それは、孤独な一番星
昼食を済ませ、せっかくだからと買ったスイーツを皆で食べていると、犬飼先輩が思い出したように声を出した
ちなみに宮地先輩も買っていた。
「そういや宮地、お前はインハイのメンバーってもう知ってるのか?」
「いや、あれは陽日先生と部長だけが知っている。俺は関与していない。」
「でもまぁ…順当に行けばやっぱり、部長、宮地先輩、木ノ瀬と…犬飼先輩と白鳥先輩でしょうね。」
妥当なメンバーの名前を挙げれば、宮地先輩の顔が僅かに険しくなる
「…宮地先輩は、やっぱり木ノ瀬が嫌いなんですか?」
「嫌い…というわけじゃない。ただ、あいつの弓道に対する姿勢が俺は許せない。」
「木ノ瀬は別に嫌いって訳じゃないみたいだけどなー。」
「お〜。だってあいつ、宮地の弓のこと猛々しくて面白いって言ったんだぜ?」
面白いなんて発想、俺初めて聞いたわ〜。と犬飼先輩は笑ったけれど、何故か私は妙に納得してしまった
「へぇ…。でも、なんかわかりますね、面白いって。」
「む…。そうなのか?」
「言葉通りの意味じゃなくて、興味津々な感じですよ。それに猛々しいってのも的を得てるんじゃないですか?」
「まぁなー。」
「私、宮地先輩は向日葵なイメージですけどね。」
「ぶっ。向日葵ってお前…まった可愛らしいもんイメージしてんなぁ。」
ありのまま自分が感じていたイメージを口にすると、何故か犬飼先輩と白鳥先輩の肩が震えていた
宮地先輩に至っては渋い顔をしている
そんなにおかしいことを言ったつもりはないんだけれど、と少し唇を尖らせてしまう
「だって存在感あって鮮やかで、ちょっとやそっとじゃ手折れない力強さって、ぴったりじゃないですか?」
「あー、なるほどなぁ…。」
「そう言われたら、なんとなく納得出来るな〜。」
「ですよね。別に可愛いとかそういう話じゃないですからね、宮地先輩。」
「皇、話変わってんぞ。」
「あれ?」
木ノ瀬の話じゃねぇのかよ、と呆れたみたいに犬飼先輩が笑った
そう言えばそうでしたね
「えーと…だからまぁ、確かに入部理由はあれですが…」
「…皇は、あいつの弓に情熱を感じるか?」
問い掛けられた言葉に、その真剣な眼差しに、今までのふざけた空気はなく、少しだけ背筋が伸びる
その空気を感じ取ったのか、犬飼先輩と白鳥先輩も黙ってこちらを見ていた
「お前は、あんな不純な動機で弓道をしている木ノ瀬を許せるのか?天才だかなんだか知らないが、俺にはあいつの努力や情熱…弓道を想う心が何も見えてこない。」
ちくり
宮地先輩の言葉に、痛みを覚える
(……あ、)
懐かしい、感覚
既視感をおびて、鋭く胸に突き刺さった、それ
私は、“これ”を知っている
「…木ノ瀬が弓道をするしないを決める権利は、私にはありません。それは、宮地先輩もですよ。」
「…あぁ、わかってる。」
「態度に関しては確かに少し気をつけた方が良いかもですけど、ね。」
苦笑いを一つ、こぼして、宮地先輩と視線を合わせる
「でも先輩。情熱や想いの色は一つじゃないし…、決して目には見えません。」
だからどうか、決め付けないであげて下さい
「…皇、」
「――まぁ、本当に木ノ瀬がどう考えてるかは、わからないですけどね。」
「まぁな〜。あんな天才の考えてることは、俺ら凡人にはわかんねぇよ。」
「そうだよなー。努力をせず上手くなる、なんて、俺らには到底わかんない感覚だからなぁ。」
重苦しい空気を払う為に笑ってそう紡げば、犬飼先輩と白鳥先輩が軽い調子で話に入ってきた
その雰囲気に私も紛れてはみたけれど、頭の中では、さっきの宮地先輩の言葉が繰り返される
(…そうか…。)
忘れていた
けれど、確かに覚えている
――そうだったね、木ノ瀬
(瞼の裏で、残像が揺らめいた)
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