微睡む真昼の星

少し暇が出来た昼休み
折角だしと久しぶりに保健室の扉を叩いた

「こったろーセンセー!」

「きゃ!……な、なおし、先生…」

「ん?風丘?……、」

そこに居たのはオレのクラスの風丘で
こんな場所にいるのは珍しい、と思った次の瞬間、飛び込んで来た光景に固まった


ベッドの上に座る風丘
その膝ですやすや眠る琥太郎センセ


え?どゆこと?


目を丸くしたオレに、風丘が苦笑した






「お、お前ら……いいいいつから…っ」

「さ、三ヶ月くらい…ですかね…?」

「マジで!?」

「直獅先生声抑えてっ。」

琥太郎先生起きちゃいます、と言われ慌てて口を閉じる
思わず風丘と琥太郎センセの方を見てしまったが、なんていうか…目のやり場に困る
見てるだけでもなんか恥ずかしいぞ、膝枕

「な、内緒にしてて下さいね?直獅先生。」

「お、おぉ。」

人差し指を口元に近付けて、眉を下げ懇願する風丘に、若干まだ動揺しながら頷く
それを聞いて安心したのか、風丘が小さく笑った
なんだか、いつもよりもその笑みが大人に見えて、少し心臓が驚いた

「…にしても、琥太郎センセ起きねぇなー…。」

オレら結構騒いだよな?といつもの10倍は声の音量を絞り風丘に話し掛ける

「ここ最近琥春さんに連れ回されてたみたいなんです。理事長としての顔合わせとかなんだとかで…」

オレの問い掛けに答えながら、風丘の手は酷く優しく琥太郎センセの髪を梳いた

「文句言いながらも無理するから、困りますよね。」

相手を咎める言葉なのに愛おしそうに微笑む
そこには凄く、琥太郎センセを好きだって言う気持ちが滲み出ていた
きっと慈しむって、こういうことなんじゃないかと思うくらいのそれに、照れることも忘れて魅入ってしまう

「…直獅先生?どうかしました?」

「えっ?あぁ、いや悪い。なんて言うか……お似合いだなぁって思ってつい。」

「え?」

「なんかこー自然体って言うのか?見てて良いなって思える雰囲気っつーか…あんまこういうの上手く言えないんだけどさ。」

何せ恋愛経験値が低いんだ
こういうことに関するボキャブラリーは特に疎い
自分に苦笑していると、風丘が驚いたような瞳でこちらを見てきた

「…お似合いに、見えますか?」

「え?お、おぉ。」

「そっか…、へへ、嬉しいです。」

はにかむように笑った風丘は、そう言って琥太郎センセを見つめた

「…やっぱり琥太郎先生って大人だから、私なんかが隣に立っても良いのかなって思うときがあるんで…。」

ぽつりと零れた声は、少し寂しそうな色をしているように聞こえた

「まだまだ子供で、私が琥太郎先生に何をしてあげられてるのかも、わからなくなっちゃうんです。…こんなこと考えてるから、余計ダメなんですよね、きっと。」

きっとそれは、誰にも言えない弱音なんだろう
生徒と理事長が付き合ってるなんてバレたらそれこそ大問題だ
いつも一人で葛藤して、風丘は苦しんでいるんだ
そんなオレの可愛い教え子に、俺はグイっと顔を近づけた

「風丘、お前は充分凄いぞ。」

「え?」

「そうやって一人で考えて我慢して…辛いはずなのに、オレが見るお前はいっつも笑ってた。誰にも心配かけないようにって、頑張ってるんだろ?琥太郎センセの為に。」

「、」

「そんな風に頑張ってる風丘が、可愛くないわけないじゃないか。大事なのって、年齢や見た目なんかじゃない。琥太郎センセはそういう風丘の強くて優しいところや、きっとオレが知らないような風丘の良いところを見て、お前を選んだんだ。胸張って琥太郎センセの隣に居ろって!」

「直獅先生…」

「…って言っても、今は隠れて付き合わなきゃなんだろうけどな。でも、オレで良かったら愚痴とか聞くぞ。あんまり一人で悩むなよ。な?」

まぁあんまり頼りにならないけどなー、と苦笑すれば、風丘も綺麗に笑んでみせた

「ありがとうございます、直獅先生。」

それを見て、心が温かくなるのがわかる
その笑顔がずっと絶えないようにと、そっと願いを込めてもう一度微笑んだ

「ん…」

「あ、起こしちゃいました?」

もぞ、と小さく身じろいた琥太郎センセの目が、うっすらと開く
ここまで騒がしくしてたらそりゃ起きるか、とも思ったが、どうやら琥太郎センセはまだ半分寝ているみたいだった
髪を梳いていた手を風丘がそっと退かすと、優希、と名前が小さく紡がれる
あれ?もしかしてオレ気付かれてない?

「手、」

「え?あぁ、邪魔かと思ったんですけど…。っ、」

離れていく風丘の手を捕まえ、それを自分の頬に優しく添えた





「お前が触れていると、落ち着くんだ…。」




「……!!」

「こ、琥太郎さん…、」

(うわーうわーうわーっ!!!)


低く掠れた甘え声が囁く
いつもとは違うそれに、オレですらあてられる

(こ、琥太郎センセが男になってる…!!)

叫びだしたい気持ちを精一杯堪えて、風丘の反応を窺う
真っ赤な顔で今にも泣きそうなくらい困ったように眉を下げた風丘が、ぎこちなくオレと視線を合わせた

「…ほ、本当に内緒でお願いしますね…?」

「お、おぉ、おぉ!」

とんでもない口説き文句を言うだけ言って、また夢の中へと行ってしまった琥太郎センセを見て、苦笑いを零す



多分風丘が思っている以上に、琥太郎センセは風丘のことを必要としてるな、なんて思いながら



それからしばらく、琥太郎センセを見るのが恥ずかしかったのは余談だ



(ちょっと陽日先生、何で琥太にぃ見て赤くなってるんですか?恋?)(気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ水嶋ー!!!)


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