絆と言う繋がり
「鈴羽ちゃん!」
「、林檎先生?何かあったんですか?」
ぶらぶらと廊下を歩いていれば、Aクラスの担任月宮林檎先生に呼び止められる。私に駆け寄ると同時に「助かったわあ、今丁度貴方を探してたとこなの!」と一言。Sクラスにいる私だけど、以前少し手伝ったのがきっかけで林檎先生からはよく頼み事をされる事が多くて。多分今回も頼み事だと思った。
「何かお手伝い、ですか?」
「あら、よく分かったじゃない!今回もそこまで大変じゃないから…少し譜面起こしを手伝ってほしいの、頼めるかしらん?」
許可を得る素振りは見せるも、もう最初から頼む気でいた様でまだ何も書き足されていない紙を私の前に出す。ちなみに別に手伝いが嫌だとは思った事はなくて。私でも誰かの役に立てると言うのなら、素直に嬉しく思う。
「あっえと、私で良いなら…」
「鈴羽ちゃんが良いのよ!手際良いし、とっても丁寧にやってくれるし…いつも私、助かってるのよ」
「…!あっありがとう、ございます!えへへ…」
「ふふっそれじゃあ頼むわね!終わったら、私の所に来てくれるかしら?」
「はいっ!」
学校の図書室で、黙々と頼まれた作業をする。図書室は静かでとっても作業がしやすくて良い、よく作曲の時にも使わせてもらったりもしてる。元からこういう手伝いは慣れてるから、もう後数枚で終わりそうだった。
「…………ふう」
最後の文字を書き終えてペンを置く、軽く伸びをしてやり残しを確認して。…うん、大丈夫、ちゃんと全部書き終わった。荷物を纏めて立ち上がる、早速出来たこれを林檎先生に届けなくちゃ。
「!あっ、日向先生」
図書室を後にし足を進め廊下を歩いていれば、丁度同じ時に廊下にいた日向先生を見つける。小走りに駆け寄って話し掛ければ、日向先生も林檎先生に用事があるみたいで。
「ああ雪橋か、勉強でもしてたのか?」
「?えと、林檎先生の頼まれ事やってたんです」
「林檎に?何頼まれたんだ?」
「譜面起こしを少し頼まれて…今さっき終わったから、林檎先生に渡しに行こうと思って!」
さっき書き終わった譜面を日向先生に手渡せば、まじまじと見た後に盛大に溜め息を吐かれる。何かおかしかった所があったのか不安になって訪ねれば、そうじゃなくて。ぶつぶつと「俺の生徒に勝手に頼み事しやがって林檎のやつ…」と言葉を零している。
「あの、日向先生…?」
「ん?ああ、悪いな林檎のやつお前こき使いやがってよ…ったく…」
「えっあっ全然!!暇だったから、良いんです私…林檎先生の役に立てて嬉しいです!」
実際暇だったのは事実だし、誰かの役に立つ事は嬉しい。だから林檎先生からの頼み事に本当に文句はない。まあ暇だった…と言うのは違うかもしれない…私達に、暇な時間なんてない。沢山曲を作って、どんどん自分の実力を上げなくてはいけないのだから。偶々今日は、曲が思いつかなくて…だから逆に林檎先生の頼み事のおかげで、良い気分転換が出来たと思う。
「そうか?でもまあ、お前は俺の生徒だからな。林檎には一回ビシッと言ってやらねえとな…早く林檎の所に行くぞ!」
「えっは、はい!」
「おら林檎!てめえ俺の生徒こき使いやがって…譜面起こし位自分でやれ!」
「もー何よっ龍也だってよく鈴羽ちゃんに頼み事してるじゃない!」
「ああ!?それとこれとは話が別なんだよ!!」
「あ、あの二人共っ落ち着いてくださ…!!」
「鈴羽ちゃんは今口出ししちゃダメよ!」
「(ええぇええええ!)」
そのまま言い合いを続ける二人に、林檎先生に言われずとも私は口出しする事が出来なくて。知らない間に他の事も言い出してきて、冷める所かどんどん熱が上がってしまって最早私に止められる可能性がほとんどなくなってきていた。
「ど、どうしよう…」
周りには私達しかいなくて、この騒動をむちゃくちゃでも止めてくれそうな早乙女さんも、今は近くにいない。私の声量じゃ多分この二人は気づいてくれなさそうだし…話しかける以外の、方法だとしたら私、これしか分からないけど…やるしかない!
「っ日向先生!!」
「、うおっ雪橋!?」
「り、林檎先生も、そこまでです…!!喧嘩はダメです!」
隣にいた日向先生に思いきり抱きついて、日向先生が吃驚した隙に話しの区切りをつけさせて。まさか私がこんな事をするとは思ってなかったのか二人共驚いている…私の成り行きの作戦が上手くいって良かった…!!
「私、その…二人が喧嘩してるのは見たくないです…」
「あー…まあ、喧嘩じゃねえけどよ…悪かったな、その…林檎も悪かった」
「私も言いすぎちゃったかしらん…2人共ごめんなさいね?」
お互いに和解したのに安心してホッと息をつく、そのままゆっくりと日向先生から離れても2人はもう言い合う気はないらしくとりあえず…一件落着なのか、な?
「(はあ…なんとか止まってくれて良かった…)あっ林檎先生、これさっき出来たやつです」
「いつも助かるわあ、ありがとねっ鈴羽ちゃん!」
「これに懲りたら次は自分でやる事だな、林檎」
「何よう、龍也なんて知らないんだから!ね?鈴羽ちゃん」
「えっえと、とりあえず2人が仲良くしてくれれば嬉しいです…」
これも腐れ縁の誼なのか、日向先生と林檎先生の間に先程の様な険悪な雰囲気は見受けられない。やっぱり長い付き合いだから、お互いは本当に信頼しあってるんだろうなあ…そんな人がいるのって、凄く
「羨ましいな、んて…」
「雪橋?」
「!っそ、そろそろ私用事があるので…!これで、失礼します!!」
「あっ鈴羽ちゃん…!今度、お礼させて頂戴ね!」
「へ、え…!?おおおお礼なんてとんでもないです私が好きでやった事なのに…!」
思わず扉に向かっていた身体を急停止させて振り向いてそう告げるも、林檎先生はニコニコと「お礼はデートが良いかしらん!まずは服を見てー…」とノリノリでプランを立て…でっででででデート!!?!
「りっりり、林檎先生…!!」
「大丈夫よ鈴羽ちゃん、ちゃんとお・ご・る・か・ら♪」
「いやそこじゃなくて…!」
「雪橋、ここは素直に従っておけ」
「日向先生まで!?」
あたふたと手を振って否定するも逆にその手を取られて微笑まれる。こうなってしまった以上、私には林檎先生を止める事は無理みたいだなあ…。苦笑いをしながら楽しみにしてますと言えばその言葉に満足してくれた様で。握った手をキュッと強く握り締められた。
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