離れたくない気持ちは何処から
さすがにこの状態で教室に行くと色々と危ないという事から、バレない様にひっそりと女子寮まで来ていた。先程と状態は全く変わらず、彼の力がブレる事もない。私の部屋までととりあえず口で道案内をして、部屋の前まで辿り着く。レンは器用にドアを開けて中に入り、優しく私をベッドの上に降ろしてくれた。
「レンっその、ここまで運んでくれてありがとう」
「当然の事をしたまでさ、鈴羽は…大切なパートナーだからね」
「!うっうん…あ、」
「鈴羽?」
「足、動く…!」
まだ完全に力が入る訳ではないけれど、運んでもらう際に休める事が出来たおかげで歩くくらいは有に出来る様になっていた。その証拠にとベッドから降りて軽く歩く、うん…大丈夫、ちゃんと動く!
「それは良かった、さて…これからどうしようか」
「えっ教室戻らないの?」
「今頃戻ってもきっともう終わってるさ、今日はこれだけだったみたいだからね。とりあえず、鈴羽はまだ休んでいる方が良い…さすがに疲れただろう?」
「う?ん…少し、だけ?」
たしかに、今回の件は少し疲れたのかもしれない…今までの学校生活の中でこんなハードな事はあまりしていなかったから、作曲の事で色々考えて疲れる事はよくあるけどこうして体を動かして疲れたのは今の私には珍しかった。そもそも、作曲家コースでこんな事をするとは思っていなかったから、精神的に今日は疲れてしまったのは事実。
「なら、休んだ方が良いね。…俺も、そろそろ部屋に戻るとするよ」
「うん、ありがとうレン。その…明日も頑張ろうね」
「ははっそうだね、…それじゃあ鈴羽、ゆっくり休むんだよ」
「うん、…ぁ」
私に背を向け扉に向かうレンに、ふとどこか寂しさを感じる。自分でも気づかないうちに私はその背に手を伸ばしていて、つい彼の服を弱く掴んでしまっていた。振り返るレンの瞳は驚きに満ちていて、それ以上に、私が一番吃驚していて。
「っ鈴羽…?」
「え、あっあああごめ、レン…!!なっなんでもないの、なんでも…!!」
とっさに掴んだ手を離して、そのまま行き場を失った手を降ってなんでもないと伝える。ただあまりにも不自然すぎるこの態度は、勘が鋭いレンには効き目がある筈もなく。感じる視線に妙なもどかしさを感じて、うろうろと視線を彷徨わせればいつの間にか向きを変えていたレンが私の目の前に立つ。自然と出来た影に顔を上げれば、両手で優しく頬に触れられゆっくりと顔を上げられた。
「えっえ、なっれ、レン…!!?!」
「どうしたんだい?もしかして…まだ俺と手を繋いでいたかったのかな、」
「っ!!あ、う…そんな事…!」
「ないのかい?それは残念だな…」
「うえ…!?」
残念だなと言いつつも、その言葉を発する表情はいつもより優しくて。…きっとレンには、私が今考えている事なんて全部お見通しなんだと思う。諦めておずおずと自分の両手を頬に添えてある彼の手に重ねる、触れ合った手はとても温かくて、思わず目を閉じて温もりを感じた。
「ん…あの、ね…レン」
「うん、なにかな」
「その、もう少しだけ…ぎゅってしてて欲しいな…んて」
そう告げると同時に目を開け視線を交わす。多分今の私は顔が真っ赤だと思う…だって今凄く、ドキドキしてる。それでも視線を逸らす事は出来なくて、見つめあう時間がとても長く思えて。
「もちろん、仰せのままに…ね?さあお手をどうぞ、お姫様」
「う…は、恥ずかしいよ…!」
「恥ずかしいのかい?そんな所も鈴羽は可愛いね…そうだ、俺は手だけじゃなくて、身体ごと抱き締めても良いんだよ?」
「っな、あ…レン…!!」
「ははっまあ、冗談だよ。半分だけ…ね」
そうやって冗談を交わしながらも、再び繋がれた手は強く握られていて。嬉しさが込み上げて自然と笑みが零れる。片手ではなく両手で繋がれているはとても温かくて、離れるのが何故か凄く名残惜しく感じた。
「えへへ…ありがとう、レン…嬉しい…」
「!勿論、これくらいで鈴羽が満足するのなら…いくらでもしてあげるよ」
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