作品 | ナノ


06

「くぅ〜、いてて…」
 思い切り地面に叩きつけられた背中が痛い。
 全身、主に上半身や顔面が軋むように痛んで重いのは、おれにしがみついて来て更に覆い被さるように一緒に落下したサンジの下敷きになっているからだ。
 地面が柔らかい土質で石とかもなかったのだけはラッキーだったけど、とにかく重いし痛い。
 ようやくもぞもぞ動き出してくれた金色の頭の向こう、まん丸に切り取られたような空の色はうっすら橙色に染まってきている。
「大丈夫かーサンジ」
「おぅ」
 まー、おれを下敷きにしてたんだから大丈夫に決まってるんだけどな。
 一応怪我がないか声をかけてみたら、サンジは一言ぶっきらぼうに答えておれに顔を一切見せることなくおれの上から退いて地面に座って俯いて地面を見てしまった。
 うーん、これは怪我をしてての痩せ我慢かなとも思えるけど、ここでつっこみすぎたらキレて面倒臭ェことになりそうだし、一旦置いといて、だ。
 おれは軋む身体をどうにか動かして立ち上がり、今おれ達が落ちてきた場所を見上げてみた。
「井戸にしちゃ浅い方で助かったけど……どうすっかな」

 ここは航海の途中で見かけた無人島。
 本当は寄る予定なんて一切なかったけど、ルフィのいつもの「冒険だ!」に巻き込まれて立ち寄っただけの島。
 おれは島に入ってはいけない病だって言ってんのに、全く聞き入れないルフィに捕まって島中引っ張りまわされて、気がついたらルフィとはぐれて一人になっていた。
 しかもそーゆー時に限って猛獣と会っちまって追い掛け回されて、偶然サンジと鉢合わせてものの一秒で助けてもらって。
 ありがとうサンジ〜助かったぜ〜なーんて感謝を伝えてたらサンジの肩にポトリと落ちてきたかなりデカめのタランチュラの仲間っぽい蜘蛛。
 その後は本当に一瞬の出来事。
 パニックを起こしたサンジが蜘蛛を振り落としながらなんでかおれに飛びついてきて、サンジの体重を支えきれないおれはよろけて、たまたまおれの後ろにあった膝かっくんにちょうどいい高さの枯れ井戸の淵に躓いて、二人一緒に枯れ井戸の底へと真っ逆さま。

 そして今に至るとゆーわけだ。
 さっきも言ったがこの枯れ井戸、井戸にしちゃ浅い方だがそれでもそれなりに深い。
 間違いなくサンジがおれを肩車してくれたとしても手は届かない。
 そしてこーゆー場合役に立つおれの道具類は、実は今ほとんどもって来ていない。
 なぜなら昨日ちょっと整備しようと思って鞄から出していたら見つけたルフィが面白がって無茶苦茶やってぶっ壊しちまったからだ。
 更に言えば、
「おーい、どうすっか、サンジ」
「………」
 サンジがさっき地面に座り込んでから全く動かずしゃべらずになってしまっている。
 こりゃあますますどっか怪我してる可能性が高いな…。早く帰ってチョッパーに診てもらわねェと。
 ここはおれが一人でなんとかするしかない、か。
 見上げた丸い外の世界の隅の方、蔓が巻きついた木の枝が見えた。
 蔓は多分枯れているわけでもなさそうだし、それなりの太さもありそう。少なくとも人一人くらいなら掴まって上っても大丈夫だろう。
 おれは今日持って来ていた数少ない道具の中からパチンコと鉛星を出した。
 結構太くて頑丈そうな木の枝だけど、あれを落とせば蔓はこの井戸の中に垂れ下がるはず。
 火薬星なら一発でいけそうだけど、蔓を焼き切ったらいけないから、鉛星を何発か撃ち込み、太い木の枝はミシッと音を立てて折れて、おれの予想通り井戸の中に落ちてきて絡まっていた蔦の長さの関係で空中でぴたりと止まった。
 でもあれならおれの手が…サンジが少し持ち上げてくれたら届く!
「サンジ!サンジ!」
「………あァ?」
 必死に呼びかけたおれに反応してやっとサンジが顔をあげた。
 その顔がいつもよりほのかに赤い。
 まさかサンジ、熱出てるんじゃねェのか?これはヤベェ。急いで船に戻んねェと。
「あの蔦を使ったら井戸から出れるぞ!先に上がって上から引き上げてやるから、おれを少し持ち上げてくれ!」
「…あァ」
 のそりと立ち上がったサンジは簡単におれの身体を抱え上げた。
「サンキュー!じゃあ…」
 蔦は見立て通りおれが掴まって引っ張っても切れそうな気配もなく、おれは予定通り蔦を登ろうとしたところで、ずるっと足が滑った。
「うわっ…」
「ウソップ!」
 滑り落ちたおれと、おれを助けようと手を広げたサンジ。
 お互いの顔面がガツンとぶつかり合った。
「っ…」
「いてて、悪ィ、サンジ」
 サンジの顔のどこかの骨とぶつかった場所がズキズキ痛むけど、とにかくすぐ謝ったおれにサンジは「いや…」とまたぶっきらぼうに答えて、もう一度おれを抱え上げた。
「気をつけろよ」
「おう。じゅうぶん気をつける」

 その後おれは蔦を登って井戸から脱出してサンジもその蔦を使って引き上げることに成功した。
 そして今は、船への道を歩いているわけなんだけど。
「まさか二回も―――スした――――いや、事故だし無効―――」
 ずーっと、足早におれの前を歩いているサンジがなんか聞こえるような聞こえないような声でブツブツ独り言を言い続けている。
 さっき心配した怪我も熱もなさそうでとりあえず一安心だけど、正直気持ち悪い。
 ふと痛みを感じて自分の唇を触ってみると、何度かサンジとぶつかったせいか少し腫れて熱を持っていた。


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