166cmの甘いおねだり

久しぶりに街に出ての梓くんとのデート
嬉しくてちょっと張り切って可愛い格好をしたのだけれど

「…おーい、梓くーん。機嫌直してよー。」

「別に元々機嫌なんて悪くないですよ。」

梓くんが拗ねてしまいました



(うーん、ヒールはまずかったなぁ。)

少し口を尖らせている梓くんは可愛いのだが、折角久しぶりのデートなのだから楽しく過ごしたい
そもそもの原因は私が張り切ってブーツを履いたところにある
およそ10cmのヒールと、元々の身長が手伝い――要は梓くんより身長が高くなってしまったのだ
少しだけ、本当に少しだけ私が見下ろす形はやっぱり梓くんには不本意らしく、さっきから少しだけ二人の間に距離がある

「梓くんごめんね?だけど、これ可愛かったからつい買っちゃって…。どうせなら梓くんに見てもらいたいなぁって思ったんだけど。」

「そんなの履かなくても、優希先輩は充分可愛いです。」

「いや、そんな真顔で言われても…」

嬉しいけど困るから、と思わず眉を下げてしまう

「…でも、意外。梓くんはそういうの気にしないタイプかと思ってた。」

「…そうですね。確かにあまり気にはしませんけど、好きな人相手なら別です。」

はぁ、と小さく溜め息を吐き、ようやく今日初めて手が繋がれて距離が縮む


「少しくらい、格好つけたいじゃないですか。」


「梓くん…、」

「あと、見下ろされるより見下ろす方が好きなんで。」

「そっちが本音か。」

私のときめきを返して、と思わずツッコミを入れてしまったのは仕方がないことだと思う
その言葉に、梓くんが僅かに笑みを浮かべた

(あ、)

「ね、梓くん。同じ目線って悪いことばっかりじゃないと思うよ?」

「え?」

「ホラ。」

少し梓くんの手を引き、歩みを止めさせて向かい合う形になる





「ね、いつもより近くに梓くんがいる。」




ふふ、と笑うと、紫の綺麗な瞳が丸くなった
いつもは斜め下からそれを見上げているけど、今日は隣を見ればすぐに梓くんがどんな表情をしているかわかる
私だって少し不思議な気分だけど、それがちょっと嬉しいのだ

「…ちぇー。優希先輩って本当に狡いですよね。そうやって僕の機嫌、簡単に直しちゃうんですから。」

「あ、直ってくれた?」

「そうですね。そうやって考えたら、同じ目線も悪くないのかもしれませんね。」

諦めたように眉を下げて笑う梓くんに、私もついつい頬が緩む

「でしょ?でも梓くんは直ちゃん先生と違ってまだまだ伸びるんだろうなぁ。あーぁ、私ももう少し伸びないかなー?」

「優希先輩はそのくらいの方が可愛いですよ。」

「うーん。でもさ、この方が内緒話とかキスとかしやすそうじゃない?いっつも梓くんに屈んでもらってるから。」

いっそ梓くんの身長も止まらないだろうか。
そんなことを考えるていると、ふ、と小さく笑う音がした

「せーんぱい。」

「え?っ、」





ちゅ





可愛いリップ音と共に、柔らかいものが唇に触れる

すぐに離れていったそれが何かを理解した瞬間、かあぁ、と頬が熱くなった

「あ、あずさくん…っ!こ、ここ外なんだからね!?」

「大丈夫です、誰も見てませんよ。それに、優希先輩が言ったんじゃないですか。キスしやすそうって。」

「そ、うだけど…。だからってき、キスしてほしいとか、そういうのじゃ…!!」

「あれ、そうなんですか?僕にはキスしてほしいって聞こえましたよ?」

いけしゃあしゃあと言ってみせる梓くんは、さっきまでの不機嫌なんてどこにもなく、にこにこと笑っている
機嫌が直ったのは嬉しいけど、この状況は素直に喜べない

「なるほど。こういう可愛いおねだりなら、また履いてくれても良いですよ?」

「は、」





「でもその時は、覚悟してて下さいね。先輩。」






――その後、私がそのブーツを履かなくなったのは言うまでもない。











(まぁ、履かなくてもキスはしますけどね。)(!?)









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