5.これから出逢う全てのものを君に重ねていく

大倶利伽羅さんの後に一振さんが来てから数日。とりあえず今の所は問題なく生活している。後々聞いた事は、大倶利伽羅さんと一振さんが来たのは違うタイミングだったのに、一振さんは大倶利伽羅さんに話しかけようとしたら此処に来ていた、と言っていた。推測するに、向こうの世界のひとがこの世界に来たから向こうの世界の時間が止まったーーーーと考えられる。詳しい事は分からないけれど、いつまでもお二人を此処にいさせる訳にもいかないし…………だからと言って、帰ってほしいとも思えない。出来ることなら、一緒にいたいって思う。


「(だれ、なの?)」

用事を済ませて帰ろうとした矢先、電車からずっとある人が付いてきている様な気がした。さり気なく振り返ると、やっぱり、何分も前から同じ人が後ろにいた。どうして付いて来ているのかは分からないけれど、いつも行くコンビニで飲み物を買いに行くと、まるで待っていたかの様にコンビニの外にいたのが見える。どうしよう、と不安に思っていると、ふと握り締めていた携帯が目につく。そこからある電話番号を見つけた私は、思い切って電話をかける事にした。





ジャージに仕舞っていたカラクリが、震えた。名前は確か、携帯と言ったか。俺が此処に来る前に見たカラクリを、俺は今預かっているといった形で持っている。どうやらこれを持っていると離れている奴とでも連絡が取れる、というように言っていたが…………実際、これを使った事はまだない。二台持ちしているので、と渡されたこの携帯には、女を思わせる明るい色に、よく分からないストラップ、という物がくっついていた。ボタンを押して画面を見ると、連絡がきたという合図が表示されている。あんたから教わったやり方でスライドすると、突然画面から声が聞こえてきた。………どうなってるんだ。と外に視線を移すと、一期一振は俺に気付かず洗濯物を取り込んでいた。とりあえず、聞こえやすいように画面に耳を近づけた瞬間、あんたの声がよく聞こえた。

「もしもし、聞こえますか?」

「ああ、」

「大倶利伽羅さん…っ!良かった………電話、出てくれてありがとうございます」

何処か切羽詰まった声でそう告げられた。違和感を感じ何があった、と聞くと、途端にあんたの声が小さくなる。分からないながらもボリューム、というものを上げると、恐る恐るといった感じであんたが話しているのが分かった。あんたの後ろからは、妙な音と声が聞こえる。外に出ない俺からは、何も判断が出来ない。すると不意に、付けられているんです、と言った瞬間理解した。このまま家にいるのは無駄だと。

「大倶利伽羅殿、どうしたんですか?」

「少し出る」

「出るとは外にですか?随分と急ですな、何かご用事でも?」

「………………散歩だ」

そう適当に告げ家を出た。マンション、というでかい建物の階段を下り道に出る。再度画面に耳元を近付けると、あんたの不安そうな声が聞こえた。あんたを不安にさせるくらいなら、こっちの世界じゃなく、向こうに連れて行ってやるというのに。生憎、帰り方はさっぱり分からないが。……いや、それよりも、だ。

「何処にいるんだ」

「え?あの、コンビニと言う所で…………駅から近い所なんですけど…」

「今行く。どっちだ」

「えっ!?ぁ、え、えっと、家を出たら、右の道を真っ直ぐ行ってーーー」

言われた道順に走って行くと、段々と周りが騒がしくなっていくのが分かった。途中、人間でも馬でもない塊は、車や自転車、バイクというものだと言われた。そんな事はどうでもいい……と思うも、やはり気になる所はある。今はそれを避けつつただ言う通りに進むと、突然電話から声が遠ざかった。





「私に、何の用ですか…?」

「君、この辺りに住んでるよね?最近よく見かけるなあと思って、気になっててさ」

「は、はあ……近所と言えば、近所、ですけど…」

「俺もこの辺りに住んでるんだ。よかったらお茶でもしてゆっくり話したいんだけど」

「あ、の………私、待ってるひとがいて」

大倶利伽羅さんが来た時に分かりやすい様にコンビニの外に出ると、待ってましたと言わんばかりに例の人に声をかけられてしまった。連れがいると言えば諦めてくれるかと思ったけど、現実はそう上手くいかないものだった。まだ通話中なのに、画面の向こう側では大倶利伽羅さんがいるのに、目の前にいるこの人のせいで電話する事を阻まれてしまう。ぎゅっと携帯を握り締めると、通話中で少し温まった携帯の熱を感じた。何とかこの状況を打破して彼を振り切らなきゃいけないというのに、彼はどんどん私との距離を詰めてくる。思わず怖くなって後ずさると、それを阻止されるように腕を捕まれ更に恐怖が増した。ひっ、と声にならない声を出すと、この知らない人は不敵な笑みを私に向ける。だれかたすけて、私の脳裏に過るひとは、今一番会いたいひと。

