囚われゲーム

追い掛けて、捕まえて

それでも簡単にこの手から逃げてしまうから




「え〜と…優希ちゃん?何でこんなことになってるのか俺よくわかんないんだけど〜…。」

「それは桜士郎先輩が馬鹿だからですよ。」

「え、ひど!そりゃ留年しちゃってるけどそれは――」

「うるさいです先輩。」

ゴーグル割りますよ、と冷たく言えば、桜士郎先輩は漸く大人しくなった

――私に押し倒された状態で





「まぁ、こうしたら逃げられないかなって思ったんですけど、当たりだったみたいです。」

「わかんないよ?優希ちゃんのこと突き飛ばして逃げちゃうかもよ〜?」

「そうしたらまた捕まえて今度は縛りましょうか。」

「め、目が本気だね優希ちゃん…。」

そりゃ、本気ですから。

ふらふらしてて神出鬼没で、掴み所のない人
でも掴み所がないのは存在だけじゃない
先輩の、心も一緒だ



「…桜士郎先輩は、私のこと好きですか?」



ぽつりと紡いだ言葉は静かな部室にやけに響き、桜士郎先輩の表情が一瞬強張る

「…やだね優希ちゃん。そうじゃなかったら付き合ったりしないでしょ?」

「私が押して押して押しまくりましたもんね。…だから、恋人っぽくないのも…我慢してましたけど…」

いつか、桜士郎先輩の気持ちが私に追い付いてくれたらって、思っていたけれど

「、」

堪えることの出来なかった雫が、桜士郎先輩のゴーグルを濡らす

「月子ちゃんのことは好きって言う癖に…」

月子ちゃんだけじゃない
一樹会長や誉先輩だって、桜士郎先輩は躊躇うことなく好意を示す
それなのに



「…何で、私にはくれないの…?」



私は一度も、そんな言葉聞いたことがない



月子ちゃんが、会長が
羨ましくて、仕方ない
付き合っているはずなのに





私が一番、こんなにも遠く感じる








「――俺の気持ち全部ぶつけたら、優希ちゃんが潰れちゃうよ。」




どこか頼りない声が、下から聞こえる

「お…」

「俺の愛は重いからね。…きっと優希ちゃんを、いつか傷付けちゃう。」

いつも通りに笑いたいんだろうけど、いつもよりも少しぎこちない笑顔で、微笑む

涙の所為で歪んでいたけれど



どうしてかその姿が、とても愛おしく見えた



そっとゴーグルを外し、桜士郎先輩の綺麗な緋色の瞳と見つめあう

「…ください。」

「…優希、」

「私は、それが欲しいんです。桜士郎先輩のそれしかいらない。」

桜士郎先輩に伝わるよう、大事に大事に言葉を紡ぐ
私がどれだけ先輩を好きか、わかってもらえるように

「大体、先輩は自分の愛を受け止められないような柔な女を好きになったんですか?」

違うでしょ?と悪戯に細笑めば、桜士郎先輩の瞳が少し揺らいでから、細められる



酷く、愛しいという色を見せて



「…ほんと、物好きだねぇ優希ちゃんは。」

「あ、もう優希って言ってくれないんですか?」

さっき呼び捨てにしてくれたのちょっと嬉しかったのに、と唇を尖らせた次の瞬間、身体がふわりと宙に浮いた

「へ、……っ!!」

ドサッと、背中にソファのクッションの感覚
びっくりして目を見開けば、とっても良い笑顔で笑う桜士郎先輩と、その向こう側に天井が見える

「お、おーしろー先輩?」

「駄目だよ優希ちゃん、一樹に教えて貰わなかった?男は狼なんだって。」

「は?」

「男の上に、軽々しく乗ったりするもんじゃないよ〜?まぁ俺は大歓迎だけどね、くひひ〜。」

「え、ちょ、あの、」

「言ったでしょ?俺の愛は重たいの。我慢しなくて良いって言うんなら、じ〜っくり教えてあげなきゃ。」

「っ、」

固まる私の頬に柔らかな熱とリップ音を残し、先輩はなんだか愉しそうに微笑うから

ゴーグルなしの桜士郎先輩の色気にはまだ免疫がない私はもう頭が真っ白で
本当、この人曰くのアイデンティティーを全部なくしてしまったら格好いいのにとドキドキし過ぎてうまく働かない頭の隅っこで考えてしまった





「とりあえず、俺の部屋行こっか?」





――このあと、更なる受難が待ち受けているとも知らず





(さぁ、逃げられないのはどっちでしょう?)



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