大倶利伽羅さんと!

パキッと音を立てて簪が割れたのは、つい数日前の話。特に思い入れのあるものでも無かったし、簪が無いなら元の世界で使ってたヘアゴムを使えば良いだけーーーそう思ってた。特に皆さんも気にしてないというか、気付いてなかったみたいだから私もそのままいつも通り過ごしてた。今日までは。

「万屋に、行く……?」

「………何か問題でもあるのか」

「えっ!?いえ、全然、何も!」

大倶利伽羅さんが突然万屋に行くと言い出すので、思わず聞き返してしまった。いつも大倶利伽羅さんはお留守番か出陣しているかだから、万屋に行くなんて滅多に無い。ましてや、自分から行くだなんて初めて聞いたかもしれないです。それも、馴れ合うつもりは無いと言っていたにも関わらず、彼の隣には燭台切さんが笑顔で立っていた。

「ほんと、素直じゃないよね」

「………五月蝿い」

「………………?もう、行くんですか?」

「うん、ちょっと急用だからね。でも終わったらすぐ帰ってくるよ」

そう言われ、お二人は既に準備が出来ていたようなので入り口まで見送りに行く事にした。いってらっしゃい、と告げると大倶利伽羅さんが振り返ってくれて、ボソッと小さな声ですぐ戻る、と言っていたのが聞こえた。あ、嬉しいと思った瞬間に私の頬は緩んでしまう。やっぱり、好きです。



「すぐ戻るとは、言ってましたけど………」

「ふたりとも中々帰って来ないね、主さん」

「そうですね………」

朝の家事も終えたので浦島さんとゆっくりしていながらお二人の帰りを待っていた。皆さんには内緒、ということでお菓子を食べ話をしていると時間はあっという間に過ぎていく。過ぎてはいくのだけど、中々帰ってこない。流石に心配にもなってきたけどあのふたりに限ってもしもの事があっても大丈夫だと思うので、やはりここは大人しく待っているしか出来ない。

「襲われてたりして………なんて、そんなことないよね」

「大丈夫ですよ。お二人はとっても強いですし、というより万屋に行ってるだけなので!」

「そっそうだよね!!あのふたりは俺達のお土産でも考えてるんだよ、分かんないけど!」

「そう、そうですね!あ、浦島さんは何が欲しいですか?」

「、俺?俺はー…………主さんかな!」

「えっ!?」

軽い冗談の話のつもりが衝撃的な話になってしまった。………で、でもこれも冗談の延長線上ということですよね……?一人で悶々と考えていると、隣にいた浦島さんに主さんどうしたの?と声をかけられる。すぐに意識を戻した先に見えたのは、浦島さんの奥にいた大倶利伽羅さんだった。

「えっ、あ、お、大倶利伽羅さん!!」

「あっおかえりー!!もー、遅いだろー?主さんと俺、待ちくたびれたぜ!」

「お前は関係ないだろ…………はぁ」

特に怪我もない辺り、どうやら襲われていたという予想は外れていたようで一安心する。おかえりなさい、といつものように言えばただいま、と返事が返ってくる。続いて後ろにいた燭台切さんからもただいま、と返ってきた。二人の手には沢山買ったであろう色々な物があり、でも大半は本丸で使う物だった。確かに最近また賑やかになって、見ての通り浦島さんも最近来たばかりの新人さんだ。私が気付かなきゃいけなかったのに先に買ってきて頂けるなんて、気がききすぎます。

「じゃあ、僕たちはやる事があるからね」

「え、何するんだ?」

「まあ、お土産だよ。向こうで渡すから」

「っあ、主さんまた後でな!!」

「、はい!」

バタバタと燭台切さんに連れられていく浦島さんを呆然と見つめた。何だか、嵐が過ぎ去っていったみたい。チラリと大倶利伽羅さんを見てみれば、大倶利伽羅さんも少し呆れた感じでお二人の去って行った方向を見ていた。そのまま見つめていると、何故か途端に視線が交じって吃驚したと同時に恥ずかしさから勢いよく顔を逸らしてしまう。ま、まさかいきなり大倶利伽羅さんがこっちを向くなんて、心臓に悪すぎます。どうしようか俯いて考えていると、上からおい、と声がした。おい、と言われると条件反射ではい、と返事をしてしまうのはもう私の癖になりつつあるなと自覚しました。

「受け取れ」

「え………?な、何ですか?」

「……見れば分かる」

そう言いながら私の手に乗せられたのは、とっても可愛らしい飾りのついた簪。でも、いきなりどうして?と思い考えると、一つ思い当たる点があった。そうだ、私の簪が壊れて―――でもその事は特に誰にも言ってないはず。色々考えてみても何も分からないけれど、それよりも大倶利伽羅さんがこれを私にくれる事が嬉しすぎて、嫌でも顔が火照ってくるのが分かる。うう、御礼を言わなきゃいけないのに顔がだらしなくなってしまいます。駄目だ、ちゃんと大倶利伽羅さんの目を見て御礼を言わなきゃ。

「〜っ!だ、だめですー!」

「は………?」

いざ御礼を言おうと決心して顔を上げたら当然大倶利伽羅さんは目の前にいる。ぼわっと熱くなる頬を何だか見られたくなくてつい、だめと言ってしまった。俯いたままどうしてこれを、と問いかけると、壊れたんだろ、と返事が返ってくる。誰にも言ってないのに、気付いてたんだ…………だからこれを私に。

「っ………ありがとうございます。ずっと大切にします……!」

「そうか。なら、いい」

「早速つけてみますね。………えっと、変じゃないですか?」

「ああ、そうだな……似合ってる、んじゃないか」

「!えへへ………とっても、嬉しいです」

シャン、と少しだけ音を奏でる飾りも可愛くて、何よりこれを私にくれる事が本当に嬉しい。だらしなくなる頬は全然直らなくて、それから今日の一日は多分、他の皆さんに変に思われてしまった気がする。でも良いんだ、この嬉しさは一日じゃ収まりきらないんだから。


(あ、着けたんだね)
(燭台切さん!あの、ありがとうございました……!)
(僕は何もしてないよ。怖い顔でずっと悩んでるのを、横で見てただけで)
(おいっ勝手な事を言うな)
(あはは、主、事実だよ?見てて凄く楽しかった)
(ふふっ………私も、見たかったです)

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