「月子先輩、酔い止め飲みました?」

荷物チェックを終えて最後にバスに乗り込むと、意外な組み合わせで皆が座っていて目を丸くした
とりあえず一番前に座っていた月子先輩に声をかけると、可愛い笑顔が返ってくる

「うん!さっき遥ちゃんに貰ってすぐ飲んだよ。試合前に体調崩してられないもんねっ。」

「月子先輩なら大丈夫ですよ。にしても…何で木ノ瀬と宮地先輩隣同士なんですか?」

「あ、部長の提案でね。」

「向こうに着くまでに少しでも仲良くなってくれたら良いなって思って隣にしたんだけど、ダメだったかな?」

「ダメというか、会話してませんよ、あそこ。」

そしてそれでちゃっかり月子先輩の隣に座っている部長が抜け目ないな、なんて思ったのは秘密だ
成る程、部長命令ならあの二人が言うことを聞いているのも納得出来る
しかし仲良くなる気のなさそうな雰囲気に、私は小さく溜め息を吐いた

「そういうことなら私、あの二人の隣に座っておきますね。」

「えっ?遥ちゃん大丈夫?」

「酔わないタイプですし、一応見張りということで。」

そういって通路を挟んで宮地先輩と木ノ瀬の隣の席に腰を下ろす

「あれ?皇ここなの?てっきり前に座るのかと思ってたけど。」

「木ノ瀬達と親睦を深めようかと思って。」

「棒読みに聞こえるのは気のせい?」

「気のせい気のせい。って言うか、さ。」

「ん?」

「予選に引率なしってどうなんだろうね、陽日先生。」

あの人どれだけ多忙なんだ、と、居ない顧問に溜め息を吐いた






「…緊張感ゼロだなぁ。」

「ここまで来ると、良いのか悪いのかわからんな…。」

窓枠に寄り掛かりながら寝息を立てる木ノ瀬を横目に、宮地先輩が呆れたような表情をする

「まぁ、らしいっちゃらしいですけどね。」

一応起こさないように声を潜めながら、宮地先輩と話す
これじゃぁ私と宮地先輩の親睦を深めてるだけだ(いや、全然構わないけど)

「…皇、」

「はい?」

「いや…その、…木ノ瀬のことだが…」

少し言いづらそうに眉を顰める宮地先輩に、首を傾げる

「…隣、そんなに嫌ですか?」

「違う。この間、お前にも木ノ瀬に対してどう思うか聞いただろう?」

「あ、はい。それがどうかしました?」

「いや……悪かったと、思ってな。」

「え?」

「あぁ言われたのに、結局俺はこの間木ノ瀬と口論をしてしまった。後輩にまで諭されていたのに、精神を鍛錬する場であんな風に心を乱すとは……俺は未熟だ。」

宮地先輩の言葉に、目を丸くする
きっと宮地先輩のことだから、あの日のことは反省しているんだろうな、とは思っていたけれど、まさか私のことまで気にかけてくれていたなんて

(優しくて、不器用な人だなぁ。)

予選前なのだから自分のことに集中したら良いのに、とつい苦笑してしまう

「宮地先輩、私全然気にしてませんから。隣で寝てる奴も、案外気にしてなかったんで。宮地先輩がそんな難しい顔するだけ時間の無駄ですよ。」

「む、そうか…?」

「はい、寧ろ好感持ってたみたいなんで。ほんっと図太いというか大物というか。…でも、自分にはない価値観ってあって困るものじゃないと思うんですよね。開き直って関わったら、結構楽しいかもしれませんよ。」

「…そうだな。あの物事の考え方は、俺では絶対に想像も出来ないだろうからな。」

「真逆って感じですもんね。だけど正直なところ、木ノ瀬が言っていた男女混合、私も良いなぁって思っちゃってました。」

「何?」

「昔は男女混合だったみたいだし…、私も、宮地先輩たちと一緒に出来たら楽しいだろうなーって、ちょっと考えてました。」

すみません、とちょっと笑って告白すれば、宮地先輩は少しだけ困ったようにふ、と頬を緩めて見せた

「しょうがない奴だな、お前も。」

(…笑った、)

スイーツを食べている時以来の久々の穏やかな表情に、少しどきどきする
元々格好いい人だし、いつも眉間に皺を寄せてばかりだから、ギャップが半端ない
何とかそれをやり過ごそうと努めていると、男女混合か、と宮地先輩が呟いた

「俺は弓道は高校からで、皇がどんな弓を引くのか知らなくてな。」

「あ、そうなんですか?」

「あぁ。…でも、きっと皇らしい、芯のある弓だったんだろうな。」

「、」





「こう言うとお前がどう思うかわからんが…俺も皇と、的前に立ってみたかった。」





こんな場所で聞くには、あまりにも勿体ない言葉だと思った
引くことももう出来ない私の弓を、それでも認めてくれているようなそれに、胸が温かくなる

「宮地先輩に言われると、何だか恥ずかしいです。」

「む?」

「でも、嬉しいです。」

少し照れくさくて小さくはにかめば、先輩が僅かに目を見開いた





「――宮地先輩、僕の時と態度が全然違ってないですか?」






「なっ…、木ノ瀬、お前っ。」

「起こしちゃった?」

「ずっと前から起きてたよ。眠りは浅い方だから。」

ふぁ、と欠伸を一つして、木ノ瀬が伸びをする

「でも、宮地先輩もやっぱり男なんですね。」

「む…、どういう意味だ?」

「だって、可愛い子には甘いじゃないですか。」

さらりと言われた木ノ瀬の台詞に、途端に宮地先輩が顔を赤らめ眉を顰める

「ばっ!別に俺はそんなことをしたつもりはないっ。」

「えぇ?無意識ですか?僕の時もそれくらい優しくしてくれても良いんじゃないですか?可愛い後輩なんですから。」

「お前と皇じゃ天と地ほどの差があるんだっ。同じ扱いをしたら皇に失礼だろ。」

部長には届かないように一応小声でいつものように騒ぎ出してしまった二人に、私は思わず苦笑してしまった





懲りずに関わり続けて、この関係が変わる日が来るのか、少し不安になりながら





(部長に怒られる前に、流石に止めました)



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