらこんな早く着いちゃったんだよ。まったく、小熊なんてあっちでばててるんだけどね。」

懐かれ過ぎも困り者だね、と呆れたように笑った梓くんは、前から私を庇うように翼くんの体を押し返し、そのまま彼から距離を取ってみせたすると案の定後ろからすぐ文句の声が聞こえてくる

「ぬあー!梓!抜け駆けするなよー!」

「どっちかって言うと救助なんだけどこれ。っていうか、抜け駆けって言うのは翼みたいなことを言うんだよ。」

「あ、あの、」

庇ってくれたのはとてもありがたいのだけれど、だからと言って梓くんの腕の中も落ち着くものではない
離してほしいのに頭上で繰り広げられる口論に口を挟む隙がなくて、眉を下げて星月先生に助けを求めた
すると目が合った星月先生は、どこか面白そうにくすくす笑って世良、と私の名前を紡ぐ



「ここに居るのがお前である必要があるって言うのは、それで充分じゃないか。」



「え…」

「折角の星の巡り会わせだ。そんな深刻に考えなくても良いだろう。」

「ぬ?何の話だ?」

翼くんや梓くんが首を傾げる中、星月先生は私にだけわかる言葉を紡いでみせた





「言っただろう?楽しみなさいって。」




どうせなら、ここで起こること全部、楽しんでみろ。





そう言った星月先生の表情がとても優しくて





「――はい…っ。」





泣きそうになってしまったことに、誰も触れないでと小さく願った









(ところでお前ら、三角関係か何かか?)(さ!?ぜ、ぜんっぜん違いますからね!?)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -