「で、ここに座標の数値書いて。…そう、それで完成。」

「…っ、出来たぁ…!うぅ、ありがとう木ノ瀬くん、私夜が明けるかと思った…!」

「それって連帯責任で僕らも朝までコースだよね。流石にそれは辛かっただろうな。」

ふぁ、と欠伸を小さく漏らした梓くんに、申し訳なさが込み上げる
夜の天体観測課題がいつまでも終わらない私に皆を付き合わせてしまったのだ、反省しないと

「ご、ごめんね本当に。小熊くんも天羽くんも…。もう他の班、終わってるのに。」

「気にしないで世良さん。僕も木ノ瀬くんの解説聞けて良かったし。」

「それに世良、何だかんだ言っても理解するのは早かったんだから、すぐに身につくよ。でもそれ、結構基礎だよね?入試とか大丈夫だったの?」

「えっ?」

木ノ瀬くんの素朴な疑問に心臓が跳ね上がる
そんなもの、内容すら知りません

「あ、やっぱり星詠み科は入試も特殊だったの?」

「いや、まぁ…企業秘密、ということで…。課題終わったし、寝ようか!えっと、課題は先生に提出してから寝るんだよね?お詫びも兼ねて私皆の分出して来るね。」

「え、悪いよそんな…」

「大丈夫だよ。むしろこれくらいやらせてくれないと申し訳ないから。」

やらせて下さい、と言い寄れば、じゃぁお言葉に甘えて、と小熊くんがノートを差し出す

「また明日、世良さん。」

「うん、おやすみなさい。」

梓くんからもノートを受け取り残るもう一人を捜すと、未だに翼くんは空を仰いでいた

「天羽くん、もう観測の時間、終わったよ?」

「ぬ。…俺、もう少しここに居る。」

ほんの少しだけ私に目線をやって、またそれを星空に戻す
ノートは地面に無造作に置かれていたからこのまま持って行けるが、何となく、このまま彼を一人にするのは躊躇われた
翼くんと同じように空を見上げれば、今まで見たこともないくらい近くに、沢山の星が輝いている
課題の為に見ていたさっきとはまた違う、純粋に見るそれはとても綺麗で、暫く二人とも黙ったまま立ち尽くしていた
そういえば、彼がこうやって星を見ているシーンがあったっけ?

(確か…おじいちゃんとのお話で…何て言ったっけ?)








「――魔法みたい。」









「え…?」

「――だったっけ?」

ふふ、と小さく笑んでみせれば、目をめいいっぱい丸くした翼くんが私を見る
どうして、と言いたそうな彼を横目に、私は右手を空に翳す

「何となくわかるなぁ、それ。私星座の形とかちんぷんかんぷんだから…、さっき木ノ瀬くんに教えてもらっただけでもちょっと感動したもん。」

星と星を繋ぎ合わせ、紡がれる星座と、物語
何百年何千年の時間を越えて今に受け継がれるそれは、無知な私の心ですら震わせた

「星って楽しいね。」

そう言って翼くんを見れば、少しだけ切なそうな表情で彼は私を見つめた

「うん。だから、朝が来るのが寂しかった…。」

星の輝きに照らされる翼くんは綺麗で、けれど少し頼りなく、儚く、私の目に映る
その危うさに、彼の手に触れたのは本当に無意識だった
ぴくりと身体を強張らせた翼くんと、視線が絡まる

「大丈夫だよ、天羽くん。」

「え、」




「朝が来たら、私達と一緒に楽しいことして夜を待つの。夜が来ればまた魔法の時間でしょ?そうやって、毎日を繰り返していけば良いんだよ。」




そうしたら、寂しいなんて思う時間なくなるでしょ?





ね?と笑えば、翼くんが少し目を瞬かせた
それから暫く沈黙が流れてしまい、私は内心冷や冷やしてしまう

(な、なんか変なこと言ったかな?私…。)

また嫌われたらどうしよう、なんて半分トラウマになりながら翼くんの返答をじっと待つ
ここに来てから、トラウマばかり増えている気分だ

「…それって、依架は俺の傍に居るってことか?」

「え?そりゃぁ友達だもん、…あっ、ウザい!?いや別に私じゃなくてもほら、木ノ瀬くんとか会長とかと一緒に…っ、」

慌てて弁明していると、不意に触れていた掌の熱に力がこもった

「…あまはくん?」

今更だけど、手を繋いでいるんだと
急に意識をして、少し声が震えた
それに今、私の名前――…





「…依架もぬいぬいも、皆変な奴なのだ。」





「…えっ?会長と同じなの?私。」

心臓の高鳴りも忘れ、それは喜べない、と眉を下げる
すると、ふはっと笑みを零す声が落ちてきた

「ぬはは、同じなのだ!」

(あ、)

「笑った…!」

「ぬ?」

屈託のない笑顔を、翼くんが見せてくれた
画面越しによく見ていたそれを初めて目の前で見ると、何だか酷く懐かしいような、嬉しいような
上手く言葉では表せない感情が胸をいっぱいにして、思わず私も顔が綻んでしまう




「天羽くんは、やっぱり笑ってる方が良いね。」




思ったままの気持ちを言葉にすれば、翼くんは少しだけ不思議そうに私を見つめた

「依架は、昔から俺のこと知ってるみたいに言うんだな。星詠みって、過去もわかるのか?」

「え!?…ど、どうなのかな?わかんないんじゃないかな?」

「訊いてるのは俺だぞ?」

「だって私もわかんないもん。星も星詠みもさっぱりで…。」

あはは、と力なく笑うと、翼くんは益々訳がわからないと言った表情をしていた、当たり前だけど
曖昧に笑ってそれをごまかし、小さく呟く



「…でも私、天羽くんの気持ちはちょっと解るんだ。」




「…ん?何か言ったか?」

「…ふふ、ねぇ天羽くん。折角だからさ、私に魔法、かけてくれる?」

「ぬ?」






「星、教えてくれない?」







ねぇ、天羽くん







一人ぼっちは、寂しいよね







(数十分後、お前ら逢い引きも良いが課題を提出しなさい。と星月先生に怒られました。)



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