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愛は一方通行


「え、あ…な…?」

さて、此処は何処だろう。昨日はたしか街が近くになかったから野宿になって、それで、それでたしか普通に寝たはず、なのに。目の前に広がるのは森、森、森。いや最初から森にいたのだけれど、周りにはいるはずの仲間が誰一人といなくて。もしかして置いてかれた!?と思ったけど、肝心の自分の荷物さえ自分は持っていなくて。

「まっまさか…夢遊病!!?!」

たちが悪いにも程があるけど、思えば昔から朝は自分の布団にいた覚えがなかった。酷い時には変に誰かの布団に入り込んだりして相手側に何度迷惑をかけたか…いやでも今回は間接的にまた迷惑をかけてしまった。早く戻らないと今度こそ本当に置いてかれてしまう。

周りを見てみるも、当たり前の様に木しかない。森だから当然…とは簡単に納得出来る訳もなく。とりあえず勘を頼りに恐らくこっちから来ただろう道を適当に歩く。…決して迷いに行っているのではなく、私は仲間と合流する為に歩いている訳で!

「さ、さっきより深い…………」

また更に、迷ってしまった。

「おかしいな…さっきまで足跡みたいなのあったのに、今ないし…っ!!」

その足跡が本当に私のだったかは誰も知らずに。さすがにそこまで馬鹿じゃない、一旦止まって近くの木を背に座り込んで。宿がないから野宿で休もうと言ったはずなのに、また疲れてしまった…思わず眠気が襲ってくる。このままもう一回寝たら、また夢遊病で皆の元へ帰れるだろうかと無謀な期待を抱いて寝よう、そう思ったけど。

「や、ままっ待って…落ち着いて、落ち着いてくれるよね?」

「グルルルル…」

ガサガサと音を立てて目の前に現れたウルフに、背筋が凍る様に固まる。普段なら何ら問題なく倒しているけど、今回は問題だらけで、だって、武器がない!!寝てる時に置いてきてしまったから何も持ってない村人1にしかすぎなくて。絶体絶命とはまさに、この事か。仲間に何も言わないで死ぬなんて寂しすぎる、生きたい、生きたい、生きたい…!!!

「やだっ…何で私、魔法使えないの……!!!」

今にも飛び出してきそうなウルフに、背には逃がさないと言わんばかりの大木。こんな絶好の機会はないと、またガサガサと音を立てて今度はベアが現れる。魔法は難しいから覚えなかったのを全力で後悔した、今度教官に教えてもらおう、教えてもらいたい、だから、その為にも。

「生きたいよ………教官…っ…!!!」

教官の名前を呼んだ途端に、ウルフとベアが私に飛びかかってくる。せめてもの情けで腕を前に防ごうとしたけど、その前から聞き慣れたあの人の声がして。ハッと顔を上げたと同時に目の前には魔法でやられるウルフとベアが光となって消えていった。

「まさか…こんな奥にいたとはな、」

「、きょうかん……っ……?」

「探したぞ、鈴羽」

「教官…っ………!!!」

生きたい気持ちと、それが叶った嬉しさと、大好きな人に会えた喜びが一気に入り混じってジワリと涙が浮かぶ。さっきまで動けなかったのに、まるで魔法が解けたみたいに軽い身体は赴くままに教官へ思いっきり抱きついて。暖かい、温もりを感じる。

「もう、会えないかと…!!」

「それはこっちのセリフだな。全く…どうしてこんな所まで来たんだ?」

「来たくて来た訳じゃなくて…」

「?どういう事だ?」

「む、夢遊病…みたい、な?」

一瞬の沈黙、その後にくるのは教官の溜め息。どうしてと言われても、自分が一番聞きたい。大好きな仲間から離れるなんて、私が一番嫌だから。心配したじゃないかと少し乱暴に撫でられる大きな手のひらに、ひどく安心する。いつもは優しく撫でてくれるのに、今回は違う。少しだけ、教官の心臓が早く動いているのは…走って来てくれたからと、自惚れても良いですか?

「教官ー……っ」

「ああ、なんだ?今日は珍しく甘えたがりだな」

「…改めて教官の大切さを知ったから。だから、」

大好きです。そう言って教官の首に腕を回す。少し大人な香り…香水の匂い。教官は背が高いから、地面に座り込んでくれて。強くて、優しくて寛大で、そんな教官が大好きで。出来る事ならずっとこうしていたい、叶う事なら、早くこの世界が平和になってずっと、一緒にいたい。

「俺は大好きではないけどな」

「は…………えっ!!?!」

「俺は、愛してる…だ、鈴羽」

「やっななななな唐突に恥ずかしげもなきゅ…!!」

「ははっ噛んでるぞ、そういうドジな所も愛してるがな」

「やめええええええええええ!!!」

思わず両手で教官の口を塞ぐ。これが大人と子供の余裕の差と言うものなのだろうか、いや自分も結構外見は置いておいて中身は大人だと思ってるけど、やっぱり教官には勝てない。柄になく真っ赤になる顔が恥ずかしい、体温も上がってて、目の前に映る教官が含み笑いをしているのが凄く、悔しい。

「うっ……む、無念……」

「ああ、俺の勝ちだな」

「って何の勝負…?ひっちち、近いっ近いきょうかっ…!!」

「どうしたんだ?この距離が俺達の通常の距離だろう。…さて、」

「デフォ!!?!これが…!?ってな、何するんですか…」

腰に回されていた腕にグッと力を込められて、また距離が縮まる。改めて意識するともの凄く恥ずかしい体制すぎて。片手は私の頭へと伝って、熱っぽい視線が不意に重なって、そのまま流されそうになる。最早ここが森の中だなんて、今更考えられない。

「!んっ……は…う…っ」

「……その表情だけは、年相応だな」

「なっ何言って…私いつだって大人!!」

「ほう…ならもっと激しくしても良いと言う事か」

「!?ちがっ違う、はんっ……ぅ…!」

さっきとは違う口付けに、思わず息が上がってしまう。離れた瞬間にプツンと途切れる銀の糸も気にせずに何度も重なる。息が続かなくて、でも教官は余裕そうで、また、負けてる、本当に…悔しい。でも。

「全部、勝ててる…とでも…っ…?」

「…鈴羽……?」

「一つだけ、勝ってる…一つだけかもしれないけど、一つだけ。それは、」



貴方を誰よりも愛していると言う事



愛は一方通行
(どう?これは勝てないよね!!)
(ふっそれは違うな)
(は…?いや負ける気がしないです)
(さっき鈴羽は大好きと言った様な)
(!?いや、あ…あ、愛してますし!!)







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