作品 | ナノ


04

思わず出た手に、ヤベェと思ったし声にも出たけど時既に遅し。掴んじゃいなかったが、おれの顔の前でクロスした両手は、間違いなく、今まさに顔を寄せてきたサンジを妨害していた。
「ウソップ?」
コインが挟めるんじゃねェかな?って思うくらい、深く刻んだ皺を見なくても、おれの名前を呼ぶ声だけで機嫌がよろしくないことはわかる。わかるけども、やっちまったことは戻せねェんだなァコレが!
それに、おれ様にだってちょっとばかし譲れないことってモンがあるわけで……
「や、その……サ、サンジ君?」
「ン?」
真っ黒な夜空に浮かぶ満天の星。偉大なる航路では珍しくありがたーい穏やかな気候と波。海獣の気配も感じられない、なんて。よくよく考えなくても、すんばらしいロケーションだ。
おまけに今日は、昼間に海上で出会っちまった同業者との戦闘がハデで長引いたから、全員、夜更かしもせずにぐっすりお休み中。見張りのおれと夜食を作るサンジを除いて。実は、ロビンやフランキー辺りが遅くまで起きていることが多いから、これまた貴重。
海の上で、誰の邪魔をされる心配もせずに、ふたりっきり。
仲間だけでなく、恋人、という関係がプラスされてから、こんなに条件が揃ったのは初めて。
だから、サンジ君が、少しくらい、関係を進展させたいって考えたとしても、全然おかしくねェ。
さっき述べた通りの奇跡的に100点満点の条件が揃いまくった中だ。
夜中っても、しんと静まり返ってる、なんて珍しい。昼間は、戦闘と後片付けでバカみたいに忙しなくてうるさかったから余計。静かすぎるとさみしい、って改めて考えると乙女チックな話だけど、本当の話だ。
だから、おれの方もいつもより、ちょーっと、こう、身体を寄せてみちゃったり……
そんな状況で、ちょっと会話が途切れた時、そっと肩を引き寄せられて、顔を寄せて、キス、なんて。
どこに文句があるんだよ!っておれも言いたい。
(あー!考えれば考えるほど、おれ、ナニしてんだよってなる!いや、別に気にしなきゃいいって言われたらそれまでだけど!無意識に拒否っちゃうレベルで気にしてるみてェだからもうムリ!!)
例えば、戦闘してからざっと汚れを拭いただけでちゃんと風呂に入ってねェから臭ェだろうなァとか。
歯ァみがいてねェじゃんとか。
我ながら恥ずかしくなるような……さっき以上に乙女か!とツッコミ入れたくなる思考回路。ぶっちゃけ入れた。おれらしくねェってのは、百も承知どころか、頭ン中で何千回とツッコミを入れた。
この際だから言っちゃえば、ふたりでこっそり恋人の時間を過ごす時は、風呂に入って身綺麗にしたし、ルフィたちと遊ぶのも控えめにするか発明の研究だってナシにしたし、何なら自作の香り袋なんてモノをつけたりした。あくまでコッソリ。気付かれちゃいねェと思う。むしろ気付かないでほしい。
レディへの口説き文句からもわかるように、サンジはロマンチストだ。せっかく奇跡的に恋人になれたんだから、そのロマンに寄り添ってやろうってのが最初、のハズ。
元々凝り性のせいか、気にし出したら止まらなくなって、今じゃ誰のためか、わかんねェけど。
「えーっとだね、その、決しておれ様も、そ、そーいうコトがイヤというわけでなくて」
「悪ィ」
「へ?」
言い訳の言葉を探していたら、サンジの方から謝罪。いやいや、お前は悪いトコロなくね?流れ的に、空気読めてないのはどう考えてもおれの方じゃん。
よくわかんなくて目を丸くしていたら、ギュッと抱きしめられて、心臓が飛び跳ねて、体も跳ねる。
嫌とかじゃなく!本当に嫌とかじゃないけども急にしないでくれますかー!?煙草と汗の匂いとか、体温とか、サンジの匂いだ体温だって思うとヤバくなるんだから!
「怒ってるとかじゃねェから。ビビんな」
「お、おれ、ビビってる……?」
「そんだけしどろもどろになっといてビビってねェとか、クソくだんねェ誤魔化しすんな。
あと別に、無理にするつもりでもねェから、んなガチガチに緊張しなくてイイ」
緊張しているのが丸わかりだったらしい。まあよく考えなくても丸わかりか。
耳元でくつくつと笑われているのを感じて、くすぐったいし恥ずかしい。背中をポンポンすんなよ!安心しちゃうのが余計に恥ずかしいから!! つーか余裕あんのかよムカつく!
「ただ、なァ……久々に歯応えのある奴らとやりあって、けどおれもお前もたいしたケガもなくて。
おまけに今日、静かでいい夜だったから、さァ……
ホッとしたってのと、生きてるなァってのと、好きだなァってのが、混ざって、キスしたくなっちまった」
悪かったよ、ともう一回言われて、やっぱり謝ることねェじゃんって思う。
だって、おれも、同じだから。
そりゃ、恋人同士になったんだし、そろそろ一歩進んでもイイんじゃねェのって気持ちが最近あったのも事実だけど。
今日、この日。確かに強い敵だったけど、怪我でどっちかが寝込むこともなくって。
ロケーションどうこうとかよりも、ふたりきりの時間を、静かに穏やかに過ごせて。
それが嬉しくて、いろんな気持ちがないまぜになっている、そんな気持ちは、おれにもあった。
「サンジ、あの、な」
「ん?」
「おれ、今日、ちゃんと風呂に入ってねェし、火薬もだけどいろんな武器使ったからメチャクチャな臭いしてると思うし、他にも多分、アレなトコロあると思う、けど」
誤魔化さずに、ちゃんと言う。今更、誤魔化すのもバカみてェというか、よくねェなと思うから。
恥ずかしいのは変わらないから、顔は熱いし、口もいつもみたいにスラスラと回らねェんだけど。
でもさ、気にして拒否したい気持ち以上に、やっぱりもっとこう、近づきたい気持ちが勝ったから。
「そ、それでも、だいじょうぶ、で、しょう、か」
途切れ途切れになってしまったけど何とか聞けば、もっと抱きしめられて、当たり前だ、って力強い言葉まで返ってくる。やばい。即答で受け入れられるって予想以上に嬉しい。
「今傍にいて、してェなァって思ったんだから、キスしようとしたんだ。
クソ問題ねェに決まってんだろーが。大体、今日はおれも似たようなモンだ。おれもだめなのかよ」
「だ、だめなことあるかよ!」
「じゃあ、するぞ。いいか?」
「ど、どんとこい!」
「何だソレ」
ちょっと体を離されて、向かい合う。
今からキスしますっていう空気は、緊張するし落ち着かないし、息とかどうしたらいいんだって頭ン中がグルグルするけど。
そうこうする内に近づいてくるのがわかったから、目だけ閉じて、とりあえずはラブコック様にお任せの姿勢を取ることにしたのだった。


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