届かないから、輝くのだろうか



「寂しい?」

「寂しいっていうか…そういう、天才だからって言う括りで自分を決め付けられたり線引きされるのって嫌じゃない?って、思ったんだけど……絶対そんなの感じたことないって顔してるなー…。」

目の前できょとんとした表情をしている木ノ瀬に、思わず溜め息が出る
何となくそんな気はしていた
自分の考えの甘さに苦笑していると、木ノ瀬がゆっくり口を開く

「まぁ、そういう線引きは感じなくはないけど。それは僕や皇みたいに才能がある人には必ず付き纏うものだろ?人間は自分より秀でた人間を見ると、羨むか嫉むかする生き物なんだから。」

「そうだけど、それで弓道に対する姿勢をとやかく言われるのは解せない。」

今日のは木ノ瀬も大概悪いけど。と厭味を加えると、木ノ瀬は少し肩を竦めてみせた

「だけどこればっかりは理解してもらえるものじゃないと思うけどね。」

「それが、寂しいの。」

「、」





「そうやって割り切らなきゃならなかった心が、寂しいと思ったの。」






想う気持ちは、懸ける気持ちは同じはずなのに

君は違うのだと、線を引かれ

弓に懸ける想いすら、否定されてしまう

それを全て割り切らなければならないあの場所は、酷く寂しかった






「…なるほどね。」

ぽつり
落とすように、木ノ瀬が呟いた
夜の闇に紛れてその表情は見えなかったけど、僅かに笑みを零す音がした
どこか苦さを含むそれに木ノ瀬の様子を窺うと、綺麗なアメジストの瞳と視線が絡む

「皇には悪いけど、僕は皇が求めるような答えは返せないと思うよ。」

「え、」







「そんな感情を持つほど、僕は弓道に執着していないから。」







そう言い切った木ノ瀬に、私は何も言い返せなかった








ただ、夏なのにひどく冷えた指先を




隠すみたいにきつく、握り締めた








(羨むほど、嫉むほど)




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