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普段言えないから伝えたい言葉


「トキっ良いよね…?」

「仕方ありませんね…あまり目立つ様な行動は控える様に、良いですね?」

「わ、あ…ありがとう、トキ!はるちゃん、やったね!」

「うん!あの、一ノ瀬さん!ありがとうございます…!!」

あれから何日か経って、トキとHAYATOの早乙女学園レポート当日になった。トキにはるちゃんの事を話せば最初は渋っていたものの、最終的には端の方で見る位ならとの条件付きで何とか承諾を得る事が出来た。

「それでは私は準備があるので…鈴羽、お願いします」

「うん、まかせてっ」

「鈴羽ちゃん、頑張ってね!」

「うん!」

返事をして、両手にある紙袋をしっかりと抱え直す。この袋の中に何があるのかはよく分からないけど、多分レポートに必要な大事な何かが入っているんだから落とさない様にしなくちゃ。
トキはそのままスタッフさんにマイクを渡されて、本番直前の打ち合わせをしている。その態度は堂々としていて、まるで何回もやっているかの様な手慣れた感じがした。

「(あ、私も移動しよう)」

数分経った後に、すぐに本番が始まった。トキは淡々とレポートをしていて、この学園の魅力を細かく説明している。レポート中、一瞬目が合ったのを合図に私は静かに目的の場所へ向かった。



「んと、これで良いんだよね…あっ」

指定の場所に紙袋を置いて周りを見渡せば同じ様な紙袋を見つける。紙袋に近づくとタグの様な物が袋に付いていて、そこにはトキの綺麗な字でまたこの紙袋を別の場所に運ぶように書かれていた。

「これも、運んで行けば良いのかな?」

持ち上げてみれば、さっきとは違う重さで何かが入っている。とくに中身を気にせずに次の目的地へと運び始めた。





「終わったかな…?後は此処で待ってれば良いよね、」

最終的に辿り着いたのは屋上で、当然の事ながら周りには誰もいない。先程まであった紙袋が見当たらないから、多分この屋上でレポートが終わるんだと思う。フェンスを掴みながら空を見上げれば、何にも遮られる事のない大空が見渡せた。

「…綺麗…」

何分そうしていたんだろう。綺麗な青い空や流れ行く雲に目を奪われていれば、気づいた時には扉の開く音が聞こえる。振り返れば最後の締め括りはトキではなくHAYATOがやるみたいで、笑顔を振り撒くHAYATOが元気良く屋上に入って来た。

「(!端っこに行かなきゃ…映っちゃう)」

フェンスから手を離して隅の方に向かおうと向きを変えた途端、バチンと視線がHAYATOと交わる。私を見た瞬間HAYATOはさっきよりずっと素敵な笑顔になって、そのまま私のいる方へと歩み寄って来た。

「(えっや、あの、う、映っちゃう…!)」

「此処でっサプライズゲストを紹介しちゃいまーっす!この早乙女学園の生徒さん!お名前は、何かにゃ〜?」

「へ、え!?雪橋鈴羽…です…」

「そうなんだ〜可愛いねっ!鈴羽ちゃんは、アイドル志望?それとも作曲家志望なのかな?」

「(か、かわ…っ!?)えっえと、作曲家志望、です」

突然マイクを向けられ質問されるも、いきなりすぎて一言二言しか話せない。本当はすみませんって言って隅に行きたいけど、カメラも回されている今そんな事が出来る訳もなくて。他にも色々な質問をされたから、とりあえず自分なりに頑張って答えた…と思う。





「緊張した?鈴羽ちゃん」

「う、?わっHAYATO、さん…!?」

「さんなんていらないよ、HAYATOが良いにゃ〜」

「、はっHAYATO…お疲れ様、です」

てっきりスタッフの人達と話しているとばかり思っていたから、急に後ろから声をかけられて吃驚する。相変わらず笑顔を絶やさないHAYATOは、まさにアイドル。チャラチャラしてる様に見えるけど、仕事は完璧にこなしているあたり本当は凄く真面目な人なのかなとか思ったりもするんだけど。今回はあくまで仕事だから、仕事でのHAYATOしか見る事は出来ない。

「うん、お疲れ様〜いきなりごめんね?でも空を見上げる鈴羽ちゃん、すっごく可愛かったから!」

「っ!?そっそそそれはないです…!!(わあああぁああああいつから見られてたの…!!)」

「可愛いよ、鈴羽ちゃん…ねえ、鈴羽ちゃんはトキヤの事、どう思ってるのかにゃ?」

「えっトキ…?」

笑いながらさり気なくトキの話を持ち掛けられて、一瞬戸惑う。そうだ、HAYATOはトキの双子のお兄さんだった…普通なら弟の様子は、知りたくなるものだよね。

「私はトキの事、凄く好き…頼りになるし、不器用な所もあるけど…悩みを相談する時とかも凄く真剣に聞いてくれるし、歌声も…とても澄んでいて」

「!へ〜トキヤ愛されてるにゃ〜羨ましい!僕もこの早乙女学園に入学してみたいな〜。ね、もし今僕が此処に入ったら…鈴羽ちゃんのパートナーにしてくれる?」

「う、え…!?そっそれは私、もう…」

冗談だって分かってはいるけど、何故か素直にはいと答える事が出来なくて。レンと言う、パートナーがいるから言えなかっただけだとは思うけど…。

「私には、パートナーが…いるから…」

「あっうん、そうだったね!ごめんにゃ〜でもそのパートナー、すっごく大事なんだね!!またまた羨ましいにゃ〜」

「わっ私なんかよりもっと良い人がいますよ…!私なんてまだまだ下の方で、Sクラスに入れたのも奇跡な位で、」



「…それでも、僕は君が良いな」



「う…?」

急に声が少し低くなって様子を窺えば、いつものテレビの中で見る笑顔とは違う、真剣な表情をしている彼がいて。切なそうに微笑むHAYATOは普段見る表情より凄く大人びていて。でもまたすぐにいつものHAYATOに戻ってしまった。

「なーんてねっ!鈴羽ちゃん可愛いから、ついつい困らせたくなっちゃったにゃ〜」

「かっかか可愛くないです…!!」

さっきのは何だったんだろうと思うも、一瞬の出来事の様で今は何ともなくて。いつもの笑顔を振り撒くアイドルのHAYATOが、そこにいる。もしかして、さっきのが本当のHAYATO…?
色々考えている間にスタッフさんからの休憩終わりの言葉が入る。今度こそ邪魔にならない様に隅に行こうとすれば、手を掴まれて耳元に口を寄せられて。

「う、え?」

「…好きだよ、鈴羽ちゃん」

「な…あっえ、え…!?」

何が起こったのか分からなくて、振り返ればHAYATOはパッとすぐに私から離れてスタッフさんの元に帰ってしまう。耳に残る息遣い、触れられた唇と、言われた言葉がどんどん私の体温を上げていく。耳元に触れて固まっていれば、いつの間にか来ていたはるちゃんに声をかけられて。何かあったのか聞かれても、曖昧な返事を返す事しか出来なかった。




「好きって…だから、何っ…?」




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