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夢への現実


「アイドルの、証…?」

突然学園内に響き渡る早乙女さんの声に、日向先生が盛大に溜め息を吐く。一度こう宣言してしまった早乙女さんを最小限に抑える事は出来ても完全に止める事は出来ないみたいで、諦めながら私達に指示を出す。これは毎回の早乙女さんの突発的企画で、今回は「アイドルの証」と言う物を探さなくちゃいけないんだとか。

「こうなった以上、社長を止める事は出来ねえからな…お前ら、気合いいれて行けよ!!」

日向先生の言葉に、生徒が応える。ちなみに、アイドルの証を見事手に入れた人は即デビュー出来る…と言うジンクスもあるみたいで皆張り切っていた。

「っと…これはパートナーを作ってやるもんだ、今のパートナーと組めよ。休みの奴はいない奴と組め!それと、探してる間は手を繋ぎ続けるのが条件だからな」

そう言われ、レンの方に振り向けば女の子達からの批判の声が上がる。レンは女の子からの人気が凄いから、組みたい人が大勢いて。私に突き刺さる視線がとても痛く感じる。

「え、と…」

「こんなのより私の方が良いよねレン君!私と組もうよ〜」

「絶対私の方が良いー!」

何か言う前に他の女の子に遮られてしまい、上手く言葉を発する事が出来ない。レンに近づく事も出来なくてただ棒立ちに彼を眺めていれば、レンは女の子達を優しく宥めて私に近付いて来て。

「え、あ…レン…?」

「ごめんねレディ達、悪いけど今の俺のパートナーは鈴羽でね。だから君達とは組めないんだ」

「っぁ…!」

そう言いながら徐に私の手を取る。突発的企画が始まってしまった以上、今この手を離してしまえば私達はリタイアと言う形になってしまう。戸惑いがちに少し力を込めれば強く握り返されて。

「お前ら決まったのか?企画はもう始まってるからな、早く行かねえと他の奴らに取られるぞ?」

「ああ、分かってるよリューヤさん。さあ鈴羽、俺達も行こうか」

「うっうん!」

後ろから女の子達が色々言ってるのが引っかかったまま、レンに手を引かれそのまま教室を出る。少し歩いた所で立ち止まって私を見るレンはどこか機嫌が良さそうで。

「えと、さっきの…」

「ああ、レディ達かい?さっきは大変だったね…鈴羽がいて良かったよ」

「う?あ、でも良かったの、かな…」

「何か問題でもあったのかい?もしかして、俺と組むの嫌だったかな…」

「へ、え…!?ちっちち違っえと、そうじゃなくて…!!そのレンは人気だから女の子が…私と組むの、レンの方が嫌なんじゃないのかと思って」

私はむしろ、レンとはパートナーだから組めて嬉しいけれど、レンは私とは人柄が全然違うから。レンの人気は前から知っていたけど、さっきのを見て改めてレンの人気を感じた。いくらお互いのパートナーがいなくなって組んだパートナーだとしても、仕方ないで済まされない程にレンは人気で。私よりレンの方が…私と組むの嫌なんじゃないのかって、他の女の子の方が可愛い子は沢山いるからそっちの方が良いんじゃないかって、マイナス思考の事ばかり考えてしまう。

「…俺は…」

「、レン…?」

「俺が…決めた事だからね、何も後悔はしてないよ。鈴羽が良かった、ただそれだけだよ」

「うえ…あ、ありがとう…」

「むしろ、礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう、鈴羽…やっぱり、君がパートナーで良かった」

「!わ、私…も…、っえっとあの、そろそろ…アイドルの証!!探そう!?」

「ああ、そうだね。さて…まずは何処から行こうか」

ただアイドルの証と言われても、それが一体どんな形をして何処にあるのかは早乙女さんしか分からない。行く宛てもなくただ何となく廊下を歩いていれば、勢い良く何かが私目掛けて飛んで来ていた。

「っゃ…!!」

「、鈴羽!」

いきなりすぎて動けない私の手をレンが引っ張る。そのままレンの胸元にダイブした状態で横を見れば、今さっき飛んできた矢の様な物が床に落ちていて。体の体温が一気に下がるのを感じながらなけなしの力でレンにしがみつく。

「っ怪我はない、みたいだね…はあ…良かった…」

「う…レン…ッ…!」

「大丈夫、俺は此処に…鈴羽の傍にいるよ。怖かったんだね、身体が震えてる」

…この学園が、こういうのは当たり前だと言う事は分かっていた。でも、まだ学園に入って何ヶ月しか経っていない中に此処までの出来事が起こるとは思っていなくて。アイドルになるためなら、今のも想定の範囲内でいなくちゃいけないのかと考えたら、どこか遠くに感じてしまった。

「あ…ぅ…だ、大丈夫…ありがとう、レン」

「鈴羽、本当に大丈夫なのかい?」

「うん…立ち止まっては、いられないから」

受け入れなくちゃいけない。私は作曲家コースだけど、だからって何も起こらないとは限らない。突然の出来事だって勿論ある、何の苦労もしないでデビューなんか…出来ない、と言う事。

「OK鈴羽、じゃあ先に進もう。怖くなったら、すぐに言うんだよ?」

「うん、ありがとう…レン(アイドルの証…絶対見つける…!)」

そう決意して、繋がれた手を強く握った。





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