愛を届けにきました
キミに届けたかったのはね、
この時期になると、ここら辺は時々雪が降る
今だって舞い降りているそれを見ながら、私は白い息を吐き出して笑った
「久しぶり、梓。」
「…優希先輩?」
マフラーをぐるぐるまきにした梓は、中々見ることのないびっくりした表情で私を迎えてくれた
「…何してるんですか、こんなところで。」
「何って、恋人に会いに来たら悪いの?」
「悪い悪くないの話じゃないですよ。卒業した人が、こんな平日の夜に学園に居たら誰だってそう訊くと思いますけど?」
「ふふ、それもそっか。」
少し呆れたみたいに溜め息を吐かれてしまったけど、久しぶりの梓にどうしても笑顔が零れてしまう
二年早く生まれてしまった私は、梓を残して今年の3月、一樹や誉達と共に学園を卒業した
大学生になった私と梓は、当たり前だけど中々会う機会がなくなってしまい、今日は確か3ヶ月ぶりくらいだったはずだ
久しぶりの梓は変わっていないように見えて、実は少しだけ顔つきが大人になっている
粉雪が梓の綺麗な黒髪に映えて、そっとそれを払ってみた
「わ…、伸びたね、身長。手が届きにくくなっちゃった。」
近付けば、前はもう少し近かった目の高さが、今じゃ見上げている
男の子の成長期って凄いなぁ、なんて感心して笑うけれど、梓はちょっと不満みたいだった
「先輩が、僕のことをほったらかしにするからですよ。」
「えぇ?毎日電話したじゃん。」
「休みの日を一日も僕にくれなかったじゃないですか。」
こつんとおでことおでこがぶつかって、少し唇を尖らせた梓の顔がすぐ傍にくる
その仕草についつい頬が緩んでしまった
「ちょっと先輩。僕怒ってるんですけど?」
「あ、ごめんね。でも私は褒めてほしいんだけどなぁ。」
「え?何でですか?」
「だって私、今日からクリスマスパーティーまで学園にいるんだよ?」
「え?」
「陽日先生とね、賭けをしてたの。」
「賭け、ですか?」
「うん。今回の試験で総合10位以内なら許可してやるって言われたから。頑張ってね、私総合3位だったから、クリスマスパーティー参加&その間の星月学園の寮での宿泊権利獲得!」
嬉しくて思わずブイサインをすると、梓はきょとんと目を丸くしてしまった
その表情が珍しくて、思わず笑みを深めてしまう
「大学ももう冬休みだし、梓が授業受けてる間にパーティーの準備手伝うの。それ以外はずっと、梓の傍にいられるよ。」
「優希先輩…」
「誕生日、おめでとう。梓。」
今日、傍にいられて良かった。
そう紡いだ言葉ごと、梓はきつく私を抱きしめてみせた
じんわり伝わる熱が、寒さで冷えたお互いの身体を温める
「…最高の誕生日プレゼントです。」
「まだプレゼント渡してないよ?」
「いいえ。優希先輩が僕の目の前にいるだけで、僕はどんなプレゼントよりも幸せになるんですよ。」
恥ずかしがることもなく、とけるような優しい瞳が私だけを映す
「…なんか、久しぶりだと照れちゃう。」
「みたいですね。先輩の頬、真っ赤で可愛いです。食べたくなっちゃいます。」
「たべ…っ!?」
何を言い出すんだこの子は、と思ったけれど、どうやら私が思っている以上に、今日のサプライズは嬉しかったみたいだ
いつもなら押し返してやるところだけれど、こんな顔をされてはそれもちょっと憚られる
そして何より、会えて嬉しい気持ちは、私も一緒なんだから
「…梓、」
「はい?」
「残さず食べてね?」
そう言ってその背中を、私もきつく抱きしめ返した
「…今日の先輩には、敵いませんね。」
「誕生日は、甘えるものだよ梓クン。」
少し赤いその顔は
私だけが知ってる、彼の顔
ノイズ混じりの音じゃなく
すぐ耳元の熱と、ありったけの愛をこめた笑顔
ちゃんと届けにきたよ
キミが生まれてきてくれて、嬉しかったから
HAPPY BIRTHDAY!
(キミへの愛の言葉は、電波にだって聞かせない)
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