春の海に囁いて

「優希ーって…っ、おいおい…。」

日曜日
魚座寮の俺の部屋に転がり込んだ優希と二人、ゲームやったりだべったりしていたのがさっきまで
飲み物がなくなったから下の自販機に買いに行った僅か5分足らずの間に、優希はすやすやと俺のベッドで寝こけていた



「お前…仮にも女がこんな無防備にしてんじゃねぇっての…!」

しかもミニスカ生足をそんなにもちらつかせんな!勘弁しろ!

目のやり場に困りタオルケットを腰までかけて、床に腰を下ろした
ふぅ、と溜め息を吐き、買ってきたコーラをプシ、と開ける

改めて見た優希は、いつもよりも髪とかに気合いが入ってて、今日のデートを楽しみにしてたんだろうな、と俺でも理解する

(…やっぱ、無理してでも遊びに行きゃ良かったかな…。)

いや、それをしようとしてこいつに叩かれて止められたんだが
ほんの少しだけ体調が優れなかった
それすらも見透かすこいつが、時々憎ったらしい
本当はもっと、色んなところに二人で行きたいのに

―『馬鹿だね、哉太。私は哉太となら学校で補習受けてても楽しいよ?』―

いつだったか、眉を下げてこいつが笑ってそう言っていた
何と言うか、物好きっつーか、変わってると思う
こんなポンコツ身体の俺に、告ってくる時点でおかしいけど
ろくに守ることも出来ない
そんな風にふて腐れる俺に、優希はいつだって笑って、背中を叩いて叱ってみせた

―『哉太は知らないだけだよ。私はいつも哉太に守られてる。名前を呼んでくれる声だって、私にはお守りなんだから。』―

窓から優しく吹き抜ける春の風に、優しい記憶が込み上げてくる
なぁ優希、知ってるか?
お前がそう思ってるように、俺だってお前を想ってる
そりゃ出来損ないの身体だけど、逃げないようにと思えるようになったし
こいつに恥じないようにと、前を向けるようになったんだ

「……優希、」

膝立ちで寝ている優希の顔を、上から覗き込む
普段、自分からは触れることのない髪は柔らかで、伏せられた睫毛の長さや小さな唇に、女なんだな、と改めて実感する
と、ふるりと睫毛が震え、うっすらと瞳が開く

「…かなた?」

「っ、」

「どうしたの…?」

優しく
春の風よりも軽く温かに、優希の掌が俺の頬を擽る

「いや…なんつーか…」

さらり
揺れる髪と、どこかまだ夢見心地に俺を見て微笑う瞳に、言いようのない感情が溢れて来る
大事にしたい
こいつのことを、もっとちゃんと、幸せにしてやりたい





「…好きだ。」





言葉が、自然と口から零れた
普段は中々言えないのに、何故か今、無性に伝えたくなった
死ぬほど恥ずかしいし心臓への負荷半端ねぇけど、それでも、伝えたかったんだ



お前を、どれだけ好きかってことを



「…、」

「優希の、こと、す、すっげぇ好きなんだ。あ…愛して…っ」

気持ちがヒートアップして、言葉が止まらない
そんな俺を止めたのは、他でもない優希の抱擁だった

「お、おい、優希?」

「む、」

「む?」




「無理…!!」




「……は?」

耳元で言われた言葉に、思わず間抜けな声が出る

「無理無理無理!か、哉太そんなキャラじゃないじゃん!何いきなり…っ!堪えれない!」

「なっ!お、お前なぁ!人が真面目に言ってんのに何だよその言い方は!」

「真面目だから無理なんじゃんバ哉太っ!!」

「あ、の、なぁ…!!」

人の告白を何だと思ってんだ、と、流石にカチンと来て首に回された腕を外す
思いっ切り頭突きでもしてやろうと優希の顔を睨み、一瞬でその考えがどこかへ吹き飛ぶ

「………照れてんのか?お前。」

「てっ、照れるなって言う方が無理よ!!も、ほんっと信じらんない!」

鈍いって言われる俺が見てもわかるくらいに真っ赤な顔で、優希が喚く
本当に恥ずかしいのか、目まで潤んでいる
いつも飄々としている優希の珍しい姿に、嬉しさというか、妙な笑いが込み上げてくる

「何笑ってんのよバ哉太!手離してよ…!」

「ははっ、ワリーワリー。でも、もうちっとこのままでも良くね?」

「余裕な哉太とかムカつく!!」

もう本当やめて、と真っ赤な顔で叫ぶ優希を、どうしても離してやる気にはなれず

「優希」

「っ、」





「好きだ」





自分でも驚くくらいに柔らかな声で、もう一度言葉を紡ぐ
眉を八の字にして、悔しそうに唇をぎゅっと結んだ優希がしばらくしてから

「……惚れ直させないで、」

と小さく紡ぐ姿が、なんつーか、馬鹿可愛かった






(優しい海に、愛を注ぐ)



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