弓道部マネージャーは、一言で言えば楽しかった
先輩達も優しく、弓道を好きなのもわかる
みんなインターハイに向けて頑張っているその空気が心地好かった

けど



「大体、お前はどうしてそう物事を軽々しく捕らえるんだ!」

「宮地先輩こそ、そんな難しく考えていたら的中する弓も的中しなくなりますよ。」

入部して4日
宮地先輩と木ノ瀬の険悪っぷりは、想像以上に酷く、日が経つにつれ増していっていた





「激しいですねぇ…。」

「うん…大丈夫かな?」

呆れ半分で見ている私とは違い、月子先輩ははらはらした様子で二人を見つめる
タイミング悪く、部長は陽日先生に呼ばれてしまったし、他の部員は言わずもがな、そんな二人を遠巻きに見ている状態だ

「まぁもう少し様子を見るにしても…あんまり良い印象はなさそうですからね、宮地先輩の中での木ノ瀬は。」

仲を取り持つとなれば至難の技じゃないかなぁ、なんて少し考える
だって部長が言ってもあのまんまなのだからあとはお互いの気持ち次第なんだろうけど…

(気が合わないって意味では、両思いだけどなぁ。)

「…月子先輩は、木ノ瀬のことどう思います?やっぱり苛ついたりします?」

「えっ?そんな、イライラしたりなんてしないよ!ただ少し、反応には困るけど…悪い子じゃないし、嫌いじゃないよ。…それにね、」

「え?」

「私が弓道上手くなったきっかけって、梓くんなんだ。」

「木ノ瀬が?」

聞き間違いかと思い、思わず聞き返してしまう
だって木ノ瀬と会ったのは、つい最近なはずなのに?
そんな私の疑問を汲み取ったのか、月子先輩がふふ、と笑った

「梓くんには違うって言われたんだけどね、学校説明会に来てた梓くんが、たまたまここを通り掛かって、下手くそだった私の弓を見て『弓に光がない』って、言ったの。」

「、」

「『的を貫く青白い閃光が見えない』って…。それを聞いて私、弓を射る時のイメージを掴めるようになったんだ。」

「青白い、閃光…?」

その単語に、少し違和感を覚えた

「どうかした?」

「あ、いえ。なんか意外だなぁって思って。」

「意外?」

「そういうイメージって、自分の弓を射る時のイメージだとは思うんですけど、木ノ瀬からそういう弓の印象、受けないなぁって…げ。悪化してる。」

ちら、と木ノ瀬のいる方を見て、思わず顔を歪めてしまった
そこにはさっきよりも険悪な様子の二人がいて、宮地先輩の怒りが今にも爆発しそうだ

「と、止めないと…!」

「あ、月子先輩。私行くから大丈夫ですよ。」

「で、でも…」

「先輩、こういう仲裁苦手でしょ?いっつも泣きそうになってますよ。」

「そ、そんなことないよ!」

「えー、可愛いのに。」

冗談を交えながら言ったものの、それは紛れも無い本音だった
何と言うか、私と違って可愛いよなぁとしみじみ思ってしまう
月子先輩、と初めて呼んだ時には、それはもう、本当に花が咲いたような笑みを向けられた(後ろに居た白鳥先輩は倒れていた)
私みたいな下っ端がしゃしゃり出て良いのか、とも思ったけれど、犬飼先輩たちが止めに入ってうまくいった回数なんてたかが知れてるらしいから、ここは女子って立場を活かすしかないらしい
幸い、二人共(というか弓道部全員)女子には甘いのだ、たとえ私みたいな子相手でも

「宮地先輩、木ノ瀬。そこらへんでもう良いんじゃないですか?」

パン、と手を叩き二人の口論に割って入ると、視線がこちらに集まる

「宮地先輩、木ノ瀬になんて構ってないで一年生の指導お願いします。先輩の指導が良いって子いっぱいいるんですから。」

「む…。わかった、すぐ行こう。すまない皇。」

「頑張って下さい。」

一年生のところへ向かう宮地先輩の背中を送ってから、問題児の一年生に向き直る

「木ノ瀬、いちいち宮地先輩に突っ掛かるの止めたら?」

「僕は突っ掛かった覚えないんだけど。どっちかっていうと、突っ掛かってきてるのは向こうじゃない?」

「そのかる〜い物言いを宮地先輩の前だけでも抑えなよ。絶対その言い方が先輩のイライラ倍増させてるから。」

「これが普通なんだけどなぁ。部活って、そんなに気を使わなきゃいけないものなの?」

「世の中には協調性って言うものがあるんだから、もっと学べば?」

「遥ちゃん遥ちゃん!もう!止めに行ったんじゃないのっ?」

月子先輩に後ろから肩を揺らされ、我に返る
良いなー、なんて言ってる木ノ瀬は知らんぷりだ

「す、すみません。つい、」

「せーんぱい。僕、先輩の射形見たいです!」

「え?」

「木ノ瀬、そればっかりじゃない?どっちかと言うと木ノ瀬は見せる側なんだから、的前さっさと立ちなさい。」

「えー?あ、じゃぁ弓構えだけでも皇も見せてくれる?」

名案、みたいに提案してきた木ノ瀬に、少し眉間にシワを寄せる

「やーよ。的前立ったらやりたくなるじゃん。」

「ふぅん、そういうもんか。」

「そっか、そうだよね。私もちょっと見たかったなぁ。」

「つ、月子先輩まで…。」

後ろで残念そうに眉を下げる月子先輩に、思わず苦笑いが浮かぶ

「すみません…、代わりに木ノ瀬の射形、見とけば良いですよ。」

「ちょっと、何でそこで僕の名前出すわけ?まぁ夜久先輩になら大歓迎だけど。」

「あんた…本当イラッとするね。」

その月子先輩への愛がウザい、と顔を引き攣らせるも、木ノ瀬は全然気にしていないみたいに先輩に笑いかける
宮地先輩、怒鳴りたくなる気持ちはよくわかります。私もこいつの態度に関して言えば宮地先輩の味方です。

(っと、いけないいけない…。)

ふぅ、と気持ちを落ち着かせ呼吸を整え、改めて木ノ瀬を見る

「…でも、射形はやっぱり、綺麗だから。勉強になるんだよ、木ノ瀬の弓は。」

ムカつくけど、きっとそれは宮地先輩も同じ気持ちだと思う
何度でも、見たいんだ
この目に強く、焼き付くくらい

「…そんな見つめて言われたら、やらないわけにはいかないか。案外狡いね、皇。」

「は、あ?」

何がどう狡いんだと首を傾げた私の耳に、でも、と言葉が届く

「僕の射形を見ても、何も得るものなんて無いと思うけどね。」

的前に向かう木ノ瀬の、背中しか見えなかったから
木ノ瀬がどんな表情をしていたかなんてわからなかったけれど

微かな言葉の違和感

それは私の中で、確かに残り続けた




(繋ぎ合わせたその先に、どんな君がいるのだろう)





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