加州さんと!

「っ少しは俺の事も見てよ!!主なんて……俺もう知らないっ!!」

「―――っ!加州さん!!!」

勢いよく部屋を出て足早に本丸を去ろうとする加州さんを、焦る気持ちで追いかけた。女と男、それだけで距離が出来てしまうのは明らかなのに、それにプラスして刀剣と人という差が、私と彼の距離を更に広げていく。私がやっと入り口付近まで着いたかと思えば、もう加州さんは本丸を飛び出していくのが見えた。待って下さい、と声をかけたいのに、走ったせいで息が上がって声が出せない。必死に走ったから、他の事に使う体力が残っていないなんて……どうして、私は人なんでしょうか。とにかくもう一回話をしなきゃと焦るまま私も本丸を出ようとすると、私の身体はそれ以上進めなくなる。気が付けば私の腕は誰かに掴まれていて、漸く振り返った先にいたのは、大和守安定さんだった。

「……一人で外に出るなって、この前皆に言われたよね」

「や、大和守、さん……っでも、」

「それに、僕が止まれって言ったのに聞く耳持たずで……そんなに加州が大事なの?」

「え………?追いかけなきゃって、私、必死で……その、ごめん、なさい」強く握られた腕が、痺れるように痛かった。でも、痛いなんて言う事も出来ないので私には謝る事しか出来ない。私が謝ると、彼は深いため息だけついて黙ってしまうから、少し怖いと思ってしまった。違う、そうさせているのは私のせい。私もつられて黙ってしまうとやっとの思いで別に怒ってるわけじゃないから、僕もごめん、と何故か謝られた。そして腕を掴む力が緩くなり、腕がジンジンと徐々に感覚を取り戻していく。思えば、私もやっとちゃんと息をすることが出来た。加州さんを追いかける事しか考えてなくて、今更身体が疲労を訴えてくる。それがあまりに突然で、私が腰が抜けたように座り込んでしまった。

「っ大丈夫…!?無茶ばかりするからだよ」

「す、すみません……加州さんの事が、心配で、」

「でもそれで君が倒れたら、あいつはもっと傷つくと思うけど」

それはたしかに……と素直にそう思ってしまった。加州さんは、私の事をとても大事に扱ってくれて、真っ直ぐに私の事を好きでいてくれている。なのに私は、加州さんの事をちゃんと理解出来てなかったんだ……私が、他の刀剣の話なんてしたから。私が、他の刀剣を贔屓してしまったから、加州さんを傷つけてしまった。だからもう一度会ってごめんなさいって伝えたいのに、物事を理解した時にはもう遅いんだから。私の馬鹿、そう思って何も言えずにいると大和守さんは優しく背中を撫でてくれた。大和守さんも、心配してくれているんですね。

「主は此処で待ってて。いい?絶対一人で外に出たら駄目だよ」

「大和守さんは、どうされるんですか…?」

「面倒だけど、僕が連れて帰ってくる。他の刀剣より付き合い長いからね……何となくだけど、行きそうな所は分かるから」

「あっありがとうございます…!私、此処で待ってますから……絶対、ずっと」

「分かった。……行ってくるね」

一度背中をポンと叩かれ颯爽と加州さんを探しに行った大和守さんに、聞こえないと分かっていながらもいってらっしゃい、と声をかけ見送った。どうか、加州さんが怪我なく此処に帰ってくれますように。手を組み祈る事しか出来ないけど、此処で待つ事が今の私の使命でもあった。




どれくらい時間が経ったのだろう。何分、何時間?ずっと何を思う訳じゃなく帰りを待っていたから、どのくらい時間が経ったのか分からない。加州さんが出ていったのは、朝、昼、どれだっけ。……分からない、分からないよ、全然。こんなにも誰かを待つのが苦しいだなんて、知らなかった。出陣している皆さんを待つ時とは違うこの苦しみは、きっともし戻って来なかったらと考えてしまっているからだ。入り口付近で、ずっと立つ事も出来ず体育座りでただ待つ事しかできない、無力な私。分からない時間の中待っていたせいか、涙が溢れた。他の刀剣の方は私に中で待っていようと諭してくれたけれど、私一人呑気に中で待っているなんて、出来ません。皆さんが私を心配してくれたものの、私はそれを全てお断りして待っていた。

「加州さん……帰って、きてください……っ」

「っ主!!」

ハッと勢いよく顔を上げると、大和守さんの隣に、加州さんがいた。ちゃんと、帰ってきてくれた、嬉しくて、また同時に申し訳なくて駆けてきた加州さんに思いのまま抱き付いた。加州さんが、此処にいる。その事に酷く安心してぼろぼろ泣いてしまった。涙で加州さんの服が濡れちゃうって頭の片隅では分かっているのに、涙は止まらない。

「あ、るじ……こんな、冷たくなってる……俺のせいで、ごめん」

「違い、ます……加州さんが帰ってきてくれたから、もう、良いんです」

「そういう事。全く、もう変な気は起こさないでよね」

大和守さんに優しく頭を撫でられて、はい、と静かに頷いた。自分の仕事が終わったからか、大和守さんはじゃあね、と自分の部屋に戻っていく。気が付けば、ふたりきり。ちょっとだけまだ気まずいけれどもう一回会えたらちゃんと言わなきゃって思っていた事、伝えなきゃ。もう後悔して苦しい思いはしたくないし、加州さんだけじゃないけれど、他の皆さんの事も傷付けたくないから。意を決して加州さんから離れると、やっと視線が重なった。

「私、加州さんの言う通りでした。気づけば、私は他の皆さんのことばっかり……でも、だからと言って加州さんを蔑ろにしている訳じゃないんです」

「……じゃあ、俺のこと、まだ愛してくれるの…?」

「あっ、当たり前、です!加州さんも、大和守さんも、私に出会ってくれて、支えてくれる皆さんの事を好きじゃないなんてありえませんっ!!」

これだけは伝えなきゃいけないと思ったからか、いつもより声が大きくなってしまった。彼もそれが吃驚したのか、ちょっとだけ固まっているのが見て取れる。そう冷静に分析している私も、ちょっと自分自身に吃驚してしまいました。

「………っごめん、俺、勘違いしてたかも…」

「いえ、私の方こそ、ごめんなさい。私、加州さんの事、本当に大事に思ってます。だから、もう………」

「うん。もう出ていかない、主には心配かけたくないから……でも、偶には俺だけを見て。俺、主が一番大事だから」

「!っは、はい……約束、します」

やっぱり加州さんは真っ直ぐに私を見てくれる。それは私にとっては気恥ずかしいけど、でも嬉しいとも思った。約束、と告げ、私達は小指を絡ませ指切りげんまんをした。…何だか、懐かしい。子供の時を思い出しながら約束をした先に見た加州さんはとても嬉しそうだったから、私もやっと、今日笑う事が出来た。貴方が私を見てくれるなら、私は、貴方に応えます。加州さんの、真っ直ぐな気持ちを受け止めるために。

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