6.からかいのまなざし

「触り返して良いですか??」

「は………い……?」

今日の出陣で、鯰尾さんが怪我をした。怪我の具合は中傷ほどとの事で、早速手当てをしましょうと手当て部屋に連れて行く。手当ての為に腕に触ると、不意にそう告げられ一瞬自分の思考回路が時を止めた。ギギギと機械のように顔を上げれば満面の笑みの鯰尾さんが念押しの為にね?と私に再度問いかける。

「ま、まま、待ってください脈絡無いですよね今の流れ!」

「えー?そんな事気にしないで下さいよ。ほら、女の人は主しかいない訳ですし、何だか柔らかそうで」

「やわ………!?いやいや今は手当ての最中ですからっひいぃい!!」

「こんな傷、なんとかなりますって!あははっやっぱり主柔らかいですねえ」

何も知らないひとがこの状況を見たら果たしてどう思うのだろうか。……いやいや、こんな事は考えなくても分かる、大変な状況だと!!仮にも鯰尾さんは手当ての為に上半身は裸な訳だし、鯰尾さんは相変わらず私に擦り寄っている。いや、こんな可愛いし恰好良いひとに擦り寄られたら嬉しいのは事実だけど、でもでも恥ずかしいからとりあえず何とかしたい!!
「おーい、今日万屋行くんじゃなかったのか……………って、」

「いいい和泉守さん助けてくださ、まっ待って襖閉めないでーーー!!!」

もの凄い速さで閉められた襖の奥にいる和泉守兼定さんに、全力で呼びかける。案の定一瞬見た和泉守さんは凄い表情をしてて、やばいものを見た、と言った感じだった。諦めないで和泉守さんを呼び続ければ「聞こえてるっての!!分かった今開けるぞ!!」と少々お怒り気味のまま襖が開いた。

「…………た、助かりました。和泉守さん、ありがとうございます」

「あーあ、折角お楽しみ中だったんですけどね」

「鯰尾お前とりあえず黙っとけ」

ズバッと和泉守さんが切り捨てるとさすがの鯰尾さんははーい、と大人しくなった。本当に助かりました、と再度御礼を述べれば、未だ険しい表情のまま和泉守さんが此方に顔を向ける。………どうしよう、凄く顔が怖いです和泉守さん。

「あんたもだ」

「は、はい……?」

「お前普段からこんな感じだよな?前も次郎太刀とか岩融とかに捕まってたよな?違うか?」

「めっ滅相もございません………左様にございます…………!!」

「危機感足りなさすぎだろ!少しは自覚してくれ!!」

「かかかかしこまりました!!!ごめんなさい!!」

勢いで和泉守さんに土下座をすれば、上の方から盛大なため息が聞こえた。これからは気をつけますと再度告げれば、ああそうしてくれと釘を刺される。とりあえずまだ何か言われるか分からないので頭を下げたままドキドキしていると、襖の奥から小さく声が届いた。

「………!!ほ、ほほほ蛍丸さん!」

「?どうしたの??っわ、」

「ああもう良かった蛍丸さん万屋行きましょうって事なので行ってきます!!」

「はあ!?きょ、今日はオレじゃないのかっておい!!?」

急ぎ足で蛍丸さんを引っ張り足早に部屋を出る。また帰ったら和泉守さんに怒られそうだなあ、と頭の隅で思いつつ走る足は止めない。蛍丸さんは驚きながらも私の手を離さずに着いてきてくれる。本丸を後にする前に一瞬だけ自分の部屋に戻りお金を適当に持ち出しその足で万屋に向かった。





