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知らない恋の味


「あううぅうう私何、やって…」

扉を後ろ手で閉めてもたれ掛かりながらそのままズルズルと床に座り込む。彼に、レンに寂しいって言ってしまうなんて、本当に最近の自分は分からない。

「でも…暖かかったなん、て」

まだ微かにぬくもりが残っている様な気がして、きゅっと自分の手を握る。1人の部屋は寂しいはずなのに、手が、耳が、目が、さっきの事を忘れてないのか、何故か今は1人の寂しさを感じなくて。

「パートナーにこんなに入れ込むなんて迷惑意外の何者でもないよ…私の馬鹿ああぁあああ…!」

体育座りになっておでこを膝にあてながら1人うなだれるも、何だか虚しく感じてゆらゆらと立ち上がる。そのままベッドにボフンとダイブして、目を瞑る。うつ伏せだからか心音を感じる。まだ、何となく…ドキドキしてるのか、鼓動が早い。

「どう…しよう、何とか、しなきゃ」

一回一回会う度にドキドキしたりしてたら、それこそ歌とかの問題じゃない。もっと慣れなきゃダメなのかな…。でも慣れって一体どうしたら良いんだろう。ずっとしてると慣れるって言うのはよくあるけど、そうなるとこの問題は私はレンとずっと一緒にいなくちゃいけない事になって。むっムリムリムリムリダメダメ!もっと他の方法、考えなきゃ。

「えっとえっと、他の…ん?」

不意に窓が揺れた様な音が聞こえてきて、風は今日は強くなかったのに揺れるのが不思議に思い顔をあげてみれば黒い何かがゆらゆらと動いている。

「何か、な…あっ黒猫!」

窓を閉めていたせいで入れなかったのか黒猫は窓を引っ掻く様に音を立てていて、慌てて窓を開ければ素早く私の部屋に入り込んでくる。そして真っ先に私のベッドまで行き寛ぐ姿はまるで自分の所有物の様な。

「それ、私のベッド…って分かんないよね」

「うにゃう!」

「えっ、え?分かるの私の言葉…?」

「にゃう!」

何となく声の出し方に特徴がある気がする。はいといいえで声の出し方を変えている様、な…猫が頭良いのは知ってるけど、果たしてここまで良いものなのかな…。さすがに吃驚してしまう。

「んとね、じゃあ…君は、雌猫?」

「うにゃう!」

「じゃあ雄猫?」

「にゃう!」

「えええぇえ嘘でしょ本当に人間の言葉が分かるの…!!君凄いんだね…!」

はいかいいえで答えられる様な質問をすれば、案の定さっきと同じで声の出し方を変えてきて。この黒猫、紛れもない天才猫なのかも…。多分、この黒猫が言うには黒猫は雄猫、だと思う。

「優秀だね…私とは大違い」

Sクラスにいるとはいえ、私の作る音楽は皆の心を掴んで離さない様な曲を未だに作れてない。入学した時も、早乙女さんに「とっても良い曲デース、BUT!YOUの曲には何かが足りまセーッン!」とか言われて。何かが分かれば苦労はしないのだけど、それは見つけるには探すようなものではなくて、感じるものだって言われて。

「何だろう…私が、欠けているものって」

ベッドで横になって、隣で寛ぐ黒猫を撫でながらぼんやりと入学当時の事を思い出す。あの時は…まだあの子がいて、同室になって、パートナーになって、2人で、デビューがしたくて。今何をしているのだろう、恋愛禁止令を破ってまでいなくなるなんて…彼氏さんがそんなに大事だったのかな…。

「恋愛…なんてね、」

この学校に入った時点で求めてはいけないと思うのに。危険を冒してそれでも、結ばれたいと思うのは凄いとは思うけど。そんな、欲しい物を2つ同時に手に入れようなんて欲望、無謀にも程がある気がして。

「ね、黒猫は今恋してる…?」

「にゃふ?」

「私はね…ううん、やっぱり何でもない。私お風呂入ってくるから、ゆっくりしててね」

黒猫に背を向けてお風呂に入る為にタオルや服を手に取る。扉を開けてシャワールームに行く際に、一瞬中にセシルがいたような気がしたのは、きっと私の気のせいだと思う。





「鈴羽…アナタの曲には、愛が…」


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