「っ手を離せ………!!」

怖くて目を瞑っていると、さっきまで携帯越しに聞いていた声がすぐ近くで聞こえた。それと同時に私の身体はぬくもりを感じる。勢いよく顔を上げた先にいたのは、凄く機嫌の悪い顔。……こ、こっちも怖い!と思ったのは私だけの秘密。でも、私の肩を強く抱く姿はとっても格好良かった。

「チッ本当に連れがいたのかよ」

「早く消えろ。逆らえば斬る」

「っ!?大倶利伽羅さん、そこまでは…!」

「何だ、当然だろ」

いつも生きるか死ぬかの瀬戸際の時代で生きてるからか、大倶利伽羅さんが放つ殺気は凄くピリピリして、何というか、迫力が全然違った。さっきまで私に対して大きな態度を取っていた筈なのに、大倶利伽羅さんに睨まれたからか彼は目に見えるほどに凄く怖がっていた。……私も、この視線を浴びたら泣きそうになります。その後はもう早く逃げたかったのか、捨て台詞的な言葉を言いながら何処か遠くへ走っていってしまった。張り詰めた空気が溶けて、やっとまともに呼吸が出来た様な感覚。周りに色々な人が行き交う中で私を助けてくれたのは、たったひとりのひと。

「……………あ、の」

「何だ」

「ごめんなさい………今だけ、手、繋いでくれませんか…?」

やっぱり、大きな問題にはなっていなくとも一度味わった恐怖は中々消えない。後からもし大倶利伽羅さんが来てなかったらと思うと、凄く怖くなった。遅れてくる手の震えは両手で握って治るものではなく、まるで此処にいる他の人が敵に見えてくる。そんな事はあり得ないって分かっている、分かっている筈なのに、周りの人達が今にも何か仕掛けてきそうで。

「………手ならいくらでも繋いでやる。此処にいるだろ、俺は」

「…………!!はい…っあったかい、です………っ」





「お帰りなさい。…おや、御二人はご一緒だったのですか?」

「………偶々だ」

あの後は、真っ直ぐ家に帰ってきました。元々帰る道中での出来事だったから当然といえば当然なのだけれど……家に着くまで、大倶利伽羅さんはずっと私の手を握ってくれていた。隣にいる安心感、これは向こうの世界で私がずっと味わっていた感覚。絡むように繋いだ手からは、何となくだけど彼の気持ちが伝わってきたような気がした。部屋に入れば一振さんが優しく微笑み、おかえりと言ってくれる。一緒にいた経緯は何故か大倶利伽羅さんは一振さんには語らず、偶々出会った、といった形で終わった。その点に関しては少し疑問が残ったけれど、一振さんに変な心配はかけさせたくないし大倶利伽羅さんが話さないのならば、それで良いのかなと思った。

「これから、」

「どうかされたのですか?大倶利伽羅殿」

「あいつが出かけた時は俺が迎えに行く」

「!……それはあんまりですな。大倶利伽羅殿だけが良い思いをするのを、黙って眺めているほど私は出来ておりませんよ。そんな事を言い出すのは、今日彼女がそうせざるを得ない状況になったからですね?」

「…………別に隠してた訳じゃないからな」

「ええ。あくまで彼女に心配をかけない様に、との事かと。主には隠せても、私は疎くありませんから」

私が寝た後、そんな会話をしていたらしい御二人は後日、本当に迎えに来てくれるようになった。話し合いの結果交代で迎えに行くという方向になったようで、私の周りの友達から偶々その場面を見たらしくどっちが本命?といった質問が飛んできた。確かに、ジャージを着てても元が良ければ何でも格好良く見えてしまうから気付かれてもおかしくはないけど………結局、友達には親戚のひとと説明せざるを得ませんでした。

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