「ふう……本当に助かりました。ナイスタイミングです!!蛍丸さん」

「ないす……?俺、邪魔じゃなかった?」

「そんな事ないです!あのままだったら、きっと和泉守さんのお説教がずっと続いてたと思うので…」

「えへへ、主なんかやっちゃったんだね」

素敵な笑顔にそう告げられると、本当にやってはいけない事をしてしまったのかと罪悪感が自分を包む。でも先ほどの鯰尾さんの行動は私はあくまで被害者であると思いたいです。はあ、と深く溜め息をつけば隣にいる蛍丸さんから大丈夫?と心配の眼差しをくれる。ありがとうございます、と蛍丸さんの頭を撫でれば自然と心が癒されていく。嬉しそうに撫でられる蛍丸さんを見ると、一緒に万屋に来て良かったと改めて思った。

「なでなでするの、楽しい?」

「え?はい、楽しいっていうより、嬉しいというか……癒されます」

「ぎゅってするより?」

「え?………うん?」

「この前、ぎゅってしてたから」

「ええっ!?」

唐突に爆弾発言をする蛍丸さんに動揺が隠し切れない。一体いつの話ですかと問い詰めたら、この前の熱の時の大倶利伽羅さんとのだと言われボンッと顔が熱くなるのを感じた。今なら気を失った方が良い、と考えてしまう辺り相当な重傷を負わせた蛍丸さん自身は美味しそうにお団子を頬張っている。か、かわいい……っ!!でも、見られてたのは恥ずかしい…!!何も言えない自分に過去の記憶がぐるぐると呼び戻される。もう、大倶利伽羅さんの事考えるだけで今はダメだ、顔が熱いよ。

「ねえねえ、俺の事もぎゅってして?」

「ほ、蛍丸さんを…!?」

「あと、さん付けも取ってほしい。……ダメ?」

「っ!?」

上目遣いで見つめられ、恥ずかしい事をサラッと言われ、開いた口が塞がらない私がいる。皆さんは由緒正しき神聖な刀で、私如きが軽々しくさん付けを取って良いものなのか。でも本人が希望しているのは事実な訳だから……いやでもでもやっぱり私と位が違いすぎるし、でもこのまま蛍丸さんをさん付けで呼んだら悲しい思いをされそうだし!!頭、痛くなってきました。

「えへへ、主暖かいね」

「そうですか?」

「俺の名前は?」

「ほ、蛍……丸、さん」

「むぅ」

「だ、だって!そんな簡単に呼び方、変えられません…!」

とりあえず抱きしめて話を逸らす作戦、失敗。案の定ぶすくれてしまった蛍丸さんをよしよしと撫でて機嫌治しを図るも、これも失敗。ううーと唸り蛍丸さんの頭に自分のおでこを当てて息をつくと下から縮んじゃうー!!と声がかかる。驚いてすみませんっと勢いよく離れた際、蛍丸さんと視線が合った。

「俺は主ともっと、近くなりたい」

「え………?」

「主、1人にべったりだから。皆もきっと思ってるよ。……本人は気付いてないけどね」

「べ、べったりだなんて、」

「だから俺が1番最初に呼んでほしいの」

真剣な眼差しを向けられるのは、苦手だ。どうしても逆らえなくなってしまう。意を決して口を開けば、期待に満ちた表情にウッと息が詰まる。たかだか名前を呼ぶだけ、本当にそれだけ。なのにこんなに緊張しているのは、彼が人じゃないから?

「ほ……たる、まる」

「!!」

「……くん」

「………もう」

やっぱり、呼び捨てで呼ぶのは無理ですと最終的に蛍丸くんで落ち着いた。彼も何とかそれで納得してくれたのか笑顔を見せてくれる。蛍丸くんは、笑顔が素敵だねと伝えればぽかんとした顔を見せた後、いつも被っている帽子で顔を隠してしまった。え、もしかしてまた怒ってる??もう一度呼びなれないながら蛍丸くん、と声をかければ突然腕を引かれ、僕あれ欲しいと店を移動する事になる。慌てて会計を済ませ、彼を追いかけた。






「ほ、蛍丸くん、どうしたんですか」

「何?」

「…怒ってます、か?」

「ううん、全然。……主が大好きって、思っただけ!」

「――――――っ!!ずるい、」


一歩近づいたのは、君だけじゃない。



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