4.夢の続きをくれたのは、あなただけだったよ

それから私と大倶利伽羅さんの、不思議な共同生活が始まった。

基本的に大倶利伽羅さんには家にいてもらい、私は元々の生活を送っている為に家にいたり外にいたり様々だ。それから大事な記憶の事は、幸いなことに少しずつだけど思い出してきた。主に思い出したのは1軍メンバーで、それ以外のひと達も、着実に思い出してきている。大倶利伽羅さんに色々と皆さんの事を話してもらったから、思い出せたのが大きい。とは言っても、大倶利伽羅さんは馴れ合う気はないから他の奴らの事は知らない、と言われ聞き出すのは本当に大変でした。何でもいいので、と言うと口から出るのは私の事ばかり。オマケに、あんたの事しか覚えてない、と彼なりの冗談を告げられた時は、顔が沸騰するかと思った。

「ただいま戻りました〜!」

「ああ、」

「いつも家事ありがとうございます、大倶利伽羅さん」

私が帰ってくると、丁度洗濯物を入れていた大倶利伽羅さんと目が合った。自分の事は自分でやる、という性格だからか、クールな性格とは裏腹にかなり優しくて、手伝いも進んでやってくれる。ふう、と荷物を置き早く部屋着に着替えようと上を脱ごうとして、一瞬停止した。お、大倶利伽羅さんがいるのに何しようとしてるの、私!!と気付き急いで洗面所に行って着替えてきた。一人暮らしの癖、何とかしなきゃ………。と物思いにふけっていると、また聞き覚えのある音が聞こえてきた。急いでリビングに戻ると、大倶利伽羅さんの後ろに、誰かいる。

「…………………お前」

「あったた………お、大倶利伽羅殿ですか…?」

「ひと、ふりさん…?」

水色の綺麗な髪を靡かせて、また向こうの世界独特の服装…………かと思いきや、何故かジャージを着ていた。あれ?と思いつつ、細かい事はとりあえず置いておく。それにしても、また向こうの世界から来るなんて、私の時はすぐ帰れなかったのに、一人暮らしの家にどうやって3人が住むのでしょうか。

「っ無事だったのですね…!貴女に何かあったのかと、本当に心配致しました」

「あっご、ごめんなさい!私も突然戻ってきたので、ずっと気がかりでした…お元気そうで、良かったです」

両手を握られドキドキしながら答えると、身に余るお言葉です、とこれまたドキドキするくらいの王子様スマイルを頂いた。ジャージを着てても様になってる!とぼけっとしていれば、隣からおい、と声がかかる。大倶利伽羅さんは何故か少し不機嫌で、ちょっと怖かった。



「一振さんが増えたので、今日から寝る場所が変わりますね」

その日の夜。今までは私が普段使っているベッド、大倶利伽羅さんは友達が泊まりに来た用として置いてあった布団を使っていたけれど、流石に二人分は用意がなかった。その為、今日からは寝る場所が変わってくる。彼らの選択肢は申し訳ないけれど、私と共に布団で寝るひとが一人、もう一人は布団。

「ということなんですが…その、どちらがベッドで寝るか、決めてもらって良いですか?」

「では、是非私が共に」

「っおい、何でそうなる」

「おや、大倶利伽羅殿は布団で宜しいのですよ?」

え、えっと、ど、どうしてお二人の間で火花が散っているのでしょうか。二人は何故か布団ではなく、ベッドの取り合いを始めている。まあ現代の物は良い物を使っているから、ベッドが良いのはよく分かる。でも大倶利伽羅さんと一振さんをベッドを一緒に使うのは無理があるので、どうしたものか。

「じゃっじゃあ、交代にしましょう!今日は大倶利伽羅さん、明日は一振さんといった形で!」

「………仕方ないな」

「かしこまりました。改めて、これから宜しくお願い致します」

ーーーと、咄嗟に言ってしまったものの。大胆発言すぎたのは後々思い知ることになった。この世界での機材の使い方の説明、夜ご飯、お風呂、寝る前の歯磨き、順番に最後までやっていくと、残す所はただ寝るだけのみ。パチンとボタンを押せば、部屋は一気に暗くなる。私が先にベッドに入ると、その後から大倶利伽羅さんが入ってくる。う、うわあ、ちっ近すぎます…!!出来る限り壁に寄って大倶利伽羅さんが広く使えるようにしてるけど、実際の所大丈夫なのか不安になる。チラッと大倶利伽羅さんの方を見ると、私の視線に気付いたのか視線が重なった。

「せ、狭くないですか……?」

「俺の事は構うな。あんたこそ、無理しなくていい」

「えっぁ、ひっ……!?」

壁にくっついていた身体が大倶利伽羅さんに引っ張られる事によって離れる。向かい合うみたいな形になってどうしたら良いのか分からず固まっていると、徐に手を取られ繋がれた。………何だか、こっちの世界に来てから凄く甘くなった気がします。それはまるで、私の記憶が戻るまで傍にいてくれる約束を守ろうとしてくれるようにもみえる。恐る恐る私からも少し握り返すと、またパチンと弾けるように記憶の欠片が見えた。

(大丈夫、ですよ)

(何の話だ)

(私は、大倶利伽羅さんが一番、大好きです)

(!……………別に、そんなんじゃ、ない)

「…………あの、」

一振さんを起こさないように小さな声で呼びかけると、視線だけで何だ、と先を促されたような気がした。良いように解釈して自分から大倶利伽羅さんに近付くと、大倶利伽羅さんの香り。やっぱり、このひとの隣は凄く安心する。常に守られているようなそんな感覚。まだ全てを思い出した訳ではないけれど、今思い出した時の気持ちは、確実にこのひとが好きだと実感した。きっと、大倶利伽羅さんも、私を好きでいてくれてる…………と、思う。緊張しながら口を開くと、前まで言えた事を言う事が、初めて言うみたいで凄く恥ずかしく感じた。

「………す……すき……です」

「……………っ……!」

「わっ!? 」

繋がれた手を引っ張られた事により、また更に距離が縮まった。胸元におでこが当たって、抱き締められているような体勢。ふと下からどうかしましたか?と声がかかってきて、一振さんを起こしてしまった事に焦ってだだだ大丈夫です!!とどもってしまった。やってしまった、と思うも前言撤回は出来ない。そんな私を見兼ねてなのか、ポンポンと大倶利伽羅さんが頭を撫でてくれた。そして、流れるように頭を抱き締めるように包まれる。少しの沈黙のあと、ボソリと告げられた声は、私にだけ届いた。

「……………俺もだ」


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