「星座科一年の皇遥です。今日からマネージャーとしてこの弓道部にお世話になることになりました。早く皆さんをサポート出来るように頑張りますから、よろしくお願いします。」

簡単な自己紹介を済ませると前回も叫んでいた先輩方の叫び声と拍手が一際目立つ歓迎をされた。小熊くんまでその輪に居たから、ちょっと意外だった

このあとどうしたら良いのか
わからず隣で私を紹介してくれた部長が小さく笑いかけてくれた

「自己紹介ありがとう。僕は部長をしています、三年の金久保誉です。皇さんは木ノ瀬くん同様四段の実力者って聞いてるんだ。もしも何か気付いたことがあれば、どんどん教えてほしいな。」

「お役に立てるよう頑張りますね。」

「うん。あ、でも無理はしないでね?マネージャー業も少しずつ慣れてくれれば良いから。」

人当たりの良い穏やかな笑顔と言葉遣いに、自然と笑みを返す

「で、こっちが副部長の宮地くん。」

「副部長の宮地龍之介、同じ星座科の二年だ。今回は入部してくれたこと感謝する。何かわからないことがあれば何でも聞いてくれ。」

「はい、よろしくお願いします。」

なんだか、凛々しいといった雰囲気だろうか
空気がしっかりしているなぁ、なんて宮地先輩を目の前に思ってしまう
それにしても、二人とも顔が凄く整っている
最近はカッコイイ人と関わることが多いな、と考えていると、もう一人、どちらかというと端正、という表現が似合う人物がひょこっと顔を出す

「あれ?宮地先輩随分優しいんですね?僕の時はそんなこと言ってくれなかったじゃないですか。」

「お前は動機が不純すぎるんだ!皇と一緒にするな!」

「不純…?木ノ瀬、何で入部したの?」

宮地先輩のその言葉に、思わず茶々を入れてきた木ノ瀬に首を傾げる
すると木ノ瀬はいけしゃあしゃあと言ってのけた

「夜久先輩が居たからだよ。」

「……は?」

「あ、梓くんっ!」

「先輩の弓に興味を持ったから入部したんだ。不純なんかじゃないんだけどね。」

「木ノ瀬…その発言は充分不純に聞こえるから…。けど…、逆に興味あるな。木ノ瀬が興味を持つ弓なんて…。」

木ノ瀬の発言に困ったように眉を下げていた“星月学園のマドンナ”に視線をやれば、かあぁ、とその頬が染まった

「そ、そんな大層な物じゃないよ!?私なんてまだまだ的外すし下手だし、始めて一年しか経ってないもん…!」

「一年!?それで三段なんて凄いじゃないですか。センスあるんですね、夜久先輩。」

「そ、そんな…。でも、女子が私だけだったから、皇さんが入学してきたって聞いて私も凄く気になってたの。これからよろしくね?」

「私も、先輩と話してみたかったんです。部活もですけど、学校のこと色々教えてくれると嬉しいです。」

「…もちろんっ!」

皇さん可愛い!なんて、私より遥かに可愛い先輩がそう言って抱きしめてくれた
成る程、マドンナか。
私はその可愛らしさに妙に納得してしまった

「ふふ、お喋りはこの辺にして、そろそろ部活を始めようか。」

「あ、すみませんでした。」

「皆皇さんが来てくれて嬉しいから、仕方ないんだけどね。じゃぁ皆は練習を始めててくれるかな?宮地くん、一年生の指導、お願いしても大丈夫?」

「はい、わかりました。」

「ありがとう。じゃぁ皇さん、まずは部室と仕事を教えるから、ついて来てくれる?」

なんだか和む雰囲気の部長に頷き、その後ろを着いていく

「あー良いなぁ部長!俺らも皇に部室案内してぇ!」

「部長はおいしいところをさら〜っと持ってっちまうよなぁ〜。」

「馬鹿なこと言ってないで部活を始めるぞ!!」

宮地先輩の怒号に、少し肩が揺れる
それを空気で察したのか、部長がふふ、と笑みを零した

「ごめんね、賑やかで。」

「元気がある素敵な部活の証拠じゃないですか?まぁ、道場ではちょっと浮きますけどねー。」

「はは、そうだね。でもきっと今年はもっと賑やかになるんだろうね。木ノ瀬くんや皇さんたちが入ってくれたから。もう着替えてるからわかるだろうけど、女子更衣室はここにはないんだ。不便な思いをさせてごめんね?」

「いえ、そんな。体育館の更衣室、結構綺麗なんで大丈夫ですよ。でも袴の夜久先輩は大変かなぁと思いますね。」

「そっか、やっぱりそうだよね…。あ、ここが備品置場だね。予備の弓とかもここに置いてて、時々外に出してあげたりしてるんだ。」

「へぇ…、」

そこには数本の弓が立て掛けられていて、思わずその一本に手を伸ばす
久しぶりの、弦
使い古されたそれはそれでも愛おしくて、少し頬が緩んだ

「……皇さんは、事故の後は一度も弓を引いていないの?」

「、」

「あ、デリケートなこと聞いちゃったかな。話したくなかったら良いんだ。」

「…いいえ、大丈夫ですよ。そう構えないで下さい。ありますよ、一度だけ。リハビリを兼ねて無理言って引いたんです。」

「そうなんだ。」

「でも、引けなかったんです。」

「え?」

「指先の力というか、感覚がもうなくて。…的には、届きませんでした。」

あの力強い弓を引くには、それはあまりにも辛くて
指先から、絶望が全身に伝わった

「あれは、引くなんて言えないくらい酷い弓でした。」

「皇さん…」

「医者にも負荷をかけ続けたら、日常生活までダメになるって止められて。もー仕方ない!て、すっぱり辞めたんです。でもこうやってここに来ちゃったから、全然すっぱりじゃないですよね。」

へへ、と笑うと、部長がふわりと微笑んでくれた

「僕も、中学時代の君を知っているんだ。」

「…え?」

「本当に素晴らしい弓だと思ったよ。女性なのに威風堂々としていて、とても憧れていたんだ。だからこうして同じ場所に居て話せてることがとても嬉しく思ってる。」

「ぶちょう…、」

「僕はこの夏までしか居られないけど、一緒に頑張ろうね。」

右手を差し出した部長は、柔らかい陽だまりみたいだった



「改めまして、ようこそ弓道部へ。」



翼くんの時にも思ったけれど
私の弓は私の中の大半を占めていた
だから辞めなければならなかった時の喪失感は酷かった
だけど、だからこそ
私の弓はきっと、私を色んなものと繋げてくれているんだ




「私も、よろしくお願いしますね、部長。」




この繋がりは、きっと新しい私に続いている




(でも威風堂々って女子に使いますか?)(ダメかな?勇ましかったよ?)(もっと使わない!)





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