「ここら辺、かなあー?」

ジョーリィの部屋の近くだろう場所まで来て、さてどうしようかと悩む。ここら辺まで来たなら呼べば出て来てくれそうな気もしたけど、でも迷惑かける訳にはいかないしなあ…。

「よし、勘でいこう!どーれーにーしようかなー、此処!」

ドアノブに手をかければガチャンと…………まあ、勘で一発は無理だった。と言う事で何個かドアを開けて確認してみると、意外とすぐに当たりの部屋にたどり着いた。

「………ジョーリィ、いる?」

「……何だ、私はまだ実験中で………ああ、君だったか、お嬢さん」

「あっいた!おはよー!」

えへへと笑いながら料理を持って来た事を伝える。渡しながら部屋を見渡してみると、何だか色んな本があったり薬品があったりして凄いいかにもな感じがした。

「おはようの時間はとっくに過ぎたと思うがね…まあ良い、これは受けとっておこう」

「うん!ねえねえ、何か凄いの沢山あるね!この辺、少し見ても良いかな?」

「ほう、君はこれに興味があるのか。良いだろう、見てみると良い。……それと、その幕からは先に行かない様に」

「分かった!」

試しにと目についた本を手に取ってみると、不思議な数式や図形等まさに理学的な内容ばかりが乗っている。私にとってちんぷんかんぷんなこの本は、まるで一種の絵本にも見えてきて。他の本も似たような内容で、とりあえず…私は余り向いてないジャンルかなって思った。

「うわ、凄いなあ……ジョーリィは天才だね!」

「ククッ天才とは、有り難い褒め言葉だね。勉強すれば、君にも分かる様になるさ」

「ほんと!?ユナ、頑張ってみようかなー!って、そうだジョーリィ!」

「何だね、君は色々と騒がしい……」

私の役目は終わったに等しいけど、ただ単にご飯を運びに来た訳ではない。それよりも私には大事な用事があったのを、すっかり忘れそうになっていた。

「ジョーリィ、ごめんなさい!ユナ、ファミリーに入ったばっかなのにもう仕事サボっちゃった……ずっと、寝てたから…」

「……………」

「あっでも私もうサボったりしないから!!眠気には、次は負けないよ!」

高らかに宣言をしてジョーリィを見れば、何故か何も言わずにジッと見つめられる。端正な顔の彼に見られるなんて、誰でも頬が染まって意識するに違いない。そのまま近付いて来るジョーリィに石の様に固まった私は、流れに任せるしか出来ない。

「っ……じょ…ジョー、リィ?」

「……………ユナ」

「な、何………ふわっ!?」

「君のアルカナ能力は、中々興味深い………」

「ひ、ひぇえええ…………!(て、てて、手がっほっぺたにいい!!)」

「こんな長く寝ていたと言うのは、君のそのアルカナ能力の代償か?睡眠の代償……星か太陽か、どっちなんだ」

「え?あ…………えと……」

頬に触れられ近付いた距離のまま、射抜く様に視線が私と重なり合う。まるで瞳の奥、心を見透かされると思う位の視線は不思議な感覚がして、固まった身体は動く事を忘れたみたいに止まったままで、今の私はまるで、命が宿っただけの人形の様だ。

「私の代償、は……分かんない。気づいたら、睡眠が沢山必要で………でも」

「…何か、思い当たる節でもあるのか」

「たまに、頭の中に話しかけてくるの……2人、いつも仲が良くなくて…1人は女の人。女の人は優しい人で、でもいつも私に謝ってる。その人…………"私は貴方を照らさないといけない筈なのに、暗闇に閉じ込めてばかりでごめんなさい"って……」

「…………それは、イル・ソルか」

私がアルカナ能力を宿し、不意に話しかけてきた2人。最初は気のせいかとも思ったけど、さすがに何回も話しかけられると認めざるを得なくなる。私はそれがタロッコの2人だとは知らずに話していて。知らず知らずに、契約を―。

「多分………代償の話しはした事がないから、分かんないけど…そもそも、アルカナ能力に代償が付き物って事も知らなくて」

「…全部、タロッコに乗せられたと言う事だな」

「…………っ!!そう、なのかな…」

タロッコに乗せられた。たしかに、幼い子供に都合良く言い聞かせるなんて簡単に出来る。ただでさえ外に出られなくて家で暇を持て余していた私に付け込むのは、容易い状況だった………私は、だから簡単に受け入れて契約してしまったのか。それで自分をさらに閉じ込める状況にして………でも。

「でっでも!私はイル・ソルに感謝してる!」

「ほう?是非、理由を聞きたいね…こんな代償を持ってまでの利益とは、興味深い」

「…たとえ、睡眠が代償だとしても、寝れば済む話だし……な、ななな何より!ジョーリィに会えたから!!」

「何………………?」

「(ってユナ何言っちゃってんのー!!完全にやってしまった感!!!)い、いやっこれは、その!」

「ククッ…………やはり君は面白い。つまり、君は私の事が好きと言う事になるのかね」

「すっすう!!?!」

"好き"とストレートに言われた瞬間に身体全体が沸騰したみたいに熱くなる。いや、ジョーリィが好きなのは事実だし一目惚れしたに過ぎないからアルカナ・ファミリアに入ったのも理由の一つで…これは、まさに彼の言う通りな訳で。

「す、すす………好き!うん、好き!!」

「フッ随分正直なお嬢さんだね、君は。…とくにこれと言って気にしてないな。元々相談役は、私しかいなかったのだから」

「…!!ユナ、仕事頑張る!だ、だから……傍で、補佐しても良いかな……」

もうこれは一種のプロポーズなのではないかと思いつつも気になっていた事を恐る恐る聞けば、とくに気にした様子もなく「君がやりたい様にすると良い、私の邪魔をしなければね」と言われ思わず頬が緩む。改めてこれからよろしくねと手を出せば、彼も握り返してくれてますますジョーリィが好きになった。






「えへへ、ジョーリィ好きー!」

「(集中出来ない…)邪魔はしないと、約束したはずだが」

「えっ?あ、ごめんなさい!ユナ無意識に呟いてた!」

「無意識にしては声が大きいぞ」

「嘘!き、気をつけます………うーでもやっぱり格好良い!」

「……………」







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