「世良、ジャガ芋は切り終わったよ。」

「ご飯はまだかかりそうかな。世良さん、僕お皿貰ってくるね。」

「あ、お願いします小熊くん。…あの、木ノ瀬、くん。」

「何?」

「天羽くんは何してるの?」

私の素朴な疑問に、彼はあぁ、と翼くんを見た

「またわけのわからない発明してるだけだから、気にしないで。」

「いや、逆に気になるからね、それ。」

オリエンテーションキャンプ一日目の昼食
定番のカレーを皆で作りながら、私は同じグループの三人に苦笑いした
やっぱり目立つ、このメンバー




「こう言うのもあれだけど、普通のカレーが食べたいなら翼には手伝わせない方が得策だよ。」

「そんなことないよ、野菜切るくらいなら爆発しないでしょ?」

「それはそうだけど、本人が関わりたくないみたいだから、さ。」

無理強いさせるのもどうかと思うし、とさっきから発明に夢中になっている翼くんを見ながら、梓くんが紡ぐ
その様子に、ふと翼くんのことを思い出した

(そっか……確か、人との関わり方、下手くそだったっけ?)

ゲームの中では月子先輩主体だったから、最初から懐いている印象があったけれど、彼はまだ懐く前の猫か何かなんだろう
朧げな記憶を頼りに彼をなぞり、その後ろ姿をじっと見つめた

「世良?」

梓くんの声を聞きながら、ゆっくりと翼くんに近付く

「天羽くん。」

名前を紡げば、僅かに大きな背中が震える
ぎこちなく振り返った彼は、画面の向こう側で見るときより随分感情が希薄な印象だった

「…何?」

「野菜の皮剥き、手伝って欲しくて。」

「…それくらいなら、梓の方が早くて上手いぞ?」

「上手い下手じゃないよ。こういうのは皆で作るから意味があるんだと思うな、私。」

「意味?」

「誰かと一緒に作って食べるご飯は、美味しいんだよ?」

隣に寄り添うみたいにしゃがみ込むと、翼くんの手元が気になった

「…何作ってるの?」

「……皮むっきむきくんなのだ。どんな皮も剥けるんだ。」

ぽつり
彼が小さく呟いたそれに、私はふふ、と笑ってしまう

「どうして笑うんだ?」

「だって天羽くん、わざわざ作ってくれたんでしょ?なんか、ちょっと嬉しい。」

距離をはかりかねて遠くから見ているけれど、翼くんがこちらを気にかけてくれていたことが、嬉しい
そう思って笑えば、翼くんが目を丸くして私を見る
そしてぽかんとしているその隙に、彼の手から発明品を奪い取った

「ぬぬ!?」

「でもこれはキャンプ中は没収します。」

「何でだ!?」

「天羽くんの発明は凄いけど、こういうのは自分の手で作ってこそ美味しいのです。」

「ぬ…、でも書記が淹れるお茶はまずいぞ?」

「え?いや……。…個性、だよね?小熊くん?」

「えぇっ!?ぼ、僕に振らないでよ世良さん〜。」

そうか、月子先輩は凄いお茶を淹れるんだった
流石にコメントに困り小熊くんを振り返れば、お皿を抱えた小熊くんも困ったように眉を下げた

「と、とにかく!そういうことで、天羽くんはニンジンさん担当です。ピーラーで皮剥いてね?」

ぽん、と発明品を奪われ手持ち無沙汰な彼の手中に、ピーラーと人参を置く
するとしばらくそれを見つめていた翼くんが、こちらに視線をやる
その瞳は、先程よりも少し色を深め、しっかりと私を映していた

「なぁ、」

「はい?」










「名前、なんて言うんだ?」









あまりにもきょとんとした表情でこちらを見るもんだから、私は苦笑いを零してしまった






「1時間くらい前に自己紹介したんだけどね、天羽くん。」

――どれだけ興味を持たれていないんだ私は
「この短時間で興味を持たれる人間なんて、充分凄いと思うことなんだけど。」と
少し凹みそうになった私に、世良は変わってるね、なんて梓くんが少し笑う音がした







(それは、褒め言葉には聞こえないんだけどなぁ。)





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