優しさに触れる
「えっと次は…、あ」
昼休みに、ある音楽の資料が欲しくて廊下を歩いていた先に見えたもの。
「レン…と、女の子達」
遠目からだから何を話しているのかは全く分からないけど、とりあえず女の子達は凄く楽しそうで…ああいつものかなって。最近は減っていたらしいんだけど、それが本当の事かどうなのかは私には分からない。ただ、何となく心に靄がかかったような感じがするのは、私にしか分からない。
「ん?鈴羽…か?」
「、翔ちゃん」
「よっ何かあったのか…って、あいつ…」
「また、いつものなのかな」
「あいつマジで懲りてねえな…鈴羽、俺が何とか言っておくか?」
心配してくれてるのか、気遣う様にそう言ってくれる翔ちゃんは凄く頼もしくて格好いいと思う。けど、これは私達の問題だから。首を振って大丈夫だと伝えれば、渋々ながらそっかと納得してくれた。
「あー…それより、さ」
「うん?」
「その、お前…さ、今日空いてるか?」
「今日?んと…うん、大丈夫」
特に用事も見当たらなかったから肯定の意味を込めて縦に首を振れば翔ちゃんはパッと明るくなって嬉しそうな顔をする。うん、やっぱり翔ちゃんは可愛い。でも翔ちゃんは可愛いって言うと絶対怒るから…って男の子は皆可愛いより格好いいの方が良いのは当たり前だよね。
「本当か!?じゃっじゃあ…さ、今日レコーディングルーム来れるか?」
「レコーディングルーム?良いけど…何かあるの?」
「なっ何でもだ!良いな、とにかく今日、終わったらレコーディングルーム!分かったな!!」
「うん、分かった」
「よし、じゃあ俺まだ用事あるから、また後でな!約束忘れんなよ!」
「翔ちゃん?来たよ」
「おうっ待ってたぜ」
今日の授業も無事に終了して、先生に頼まれ事をされる事もなく用事も昼休みのうちに済ませたから、翔ちゃんの約束を実行する為にレコーディングルームに来た。扉を開けばそこには既に翔ちゃんがいて、今から歌でも歌うのかあーあーと軽く声を出している。
「何か歌うの?翔ちゃんの歌、私好き」
「ばっ…!なな何言ってんだよ!!?!」
「?翔ちゃんの歌が、」
「あー分かった!分かったから!よっよし、歌うぞ!鈴羽、お前もだ!」
「うえっ!?むむむムリだよ翔ちゃん…!」
思いっきり首を振ってムリだムリだと訴えかけても、逆に翔ちゃんはダメだダメだの一点張りで。私は作曲家志望であってアイドル志望者じゃないと伝えれば、作曲家だって歌えなきゃダメだと言って聞かない。私なんかが歌うより絶対翔ちゃん1人が歌った方が良いと言えば、突然両肩を掴まれてバチンと視線が交差する。
「翔…ちゃん?」
「良いから、歌えよ」
「…そんな、上手じゃない…」
「俺は鈴羽の歌、好きだ」
「う、すき?」
「っ!だっだから!歌うぞ、良いな!」
翔ちゃんがまさかそんな風に思ってくれてたのが予想外で、凄く嬉しいと同時に、照れくさくなる。歌が好き…あんまり、人前じゃ普段歌わないからなあ…まさか、いつの間にか聴かれてたなんて。
「声、小さめでも良い?」
「ダメだ、思いっきり歌え!」
「えっ、が、頑張る…」
「ひ、久しぶりに沢山歌ったかも…」
「さすがだな、やっぱ上手いぜ鈴羽」
「ないない…翔ちゃんの方が格好良かったよ」
「!おっ俺様は当然だっ…!!」
そう言いながらちょっと赤くなっているのは照れてるのかな…やっぱり翔ちゃん可愛い。なつが可愛い可愛い言うの、凄く分かる。…ぎゅってしたくなるのは、私とはちょっと違うけど。
「あ…翔ちゃん」
「ん?どうしたんだよ」
「そういえば、どうしていきなり歌おうなんて言いだしたの?」
「!そっそれは…!!…鈴羽が、寂しそうだったからよ…何とかして元気づけらんねえかな…って」
「え、そんな、それで…私のた、め…?」
「あっああ、でも」
お前は気にすんな、俺がやりたかっただけだし。と言われるもまた自分のせいで手を煩わせてしまうなんて、気にしない事なんて出来なくて。思わずごめんなさいと呟けば翔ちゃんは何で謝んだよと苦笑いをする。
「だって翔ちゃん来週はレコーディングテストだよ…?練習しなくちゃ、」
「大ー丈夫だっての、それこそ鈴羽が気にしなくたって問題ねえって。それに今日の事だって無駄じゃねえだろ?立派な練習だ」
「それはそう…かもしれないけど、」
「なら気にすんな!それにほら、俺も鈴羽の歌…聴きたかったし」
視線を逸らしながら頬を染めて言う翔ちゃんが可愛くて可愛くて、格好いい。何で皆こんなに頼もしいんだろう、もっと自分が、しっかりしなくちゃ。でも、凄く嬉しい。気づいてくれたのが凄く、気づかれないようにしてたはずなんだけど…そんなにバレやすいのかな私。
「…ありがとう翔ちゃん、今全然寂しくないよ」
「おっおう、なら良かったぜ!また…歌おうな?」
「うん!」
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