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貴方の歌に酔いしれる


「結局…来ちゃった」

ついにレコーディングテスト当日。結果レンと練習はする事もなく当日を迎えた私の心の中は不安しかなくて。信じていない訳じゃない、レンの事。彼の言う通り、歌はきっと上手いと思うけど…アイドルを目指すとしたら、歌唱力の高さだけじゃ、私と同じで何かが足りない状態で終わってしまう様な気がして。

「(だっダメダメ…レンの事、信じなきゃ)」

嫌な考えを吹き飛ばす為に、首を振って深呼吸を一つする。歌うのは私じゃなくてレンなのに、私の方が緊張してる気がする。レンはきっとこういう事には慣れてそうだから、あまり緊張していないんだろうなあ…。



「!レンっ」

「鈴羽、わざわざ見に来てくれたんだね」

「そっそれは、パートナーだから…当たり前、だよ」

「パートナーだから、ね…でも嬉しいよ。今日は鈴羽の為に、歌おうか」

「う、え…!?なっなな、何を…」

さらりと恥ずかしくなるような言葉を言われて、思わず頬が染まる。レンの眼差しから逃げる為に視線を逸らせば、頬にレンの手が添えられて。そのまま流れる様に顎を持ち上げられて、心臓が最高潮にドキドキしてる。緊張のドキドキとこの状態に対するドキドキで息が詰まりそうになって、正直何が何だか、もう分からない。

「やう…レ、ン…」

「………」

「、レン…?」

特に何かする訳でもなくて、ただ交ざり合うだけの視線が逆に何故かドキドキする。レンの眼差しが何だか熱が籠もっている様な感じがして、まるで時間が止まっている感覚。私達2人しか時間が進んでないような感じ、何か、変。

「鈴羽…」

「え、あ、う…」

「おい、次お前らの番だぞ、やらないのか?」

「!ひゅっ日向先生!?やっやややりますっね、レン!」

「ん…ああ、そうだね」

此処がレコーディングルールの目の前だったのをすっかり忘れていて、慌ててレンと距離をとる。少し離れればまたいつもの余裕のある微笑みを浮かべていて。さっきのは、何か私に…伝えたい事でもあった、のかななんて、思ってしまった。





「それじゃあいくぞ、準備は良いか?」

「OK、いつでも大丈夫さ」

「よし、お前もしっかりパートナー見とけよ、雪橋」

「!っはい」

日向先生が音楽をかけて、イントロが流れ始める。相変わらずレンは余裕のある微笑みを浮かべていて、本当にいつ何が来ても大丈夫だって感じ。でも、

「……っ……!!」

初めて聴いた、レンの歌。低くて、艶があって、でも高い音程の部分は凄く惹きつけられるように、格好良さの中に少し可愛さがあるようで。他の人とは、全然違う…凄く私の心に響いて、離してくれない。

「(私、が…レンの曲を、作る…)」

たった一回歌を聴いただけなのに、彼の為の音楽が次々と溢れ出して来て止まらなくて、もっと、もっと歌って欲しい。こんなに魅力的な歌声、もっと皆に知ってほしい。

「…相変わらず上手いな神宮寺は」

「まあ、分かっていた事さ」

「………」

「?ボーっとして、どうしたんだい…鈴羽?」

「ぁ…そ、の」

上手く言葉が出て来なくて、何を言えば良いのか分からない。言いたい事は沢山ありすぎるのに、歌と曲が頭の中を駆け巡っててごちゃ混ぜになって、頭の中がショートしてしまいそうで。

「レ、……ン」

「、何だい?鈴羽」

「あの、レン…歌…格好良かった…の…」

「!…鈴羽の事を考えながら歌ったからね、当然の事だよ」

「う、嘘ばっかり…、っひう!?」

パートナーになったばかりにやられたのと同じ様に手を取られて、手の甲にそっと口付けられる。いっいきなり何をやって、しかも隣!隣日向先生いるのに…っ!慌てて手を退こうとしても、手を掴まれているせいで動かせなくて。咄嗟に隣にいる日向先生に助けを求める視線を送れば軽くため息を吐かれた。

「お前らな…一応、恋愛禁止令があんだからほどほどにしろよな。おら、次待たせてんだから、早く出る準備しろよー」

「(日向先生のバカあああぁああ!)」

何て事は声に出して言う事はせずに心の中で言っておく。絶対日向先生なら何とかしてくれると思ってたのにまさかこんな…大して気にしてないとか!レンはその返答に結構満足げだし、この2人はもしかしたら、一緒にしてたら危ないかもしれない。

「じゃあ俺達はこのまま行こうか、鈴羽?」

「ううー…ありがとうございました…」





「ふう…とりあえず、合格出来て良かったね」

「もしかして、不安だったのかい?」

「あっ当たり前だよ…!信じてた、けど…歌、聴けてなかったから…」

「それもそう…だったね」

「あっ結果問題なかったから良いんだけど…その、」

先の言葉が上手く声に出せない。ただ一言言えば済むかもしれない話なのに、もう私は彼を待つと言ってしまったからこれ以上先の言葉を言う事が出来なくて。ただ一言、練習したいと言えば良いはずなのに。言ってしまいたいのに、言えなくて酷く、もどかしい。

「…練習、」

「う、え?」

「出来る限り、してあげるよ」

「でも…良、いの?」

「そんな顔されたら、やらない方が難しいからね」

そんな顔って私一体どんな凄い顔してたの…!両頬に手を当てて確認しようとしても、鏡がないからどうなってるのか分からなくて。あたふたしていれば、また頬に手が添えられて、目元に優しく触れてくる。

「ほら…鈴羽はすぐに泣きそうな顔をする」

「!そ、それは…色々感動したせい…」

初めて聴いたレンの歌声も、練習してくれるって言ってくれたのも、全部全部嬉しくて、これで感動しない方が私にとって難しい話だと思う。

「俺の歌に感動した?」

「う…うん…」

「そう、それは良かった。鈴羽の為に歌ったからね」

「ままままたっ嘘つき…!」





「もし本当だと言ったら…鈴羽はどんな反応してくれたのかな」






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