バスケなんて、大嫌いだ
展開早いしルール妙に難しいし何がどうなって点数の違いがあるのかさっぱりわからない
何が楽しいのかわからない
何であんなにも楽しそうに出来るのか、さっぱりわからない



「あ。」

「、」

「きーちゃんの幼馴染さん、だよね?」

きーちゃん。
そんな風にあいつを呼ぶ女子、初めて見た
でもかわいこぶってるわけではないその口調に、あぁこれが彼女の普通なのか、と心のどこかでほっとした

「どうかした?こんな体育館の入り口で…。あ、きーちゃんの見学?それなら中入って見て行く?」

「ありがとう、でも遠慮しておく。」

「あ、ファンの子達?」

「と、言うより…――――嫌いなの、バスケ。」

そう紡いだ瞬間、桃井さんの目が見開かれる
バスケ部のマネージャーである彼女には、明らかな侮蔑の言葉
怒られるかな、と心のどこかでぼんやりと考えていると、小さく名前を紡いで彼女が私の顔を覗き込んできた

「真本さん、きーちゃんとの時間、取られちゃって悔しいの?」

「は…、」

酷く挑発的な、だけど綺麗な微笑みの桃井さんに、今度はこっちが目を見開いた

「知ってるよ?きーちゃんのこと、好きなんでしょ?」

「、」

「今までずっと一緒にいたんだもんね。いきなり一人にされて、寂しかったんだ?」


―『マネージャーの子がすげぇんスよ。情報収集能力長けてるらしくって、俺のファンでもないのにそこらのファンよりも俺のこと知ってたからびっくりした。』―


(涼太…これは、確かにびっくりするね…。)

誰にも、本人にさえ気付かれていない恋心をどうして初めて話す人にばれているんだ
びっくりを通り越していっそ寒気すら覚える

「でもさ、それなら逆に一緒に好きになった方が良いんじゃないかな?その方がきーちゃんと一緒に居られると思うけど。」

「……そういうことじゃないの。」

「え?」

確かに、桃井さんの言うとおりだと思う
実際にそういう理由からバスケを勉強しだした女子が居ることも知っている
けれど、そういうことじゃない
私のこれは、そんな簡単なものじゃない

「桃井さんなら知ってるでしょ?涼太が何でも模倣出来ちゃうってこと。」

「え?あぁ、うん。センスだよねあれは。ただの人の真似って言っちゃえばそれまでだろうけど、そんな簡単なものじゃないよ、あれは。」

「うん…、だから、いつもつまらなさそうだった。」

桃井さんから視線を外し、体育館の中へと戻せば、青峰くんと仲良さそうにじゃれている涼太の姿

「何でも出来て、何にも執着出来なくて…モデルだって、少しは刺激になるかなって始めたのに、すぐにトップモデル顔負けになっちゃってさ。」



いつから



「あんな風に笑ってる涼太、本当に久しぶりに見た。」



いつから私も、涼太にとっての「つまらいもの」になってしまったんだろう



話はしてくれる
笑ってもくれる
他の人より全然近い場所にいるはずなのに、全然遠い



「いいな…桃井さんたちは…」

「…真本さん」

―『すっげぇつえぇ奴見付けたんスよ!他にもキャプテンとかもやばいらしいんスけど、全然勝てなくて…マジ凄いんだ…っ。』―

「涼太の特別な貴女達が、羨ましい。」

今の涼太の隣に居たって

きっと自分が惨めになるだけだ




「一緒に居たって、あの笑顔を私はもう、引き出してあげられない。」




私は彼の心を揺さぶる何かにはなれないんだと




これ以上思い知るのは苦しい




「…ね、真本さん。バスケ部、入らない?」




泣き出しそうなくらい胸が詰まっているところに、投げかけられた言葉はあまりにも不可思議なものだった

「…桃井さん、人の話、聞いてた?」

「もちろん。だからこそ言ったんだけどな。」

「は、」



「最初から出来ないって諦めるような女に、きーちゃんは振り向くと思う?まだ貴女は何も戦っていないでしょ?――泣くのは、戦ってからよ。」


真っ直ぐと
桃色の瞳が私を映し出す
力強く微笑む彼女に、思わず息を呑んだ

「も、桃井さん…強いって言われない…?」

「そう?でも、守ってもらってるだけの女子よりはこっちの方が断然いいでしょ?」

「…確かにそうだけどさ…。」

「じゃぁ善は急げ!待ってて、入部届持ってくるから!」

「ちょっ、本当にいいの?私バスケ知らないし、そもそも振られたあと部の雰囲気悪くするよ?」

意気揚々と駆け出す桃井さんに最後の抵抗とばかりにそう紡げば、きょとんと目を丸くしてから、ふわりと笑った
それは計算も何もない、ただただ可愛い笑顔で

「どうだろう?」

「え?」




「私、負け戦は進めたりしない主義だけどな。」





ふふ、とはにかんだ桃井さんの笑顔の意味をこのあと私は知るのだけれども







それはもっともっとずっとあとのお話






帝光中学バスケットボール部マネージャーとして、皆と肩を並べるようになってからの物語







(ねぇ涼太、キセキって信じてる?)










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