スロウリィ・ブロッサム

大人だって青春したって良いと思うんだ
そう言ったら、琥太郎くんは俺はそんな元気ないぞ、と笑って言った




「琥太郎せんせい居ますかー?」

ノックもそこそこに扉を開けると、二日前に片付けたばかりの保健室が酷い有様になっていた
たった二日で、何故
呆れる私に、私を出迎えた相手も呆れた表情を向ける

「風丘…用事もないのに来るなって言っただろう?」

「ちがっ!今日は差し入れと言う名の用事を作ってきました!あと、片付けって用事が今出来ました…。」

ぴしゃん、と扉を閉めて帰る意思がないことをあらわにすると、琥太郎先生は少し溜め息を吐いて諦めた

「保健係でもない奴がこんなに入り浸ってたら、怪しまれるだろ?お前は俺らの関係を理解してるのか?」

「そうなんですよね…、どうして私じゃんけん負けたんだろう。なりたかったなぁ、保健係。」

「風丘、お前な…」

「わかってます。わかってますけど、星月先生…琥太郎くんの言うことずっと真面目に聞いてて一ヶ月話さなかったあの日々を私は教訓にしてるんです。」

忘れもしない付き合ってから初めての壮絶な大喧嘩のことを言うと、琥太郎くんは未だに渋い顔をする

「あれは、理事の仕事も立て込んでてだな…」

「わかってます。だから、私が会いに来るんです。一週間に一回くらい、許してほしいな。」

ダメですか?と訊くと、少し困ったように眉間にシワを寄せてから、くしゃ、と髪を撫でられた

「まったく…。優希には敵わないな。」

二人の時にしか紡いでくれない自分の名前に、自然と口元が緩む

「大体そんな頑張らなくても、宇宙科の定期診断で一ヶ月に一回は二人きりになれるだろう?」

「待って!月一で我慢させようとしてたの!?」

折角嬉しさが込み上げたのに、今の発言で全てどこかへ流れていってしまった
本気かこの人は。

「琥太郎くん…仮にも私は青春真っ盛りの女子高生だよ?それを月一の、しかも健康診断って言う私の何もかもが赤裸々になっちゃう嬉しくないイベントの時だけの逢瀬で満足させようなんて酷すぎません…?」

それとも枯れてるの?と琥太郎くんの白衣を恨みがましく掴みながら言えば、琥太郎くんはくすくすと笑いを零した

「嘘だよ嘘。俺もそこまで枯れちゃいない。いつもお前にばかり来させて、悪いな。」

切れ長の瞳を柔らかく細め、琥太郎くんが甘く微笑む
何だかんだ言っても、琥太郎くんは私に甘い
時々変に真面目になりすぎたりするけれど
女心を全然わかってくれないけれど

そういう琥太郎くんも、凄く好きで、愛おしくなる

「琥太郎くんが私を訪ねて来たらそれこそ噂になっちゃいますよ。大丈夫です、今日だってちゃんと理由作ってきたし。ね、片付けする前に一緒にこれ食べませんか?」

「ん?…ガトーショコラ?」

がさ、と差し出した袋の中身を確認して、琥太郎くんがきょとんとする

「うん!甘さ控えめにしてみたんです。琥太郎くん気に入ってくれたら嬉しいなぁ。」

「優希が作ったのか?」

「そうですよ?って言っても、錫也くんにちょっと助けて貰っちゃったけど。」

一緒に持ってきていた紙皿とフォークを準備しながら琥太郎くんの問いに答える
どうしても自分一人で作ると、甘さ控えめの美味しいケーキが出来なくてついつい錫也くんを頼ってしまった
嫌な顔一つしないで付き合ってくれた錫也くんには大感謝だ

「お菓子の練習ってことで、今度から口実これにしようかなぁ。」

錫也くんの名誉の為にも、琥太郎くんが美味しいと言ってくれますように、と心の中でお祈りする






「――優希、やっぱりここに来るな。」






「え?」

お皿の用意が終わったと思ったら、そこには何故か無表情の琥太郎くん
この一瞬で、何があったのかと思うくらいのそのギャップに、流石に私も不安感が広がる

「…琥太郎くん?私、何かしました…?」

「あぁ、したな。」

かたん
持っていたフォークを取り上げられ、琥太郎くんがそれを机に置く
両手で私の顔を包み込むと、視線を絡めるように見つめられた








「俺の為でも、他の男と二人っきりになんてなるんじゃない。」








ちゅ
可愛いリップ音と柔らかな熱を唇に残し、琥太郎くんが離れていく

「わかったか?」

擽るように顔を撫でられ、頬が熱くなるのを嫌でも自覚する

「…顔、真っ赤だぞ。」

「あ、当たり前じゃないですか!こんな…!」

(びっくりした、びっくりした…!)

どきどきと凄い勢いで鳴る心臓を鎮めながら、緩く笑んだ琥太郎くんを見る


本当に、驚いた


「…琥太郎くんもやきもちなんて、やくんですね。」


素直に自分の思ったことを伝えれば、少し面白くなさそうに琥太郎くんはそっぽを向いてしまった





「久しぶりに会った恋人に他の男の話なんてされたら、流石に俺も堪ったもんじゃないからな。」







――ほら、こういうところとか







「ふふ、青春してますねぇ、琥太郎くん。」

「うるさいぞ。まったく、優希と居るといつもの10倍は体力も気力も使う。」

「青春謳歌中の女子高生ですから。付き合って下さいね、琥太郎くん。」

いたずらに笑って紡げば、しょうがないなと言って、琥太郎くんが眉を下げて笑った






青春は、まだまだ終わらない






(やきもちやいてもケーキは食べるんですね)(作ったのはお前なんだから、食べないわけにはいかないだろ?)








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