「驚いた。どうやって手懐けたの?世良。」

「ぬぬぬ〜、手懐けるって何だよ梓ー!俺は犬や猫じゃないぞ!」

「うーん…大型犬じゃないならおっきい子供かなぁ、天羽くん…。」

重いよ、と
後ろから私を抱きしめる振りをして頭を顎置場に使っている翼くんに苦笑した
朝からこれで、昼のオリエンテーションハイキングは離してくれるのだろうか




午前中は互いの学科のことを知ろう、と言うことで、今まで習った必修科目授業を簡単なレポートにすることから始まった
私と小熊くんがもたもたしている間に、流石というか何と言うか、学年首席と次席はタッグを組んでとんでもないレポートを作成してしまっていた
おかげで早々に終わらせた翼くんがずっとこの状態である

(なんか、可愛いから良いけどさぁ。)

「昨日逢い引きしてたんだって?ちょっと噂になってるけど。」

「あ!?ち、違う違う!それは星月先生が勝手に言っただけで…!わ、私なんかが恐れ多い…!」

「…っふ。あはは!翼相手にそんな言葉言う子、初めて見たよ…っ。はは、やっぱり世良は変わってるね。」

恐れ多いって、翼が?とお腹を抱えて笑う貴重な梓くんにドキドキしつつも、気持ちは複雑だ(翼くんがその反応に怒っていたけれど)

「…ね、小熊くん。私ってそんなにも変かな?」

「え!?そ、そんなわけないよ!世良さんが変だったら、うちの部はすっごく変な人しかいないよ。」

「犬飼先輩とかに聞かれたらイジメられるよ、小熊くん…。」

笑顔で意外と言うね、と顔を引き攣らせると、小熊くんが首を傾げた

「あれ?世良さん、犬飼先輩達のこと知ってるの?」

「……陽日先生!に、聞きました!」

「え!?う、うん、そっか…。」

「ぬ、依架変だぞ?」

「ちょ、ちょっとね。」

(いい加減このうっかり発言なくさないと…いつか追い詰められそうだなぁ。)

一体今自分は何を知っていて、何を知らないのか
書き出して整理とか、そういうことをした方が賢いかもしれない

「あ…、そうだ。ね、木ノ瀬くんはまだ部活入らないの?」

ふと先程の発言で、キャンプ前に懇願してきた先生の言葉を思い出し、隣に目線をやる

「え?あぁ…まだも何も、入る気はないんだけどな。それも、陽日先生?」

「うん。大分嘆いてたから。」

「僕としては、いい加減飽きてほしいんだけどな。」

「うーん、多分無理だね、それは…。」

だって諦めたら梓くん、弓道部に入らないわけであり
それはもう物語として全てが終わってしまう

「一回、見学くらい行ってみたらどうかな?」

「見ても入る気がないんだから、そういうの時間の無駄じゃない?」

「無駄じゃないよ。」

はっきりとその言葉を否定すると、梓くんが少し不思議そうにこちらを振り返る

「きっと、素敵な青春が待ってるよ。」

画面越しに少し憧れた、あの場所は、梓くんが居てこその世界






「木ノ瀬くんの弓、私も見てみたいな。」






きっと綺麗なんだろうね、と笑えば、梓くんのアメジストの瞳が僅かに揺らいだ

「ぬ、俺も見たいのだ!」

「え?天羽くんも見たことないの?従兄弟なのに?」

「うぬ!梓は中学の二年間しかしてなかったから、俺は見れなかったのだー。」

「ぼ、僕も見てみたいな。木ノ瀬くんの弓。」

私の言葉に梓くんの弓を見たいというリクエストが陽日先生だけじゃなく翼くんたちにまでうつってしまった
おかげで梓くんが物凄い迷惑そうな顔で私を見ている、不可抗力なんです。

「……はぁ。わかったよ。少しだけ考えてみるよ。」

「本当?」

「考えるだけだからね、あんまり期待しないでよ、世良。」

「ふふ、楽しみにしとくね、大会とか。」

きっと今の私は人の話を聞かないダメな子なんだろうな
でも、だって知っているのだから、どうしても心が浮き立つのは仕方ない

きらきらと輝く夏の光を浴びて、鮮やかな極彩色で彩られたあの夏の一枚





今度はこの瞳で、身体で

彼らと一緒に感じれる日は、そう遠くない未来のお話





(というか星詠みのレポートとか書けない…!)




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