「お、皇一人か?」

「あ、犬飼先輩。こんにちは。」

「おいおい〜、仮にも二人しか居ない女子なんだから、もちっと危機感持てよな〜?一人はあぶねぇぞ。」

賑わう食堂で、皆私よりご飯にしか目がいっていないのだから、それは有り得ないだろうと苦笑いをする

「月子先輩じゃあるまいし、そんな人いないですよ。でもそう言うんなら犬飼先輩、一緒に食べませんか?」

「お〜いいぜ。実はあっちに白鳥がいる。」

「え、お昼まで一緒なんですか?仲良しですねぇ。」

「たまたま会ったんだよ。お前何食べるんだ?」

「んー、乙女座定食かなぁ?犬飼先輩、ご馳走様です!」

「ふさげんなあほぅ。」

ビシ、と頭をチョップされてしまった。半分冗談なのに。





「なんかちょっと新鮮ですね、制服姿の先輩達って。」

犬飼先輩と白鳥先輩の前に座ると、袴とはまた違った白色にちょっと笑ってしまう
思えばこうやって部の人と部活以外で会うのは初めてかもしれない

「それを言うなら皇もだろ?かかか、可愛いぞ…!!」

「え?あはは、ありがとうございます。白鳥先輩もカッコイイですよ。」

「本当かっ!?か、カッコイイなんて…!皇に褒められた…!!」

「お前…もちっと感情こめてやれよ。大根か。」

「失礼な、充分こめましたよ。あ、犬飼先輩もカッコイイデスよ。」

「言われた方が虚しいってーの。」

「えー?」

それからお昼を食べながら、他愛のない会話をした
テストの話やクラスの話、行事の話なんかをしていたのだけれど、それでもいつの間にか話は弓道のことになっていき、何だかんだ先輩達も好きなんだなぁ、なんてちょっと思う

「にしても、今年はマジで優勝も夢じゃないかもなぁ〜。」

「だなだな。何たって部長と宮地、四段の木ノ瀬がいるんだもんな!」

「ちょっと、先輩達も明日のメンバー発表、名前呼ばれるつもりでやって下さいよ。」

「わぁかってるって。でもなぁ、やっぱりあのメンバー…特に木ノ瀬見てると、俺らはいつも通りで良い気がしてくるんだよなぁ。」

(そのリラックスは良いのやら悪いのやら…。)

「そうだよな。どんなに頑張ったって、木ノ瀬みたいにはなれねぇなーって。諦めつく感じ?所詮俺らは凡人だもんなぁー。」

「皇はどっちかってーと木ノ瀬タイプだろ?ってか、その歳で四段取れたんだから、絶対天才型だわ。」

「え?」

「――何だお前ら。珍しい組み合わせだな。」

犬飼先輩に話を振られた瞬間、後ろから声が落ちてきた
いや、後ろというより、上?
そう思い上を見上げると、いつもよりかは眉間のシワが薄い宮地先輩が立っていて、こんにちは先輩、と挨拶をする

「おー宮地。お前も昼か?」

「あぁ。」

「じゃぁ宮地先輩、良かったら隣どうぞ。一緒に食べません?」

「む…。じゃぁそうするか。」

ガタンと持っていたトレーを置いて、宮地先輩が私の隣に腰を下ろす
白鳥先輩が皇の隣なんてずりぃぞ!とか騒いでたが、気にしない(もう慣れた)
それよりも、私は宮地先輩のトレーに置かれたお昼に釘付けだった



「………デザート?」



「む。何だ、どれか気になるか?」

「敢えて言うなら全部、ですかね……」

何故スイーツ、しかもそれも何種類もあるんだろう
流石に言葉を失った私の前で、犬飼先輩達が笑う

「初めてだとそういうリアクションだわな〜。でもな皇、それが宮地の昼なんだぜ。」

「え!?昼これなんですか!?別腹とかではなく!?」

「鬼の副部長の異名に似合わず、宮地は大の甘党なんだよ。俺らも最初びびったよなー。」

「へぇぇ…」

驚きで丸くしたままの目で宮地先輩を見れば、少し居心地悪そうに眉を顰めた

「別に良いだろう。好きな物を食べて何が悪い。」

「いやいや宮地。限度ってもんがあるから。」

「まぁそれは同感ですけど……、でも、じゃぁ今度の合宿では、休憩の時に何か甘いもの作りますね。」

「お、何だ何だ?皇料理出来んのか?」

「人並みですけど。一時はまってお菓子作るのは好きなんですよねぇ。」

「そうなのか。それなら楽しみにしておく。」

「はい。……ふふ。」

「む。…何だ?」

「いえ、本当に好きなんだなぁって。眉間のシワ、なくなってたから。」

とん、と自分の眉間をさしてそう言えば、宮地先輩は一気にシワを深くしてしまった




――耳まで真っ赤にして




その様子に、思わずきゅんとしてしまったのは仕方がないと思う

「…ちょっと今、宮地先輩が可愛く見えました。」

「なっ!皇、お前な…。」

「わ、ごめんなさいごめんなさい!」

「まったく…」

こつん、と
呆れたように笑われ、小さく頭を叩かれしまった怒られたのだろうけど、ついつい頬が緩んでしまう
部活中では絶対知ることのなかった、宮地先輩の意外な一面が、あまりにも可愛すぎて



「お詫びに合宿、楽しみにしてて下さい。」



「――あぁ、そうしよう。」





もっとこうやって、皆と仲良くなれたら良いなぁ、なんて呑気に考えている私に






「お前ら何いちゃついてんだ」と、犬飼先輩がからかいの言葉をかけるまで、あと5秒





(けどそれに反応して少し赤くなっていた宮地先輩が、やっぱりちょっと可愛かった)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -