大倶利伽羅さんとご対面
声が聞こえた気がした。
眠たい瞳を頑張って開けると、可愛らしい狐が目の前にいて。
変な声を出す前に、ぱちぱちとその狐さんを凝視してしまった。
「えっあの、あなたは、って言うより、ここ畳……?」
思わず起き上がって周りを見ると、辺り一面畳だし狐さんはよく目が覚めましたねとか何とか言って色んな部屋に案内されるし、審判だとか気が遠くなるような事をとにかく短時間で色々と話された。勿論私の頭は右から左にぐるぐると回り回って整理できてない状況です。誰か助けて、と思う前にまた新しい部屋に通されて思わず息を呑んだ。
「これは……刀?」
目の前に並んだ5つの刀。其れ即ち刀剣男士と。さあこの中から好きなものを選んでくださいとか言われても、私にして見れば違いとかよく分からないし、刀なんて実物を見るのは今日が初めてだ。どうしようと思っている間にも狐さんにさあさあと急かされ、もうどうにでもなれと思い付きで目の前にある刀を指さしたのが始まり。ボフンッと煙の中から現れたのは何故か刀では無く人間の姿をしたひとで、遂に限界に達した私は意識が遠くなるのを感じた。
次に目が覚めた時には、狐さんではなく思い付きで選んだひと、彼の名は陸奥守吉行さん。そして狐さんがサービスでくれた資源でまた出たひと、薬研藤四郎さんがいた。心配そうに私に話しかける二人だけど、まさか刀がひとになるなんてという気持ちで手いっぱいだった。とりあえずお二人と自己紹介を済ませた所で、狐さんに出陣致しましょう!と告げられる。しゅつじんって、まさか戦!?って私が理解するよりも早く「行ってくるぜ、大将」とあっさりと出陣してしまった。その場に残るのは、私と狐さんだけ。狐さんは分からない事があればいつでも呼んで下さいとそそくさに退散され、とうとう残るは私だけになった。
「……突然すぎて、何が何だか………」
此処が自分のいた世界だとは今更思えないし、夢だとも思わない。とりあえずやるしかない、と足を動かせば、初めて陸奥守さんと出会ったあの工房っぽい部屋に辿り着いた。横を見ればきらきらと光る資源が沢山あって、狐さんがこれを使うと色々な刀が出るって言った言葉を思い出す。999個までの3桁を4つ、中々に広い選択肢だと思う。でも初めて自分で刀をつくるのだから、慎重にいかないと。
「じゃあ、これでお願いします!」
どうすれば良いのか結果的によく分からなくなったため、最終的に思い付きで資材を選んでしまった。3時間待って下さい、そう告げられ暫くぼーっと待っていた。そしてまたボフンと勢いのいい煙が立ち、目の前が見えなくなる。
「げほっ、ま、毎回こうなるんで…す、か」
「…大倶利伽羅だ。別に語る事はない。馴れ合う気はないからな」
煙から見えたのは、また別のひとで。先ほどは気を失ってしまったものの、今回はこうなるって分かってたのにやっぱり緊張した。初めて、自分が選んだひと。陸奥守さんや薬研さんとは違う褐色の肌、腕に掘られた倶梨伽羅竜、夜光に輝く、その瞳。
「きれいな、ひと」
「……あんたが俺を此処に呼んだのか」
「!っは、はい…!あの、これから、よろしくお願いします…!!えっと、先ずは…部屋、部屋にご案内しますね。一緒に来てくれますか?」
「…早くしてくれ」
「はい!!」
ここはこうであれはこうでと説明し、やっと彼の部屋にたどり着く。さてこれからどうしようかと悩んでいると、遠くから「大将ー戻ったぞーー」と声が聞こえた。急いで部屋を出て門の方向を見ると、陸奥守さんと薬研さんが手を振って此方を見ていた。
「おお、お、おかえりなさい…!?」
「どうしたんだ、何か変な言い方になってるぜ?」
「えっと、お帰りなさい、で…良いんですよね…?」
「当たり前じゃ!!此処が、わしらの家じゃなか?」
「家……そう、ですよね。はい、お帰りなさい!あっそうです、お二人にご紹介したい人がいるんです!少し待っててくださいね」
大倶利伽羅さんの部屋に戻り、トントンと扉を叩くと反応は返ってこなかった。恐る恐る部屋を覗くと、壁に凭れながら座っている大倶利伽羅さんが目を閉じている。思わず声をかければ、眠っている訳ではなくゆっくりと瞼を開け視線が交わった。
「なんだ」
「あ、の……大倶利伽羅さんに、ご紹介したい人がいるんです」
「言っただろう。馴れ合うつもりはない」
「で、でもでも、これから絶対顔を合わせるのは必須だと思うんです!自己紹介だけで大丈夫です、お願い、します……」
「……何処にいるんだ」
「!こ、こっちです、大倶利伽羅さん!」
この日、初めて自分が選んだひとと出会いました。
(きれいな、ひと)
「……興味はない」
俺が刀からひとになって、初めて出会った奴は光忠達とは全然違った。
俺があんたの言葉に反応するまで怯えきっていたくせに、俺を見る目は何故か澄んでいて、ひとの形になったばかりで、嫌な気持ちがした。俺の奥がむず痒いこの感情、心にも興味はない。死に場所も自分で決める、そう思っているはずなのに何故か、あんたの言葉を自分にも聞いてみたいと思った。
(おかえり、か)