近付ける距離

願わくば、またこうやって



「すっごいねぇ…!ホワイトクリスマス!!」

積もってる!と間抜けな顔で大はしゃぎする風丘に少し呆れた笑いが込み上げる

「風丘、あんまり上ばっかり見てたら転ぶよ。」

「だーいじょうぶ!でも本当凄いね!私結構都会だったから、積もるの見るの初めて!」

「僕もこんなに積もるのは初めて見たな。流石田舎だね。」

「ねー!こんな派手なクリスマスパーティーも初めて!楽しかったね、木ノ瀬くん!」

「そうだね。翼の発明品も出て来なくて安心したよ。」

言葉を話すだけで、周りが白く霞む
初めてのクリスマスパーティーは、はっきり言って想像以上だった
夜久先輩がこの頃てんてこ舞いだったのも頷けるくらいのきらびやかさで、ずっと隣をキープしていた風丘はずっと口が開きっぱなしで少し笑えた

(まぁ、そこも可愛いとか思うんだから、僕も重症だな…)

「でもごめんね木ノ瀬くん、わざわざ寮まで送って貰っちゃって…」

「別に平気だよ。寧ろ、風丘を一人で帰らせた方がちゃんと辿り着けたか心配で気が気じゃないから。」

「え、そんなにかな?」

「何もない所で転ぶんだから、夜の雪道なんて危なすぎ。」

「ふふ、じゃあ木ノ瀬くんはお守りかぁ、ごめんね。」

「お守り、ねぇ。」

予想してたけど、彼女は自分の人気を自覚しなさすぎる
まさか風丘を寮に送るのは誰かと、じゃんけんをしたなんて彼女は思ってもいないだろう(最後はもう心理戦だった)

「風丘、」

「うん?ひゃ、」

すぽ

振り向いた風丘の頭に、ずっと隠し持っていた物を被せる

「……イヤーマフ?」

もふ、とふわふわのイヤーマフを触り首を傾げる風丘が可愛くて、思わず笑みが零れた

「クリスマスプレゼント。いつも髪あげてるから、耳寒いかなって思って。」

「え?えっ?で、でも、悪いよ!」

「何で?さっき風丘もくれたでしょ。」

そういってさっき貰った可愛い袋を揺らせば、それはそうかもだけど、と困ったみたいに眉が八の字になる
だけど僕は狡いから、拒む言葉なんて言わせてあげない

「そんな顔されるより、風丘がありがとうって笑って使ってくれたほうが僕は嬉しいんだけど?」

少し赤い鼻をきゅっと摘んでやると、一瞬目を丸くした後、へへ、と柔らかく笑顔を零した

「ありがとう、木ノ瀬くん。」

耳すっごい寒かったのー、と嬉しそうにイヤーマフをもふもふする風丘に、らしくもなく胸が温かくなる
きゅ、と雪を踏み締め、風丘との距離を詰めた
警戒心なんて知らない真っ白な少女
それが可愛いな、と思うけれど、やっぱり不安になる

「…僕以外の前で、そんな無防備にしないでよ?」

耳元に顔を近付け、柔くそのイヤーマフに唇を寄せた
これが、今近付ける精一杯の距離



「…優希、」



「…木ノ瀬くん?ごめん、よく聞こえなかったんだけど。」

何々?と無邪気に訊いてくる風丘の頭をぽんと叩き内緒、と笑う

「ほら、寮に着いたよ。」

「あ、本当。」

寮の明かりを見つけて、風丘が少しだけ唇を尖らせた

「…どうかした?」

「もっと木ノ瀬くんと話してたかったのになぁ。」

「、」

「いつもみたいに皆で話すのも好きだけど、こうやって木ノ瀬くんと二人で話すのも、好きなんだぁ。」

だから今度はもっと沢山話そうね。
ふわりと笑った彼女は、たた、と寮の方へと駆けて行った

「じゃぁね、木ノ瀬くん。ハッピークリスマス!」

手の中には、可愛くラッピングされた袋
匂いからしてクッキーとかそんなのだろう
翼や他の人も、これと同じものを貰っていたはずだ

「…ま、今年はこれで許してあげようか。」

でも

来年も皆と一緒で良いなんて

思わせてやらないよ




願わくば、来年もキミの隣で

今度はその手を取って、愛を囁くから




(メリークリスマス、優希)






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