作品 | ナノ


15

朝起きだして、一番に考えるのは一つ。朝食のことだ。
昨日の夜から仕込んでいた朝食の準備をすべて駆使して、食いしん坊な船長やみんなのために一仕事をする。
長年のコックとしての生活で慣れた早起きはもう体にしみ込んでいた。
だから今日も、目が覚めてすぐに上半身を起こして、体に異常がないかを確認する。
ケガはしてないし病気の気配もない。大丈夫、今日も健康体だ。
おれはすぐに寝室を出て、海を見渡した。
大きな太陽が、ちょうどメリー号の頭のほうから顔を覗かせていた。
ふと、太陽の眩しい光の中に、一つの影を見つけた。
眩しくて目を細めながら、こんな時間に誰が起きているのかと首を傾げる。

「おい、どうした?」

思わず甲板に降りて近寄ってみると、ふわふわした黒髪の男が振り返った。

「サンジ」

何がそんなに嬉しいのか、とびっきりの笑顔で振り向いたのはウソップだった。
いったいいつからここに立っていたのか、ウソップは少しだけ眠たそうに眼を擦りながらおかしそうに笑った。

「どうしたんだよ。こんな朝早くから」

問えば、ウソップはニコニコ笑って「ん−?」と肩を竦めて笑っている。

「なんだか、ルフィたちに出会ったころのことを思い出して、寝付けないでいたんだ」
「出会ったころって、そんなに昔じゃねェだろう」
「そうだけどさ。ああ、ルフィやゾロやナミに出会って村を出て、サンジに出会って、グランドライン越えて、ビビに出会って、チョッパーに出会って」
「いろいろあったな」
「うん、そんなことを、思い出してメリーと喋ってたんだ」
「メリーと?」

ウソップが少しだけ神妙な笑顔で頷いた。朝日に照らされているその横顔がどこか清々しいと思った。
ふだんならここで、夢みたいなことだって笑ってやるんだが、今日のウソップの顔を見るととてもじゃないがそんなことは言えなかった。
だから、このロマンチストの夢見がち野郎に合わせてやることにした。

「メリーは、楽しそうだったか」
「もちろん!」
「そうか、よかったな。でも、思い出話なら、おれだって付き合ってやるのに」

なんだか、メリーにウソップをとられてしまったみたいで、どこか悔しい。
メリーに嫉妬するなんて、自分でも笑ってしまうけれど。
でもおれの気持ちなんか知りもしないで、ウソップは笑った。

「サンジは朝食の支度があるだろう。朝早いのに、こんなことに付き合わせるのは悪いかなって」
「いいんだよ。それよりこんな外に一晩中いたら、風邪ひいてチョッパーを困らせちまうだろうが」

おれが背中をたたいてやると、ウソップは渋々と言った顔でおれの先を歩いた。

「おれは、迷惑なんて思わねェぞ」

頼りない背中にせめて頼ってほしくて、おれは思わず小さく呟いた。
するとウソップはきょとんとおれを振り返って、にっこりと微笑んだ。

「そんなことわかってるよ。でも今日はメリーと喋りたかったんだ」

ウソップにそう言われて、背中を押してやっていた手に変な力が入る。
メリーのことがとても大切なのはよく知っている。壊れた部分を修復するコイツの顔は、真剣そのものだ。
でももっとおれを頼れよ。そうじゃなくてもお前は弱くて、すぐにどこかへ行きそうになるし。
そのくせお前は変に優しいもんだから、いろんなやつに好かれてくるし。
そりゃあお前はそれでいいのかもしれねェ。
でも、おれは。

「サンジ?どうした?朝食の準備手伝うぜ?」

ウソップの声に我にかえると、ウソップはいつのまにか俯いていたおれの顔をのぞき込んでいて、思いのほか顔が近い。
お前はそれでもいいかもしれねェけど、おれはいやだぞ。ウソップ。

「ウソップ、お前、もっとおれを頼れよ」
「はあ?頼ってるだろ。おれはお前を。今だってとびっきりうまい料理を作ってもらおうとだな」
「ちげェよ。おれ、お前にもっと、頼られたいんだ」

おれの気持ちがふわふわと口から出ていくのを、ウソップは神妙な顔で聞いていた。
おれは止まらない口でどんどん喋っていく。

「お前が好きだから、頼られたい。それじゃだめか」
「サンジ、おれのこと好きなのか?」

意外そうに声をあげるな。もうずっとおれはお前が好きだ。
でも、お前の一番はやっぱりメリー号で、おれは足元にも及ばなくて。
メリー号にずっと嫉妬して、でもぶつけようのない苛立ちが爆発しそうになる。
おれはこんなにもクソかっこ悪いのに、どうしてかウソップは笑わない。
まだ神妙な顔をして腕を組んでいる。

「本当に?サンジもよくウソついたりするからな」
「本当だっての、このクソッ鼻。疑いやがるってのか」
「でも、サンジ」
「なんだよ」

よかったと、ウソップは呟いた。
なにがよかったんだと言う前に、にやりと微笑んだウソップがおれの頬にキスをした。

「おれもおんなじだ」

そう言ってくれたウソップは朝日を受けて輝いている。
おれは呆然としながら、ウソップのことを見つめるしかなかった。

「おれも好きだよ。サンジ」
「おれからもキスしていいか?」
「初めてだから優しくな」

そう微笑むウソップに、当たり前だと答えてやることもしないまま、おれは優しいキスをする。
メリーが見ているが気にするか。見せつけてやる。次はメリー号が嫉妬する番だ。
朝日に溶けていきそうな幸せを、みんなが起きるまで堪能した。
そのせいで朝食の時間は少し遅れてしまったけれど、特別メニューを作ってやるからそうぶーたれるんじゃねェぞ船長。
大丈夫、クソうまい魚を今から焼いてやるからな。


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