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曖昧な事実


まるでさっきの快晴とは裏腹に、雨がステージの終わりを告げる様に降り注ぐ。雷がステージの備品を直撃しファンの人達は次々に恐れをなして去って行くのを茫然と見つめて。不思議と怖さは感じなかった、それよりもどうして彼が、さっちゃんが怒っているのか気になって動けなくて。

「や、やべえ…………っ!!七海、那月の眼鏡は!?」

「はい、こちらに!あっ…!!?!」

一刻も早く眼鏡を掛けてもらおうと春ちゃんが眼鏡を持ち上げた瞬間、パリンッとレンズが割れる。そんな事はお構いなしにステージへ近づくさっちゃんを私は見ている事しか出来なくて。係の人が止めるのを意図も簡単にすり抜けて、HAYATOに近づく。

「!っさっちゃ、」

「鈴羽、危ないから離れろ!!」

「翔ちゃん、でも…!」

突然色んな事が起こりすぎて、正直着いて行けてない。まず何をすれば良いのか分からなくて、翔ちゃんの言う事は最もだけどさっちゃんも放っておけないし、春ちゃんも大丈夫なのか気になる。

「HAYATO!!!!……何故偽りの歌を歌う。光を浴びているが、お前の本心は真っ暗な影さ………苛々するぜ」

「俺は自分を誤魔化さない、四ノ宮那月の影さ」

「……………」

鋭い視線でHAYATOを見るさっちゃんを誰も抑えようと行動する人がいないからか、さっちゃんは明らかにHAYATOに敵意を出していて。しかも今の言葉………さっちゃんの言葉通りなら、HAYATOは本気で歌っていない事になる…そんな事はないと思ったけど、ライブ中の春ちゃんの反応を見た限り、もしかしたらと思ってしまう自分がいて。

「(本気で歌ってないから、怒ってる、の…?)」

「…俺の歌を聞け」

「………、お願いします」

HAYATOの要望を受け入れざるを得ない状況なのか、サポートの人達がさっちゃんの歌に合わせる様に準備する。さっきのままだとしたらこれはTVで放送される事になるけど、きっと今は放送を止めるなんて考えられないんだろう。だって、今の二人の気迫が凄くて、全然動けない私がいる。

「……っ何とかやってみます!」

「!春ちゃん……っ?」

なつの眼鏡を持ちながらステージ裏に向けて走り出す春ちゃんを呆然と見つめていれば、翔ちゃんが何か春ちゃんに言っているのが聞こえる。……そうだ、私も何とかしないと…っさっちゃんの歌に聴き惚れている時じゃないんだ。今は、止めなきゃいけない状況。
「止めないと……さっちゃん…っ!」

「っ鈴羽!?」

雷が怖いとか、そんな事は今は気にならなくて。とにかく彼を止めようとステージに足をかけて上れば、HAYATOと目が合う。その事に何故か止まった様に動けなくなって、ただたださっちゃんの歌が、流れる様に入り込んでくる。

「は…やと………?」

「………っ鈴羽、」

「っえ………!?」

あの時会った事をまさか覚えていたのか、私の名前を呼ぶHAYATOに心臓が掴まれたのかと思うくらい胸が締め付けられる感覚がして。す、好きって、言われて、だから私は、あれはファンサービスだって解釈して。

「鈴羽、また、会った……にゃ」

「………!!あの時の、お、ぼえて……」

「当然だよ……だって、君は」

「きゃっ………!?」

「!春ちゃん?ってな、さ、ささっさっちゃん…!?」

不意に春ちゃんの声が聞こえて振り向けば、いつの間にか止まった音と、さっちゃんが春ちゃんの腰に手を回している真っ最中で。い、いきなり何が起こったの……!?春ちゃんも着いていけてないのか凄く慌てているし、さっちゃんは後ろを向いているから分からないけどなんだか楽しそう、な…?

「っおりゃあああ!」

「翔ちゃん!」

「………あ、あれ?七海さん?それに翔ちゃん、鈴羽ちゃん!どうしたの?」

「ーーーっいくぞ!!!!」

簡単な理由で入れ替わるから、意外にあっさり終わった事にホッとする。そのまま元に戻ったなつを引っ張って退散しようとする翔ちゃん達を見て、私も行かなきゃと立ち上がる。

「ま、待って下さ……あっ…!?」

「春ちゃん?……!」

翔ちゃんの後を追うと同時に春ちゃんの小さな悲鳴がして見れば、躓く春ちゃんをHAYATOが受け止めていて。春ちゃんは顔を赤くして直様立ち上がるけど、視線を足元に移した瞬間、顔色を変えている。何かあったのかと足元に注目すると、そこにあったのは、これは……包帯?

「もしかして………一ノ瀬、さん…?」

「…………!」

「え……?ト、キ…?」

「七海、鈴羽、何やってんだ!行くぞ!!」

「っはい…!鈴羽ちゃん、行こう…!」

「あ………えと、うん…!」

春ちゃんに促されるままに早く行こうとして、立ち止まる。後ろが気になって振り向きたいけど、振り向いたらいけないような気もする。もどかしいままに走り出して後ろの様子を見たら、またHAYATOと視線が合った様な気がした。






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