同田貫さんと!

「ま、待って下さい〜!いやっでも追いかけなくても良いのかな、でもでも待ってー!!」

バタバタとありとあらゆる場所を駆け抜けて、もう私の体力は限界に達している。今私が必死になって追いかけているのはネコちゃんである。野良猫を必死に追いかける必要性は普通なら無いけれど、今は追いかける必要があった。…何故なら、ネコちゃんが私の大事な大事な、その、し、下着を盗んでいるからです。他の刀剣男子達は私の下着を見た所できっと用途は知らないだろうから、見て見ぬフリをすれば自然消滅といった形で終わるだろう。でも、私がトリップしてきた中で普段使っていたものは無くなると結構ショック。だから、誰にも相談出来ず一人で頑張るしかない。

「はあっはあ………もう、小さいし素早くて、全然追いつけない…でもまだまだっ!」

「おう、主じゃねえか」

「えっ!?あ、やっど、たぬきさどど、どいてくださいいいっ!!」

「はぁっ?ちょっ待て急に言われても、」

ドンッと音を立てて勢いよく前方にいた彼、同田貫正国さんに突撃してしまった。あともうちょっと早いか遅ければ、何とか出来たかもしれないというとにかく絶妙なタイミングすぎて足が止まりませんでした。ああもう謝らなきゃ!!と思っていたのに目の前にいた同田貫さんが予想以上に近くて、待って、近いなんてものじゃない、唇に柔らかい感触、鼻先に当たる皮膚、私、私ーーー。

「っきゃーーーーー!!?!」

ガバッと同田貫さんから離れると、よくよく見れば同田貫さんの上に私がいて、私は今、彼を押し倒しているような図に見える。こんなの、切り刻まれる要素しかない!!焦ってそのままアワアワしていると、下から呻き声のようなものが聞こえて、やっと正気になった。

「いってぇ…………ったく、何だってんだよ……」

「あああ同田貫さんっ私が言うのもなんですが、お怪我は…!?」

「あ?いや、別に怪我はねえけどよ。ってなんで主が上乗っかってんだ?」

「〜っ!す、すすすぐ退きますー!!」

とか言ったくせに色々と衝撃的すぎてどうすれば良いのか分からなくなってしまいました。立ち上がるってなるとどうすれば良いんだっけ、ここに手をついたら足が同田貫さんの服に当たってしまうし、じゃあここをこうすれば、でも今度はこっちがダメだから………何も、考えられない。すると下からはあ、と大きなため息が聞こえ、そちらに意識を向けた途端また同田貫さんが近くなった。正確には、同田貫さんが上体を起こしたといった形だけど私にとってはまた近くなった距離に否が応でも顔が赤くなる。何でかなんて、そんなのさっきのキスが原因に決まってます。

「あ、あう…………ごめんなさい」

「主が謝る必要ないだろ?そっちも、怪我ねえか」

「!は、はいっ同田貫さんが受け止めて下さったので………」

ありがとうございます、と至近距離でドキドキしながら伝えると、おう、と短い返事ながらも返答してくれた。それにオマケつきで肩をポンと触れてくれた。そのおかげかやっと少しだけ緊張が解けて、ゆっくり同田貫さんから離れて立ち上がる。本当に、ドキドキした。ハプニングというか、こういうのってラッキーすけべでしたっけ………本当に、こういう事ってあるんだなあとしみじみ思ってしまう。

「………で?」

「で?」

「いやいや、あんだけ急いでたって事は何かあったんじゃねえの?」

「………………はっ!?」

一気にまた緊張感が戻ってくる。そうだ私ネコちゃんを追いかけていたはずなのに、いつの間にか一件落着みたいに落ち着いてしまった。案の定ネコちゃんは目視出来る位置には見当たらない。このままもしネコちゃんが私の下着を何処かに捨てていったら、どうしましょう…!?これは誰のだって他の刀剣に見られたりでもしたら、私は暫く皆さんと顔を合わせられません!

「早く見つけ出さないと、ってひっ!?」

「まあ待てって。困ってんだったら俺らに言えよ、もっと刀剣を上手く使いな」

「い、いえ、大した事ではありませんから、あはは……!」

「じゃあ尚更だろ?何探してるんだ」

「う、うう………っ!!」

早く言え、と言わんばかりに聞かれるものだから、とうとう私が折れてしまいました。今はネコちゃんの持っているものは置いておいて、ネコちゃんを探している事だけお伝えし、理由はまあ、苦し紛れに適当な事を言って誤魔化した。案の定同田貫さんは疑問符を浮かべ疑いの視線を向けられたが、私のプライドを守るため、何がなんでも納得して頂いた。

「なあ、あいつじゃねえの?」

「えっどこ、何処ですか?っあー!?あれ、あのネコちゃんですっ!!」

「よっしゃ任せろ!!」

探し始めて数分、さり気なく表に現れたネコちゃんを、彼はあっさりと見つけ出した。同田貫さんが任せろと仰るとでそのまま見守っていると、同田貫さんが怖いのかネコちゃんも物凄い勢いで逃げ始めている。でもそこはさすがというべきか、私の苦労とは裏腹にすぐに捕まえてくれました。………しっかりと私の下着を咥えたままのネコちゃんを。

「ほ、本当に助かりました。もうネコちゃんは解放してあげて下さい」

「良いのか?探してたんだろ、こいつを」

「えっと………へ、変な物を持っていたので、大丈夫かなーっと思っただけです!深い意味はないので、とりあえずこれだけ預かりますね、うん」

「そういうもんなのか?……まあ、良いけどよ」

何はともあれ無事に解決。幸いなのは、同田貫さんがこれに興味もなく、知りもしない事だ。ポイッとネコちゃんを解放してあげると一目散にネコちゃんは遠くへ行った。もう二度とこんな事をしないと良いけど、そうならないためにも私自身が気をつけなきゃと猛省した。

「そうだっ御礼しないといけませんね」

「あ?そんなの気にすることじゃねえよ。俺はまた出陣してくるぜ」

「えっもうですか!?」

「おう。んじゃあな、飯でも用意しててくれ」

「あ、あの……ありがとうございました!」

すぐに戦いに行く背中に感謝の気持ちを伝えると、ひらひらと背中を向けたまま手を振ってくれた。な、なんか格好良い、です。同田貫さんが帰ってきたら、とびっきり美味しいものを食べて頂ける準備をしなくちゃと両頬を軽く叩いて気合をいれる。よし、と思った矢先に主、と呼ばれ振り返ると、何故か立ち止まった同田貫さんと目が合った。何を言うのだろうと思っていれば同田貫さんがとんでもない事を言い出すものだから、やっぱり暫く私は、皆さんと顔を合わせられません。

「主って、柔らかいんだな」

「………………えぇっ!?」

「ぶつかった時、思った。そんだけだ」

「えっええ、あ、うそ、わ、忘れて下さーいっ!!」






|

[しおりを挟む]
[Back]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -