甘さで溶けてしまえば良い
「えっえ、待って…今、何て言ったのなっちゃん」
「何って…ケーキです鈴羽ちゃん!作りましょう?」
「な、なっちゃんが作るの…?」
「?はい、僕と、鈴羽ちゃん2人で」
突然部屋が勢い良く開いて、驚きながら振り向けばそこにはフリフリのピンクの可愛らしいエプロンをつけたなっちゃんがいて。なっちゃんのエプロンは…嫌な予感しかしない。案の定予感は的中して、ケーキを作りたいなんて言い出して。無自覚だから、これがまた怖い。
「じゃあ、味付けは私がするけど…良い?」
「はいっ全然良いですよお、さっ作りましょう鈴羽ちゃん!」
「んわっもうなっちゃん、張り切りすぎだよ…!」
「ふふっすみません」
謝ってはいるけど、腕を引っ張る力は変わらなくて。そのままズンズンとキッチンまで連れて行かれる。用意は万端だったみたいで、ケーキに必要な材料はちゃんと全部揃っている。…何だか余計な物まで混じっているのは、気にしちゃダメ。絶対あれだけは入れさせない様にしなきゃ。
「なっちゃん、出番出番」
「はい!何ですか?」
「これ、生クリーム。かき混ぜて、ちゃんとクリームになったら言ってね」
「うん、分かったよ」
とりあえずはまだ何ともなってないから一安心。あとはクリームを作って、オーブンで焼きあがったらスポンジに塗って、好きな果物を乗せて…うんいけそう、大丈夫、大丈夫。
「鈴羽ちゃん、」
「なに?って、なっど、うしたのなっちゃん」
「混ぜたから味、美味しいかどうか確かめてほしいんです」
「だっだからってなんで…なんで指…!?」
「はい、良いから…あーん」
「やだやだやめっなっちゃ、んぐ!?」
首を振って拒否したにもかかわらず、無理やりに指を口内に差し込まれる。とにかく、クリームが甘い。逃げようと後ろに退こうとしても、肩を強い力で掴まれているせいで動けない。息、苦しい…!!
「んっ、んん゙!!(は な し て!!)」
「ふっ…良い眺めだなあ、鈴羽ちゃん?」
「!?ん゙っは、さっ…さっちゃん…!?」
「ああ…俺だ」
突然腕の力が強まって引き寄せられたかと思ったら、それはなっちゃんじゃなくてさっちゃんが表に出て。普段よっぽど眼鏡を外さないと出て来ないのに、何故か今は眼鏡をかけている状態でさっちゃんモードになっている。何でいきなりさっちゃんが出てきたのかとか息を整えたりとかで俯いていれば、下から顎を掴まれて無理やり上を向かされた。
「さあ鈴羽、食事の時間だ」
「何言って…さっちゃんまだっケーキ出来てない、」
「別にケーキなんか必要ない、これで…十分だ」
「あっやめっん゙ぅ!」
また指を今度はさっきよりも乱暴に入れられて、息が詰まりそうになる。生クリームは美味しい、けど!こんな恥ずかしい試食はおかしいありえないっムリ!しかもただ口に入れるだけじゃなくて、舌を触ってくるから、変な感覚が凄く、やだっ変。
「さ…っちゃ、」
「舐めろ、鈴羽…全部綺麗にな、」
「ん゙っや…やだ…」
「じゃあずっとこのままで良いんだな?俺は、構わないけどな」
「んっくっんん…さ…ちゃ」
こんな恥ずかしい事は羞恥心の塊でしかないけど、ずっとこのままな状態も耐えきれなくて。ギリギリの精神でほんの少しだけ舌を動かして指先を舐める。もう生クリームの味なんて何も感じない。ただただ恥ずかしい、恥ずかしすぎて死んじゃいそう。
「よし、良い子だな…鈴羽」
「っは…あっうぅ…やだばかさっちゃん嫌い…」
「おい、それはないだろ?お前、こういうの好きだったよなあ?」
「そんなの言ってない…うゃっ!?」
ただでさえ密着してるのにグイグイと引き寄せられて、もうこれ以上近寄れないのに、もうぴったりくっついてるのに。離れられないと、いうのに。
「さあまだ、…くっ那月、か…!」
「さっちゃ、…なっちゃん?」
「っ…鈴羽、ちゃん」
「なっちゃん…だ、いじょうぶ?」
「うん、大丈夫…あのっ鈴羽ちゃん、ごめんね、嫌だったよね、ごめんね…」
さっちゃんから元に戻ったなっちゃんは、涙目になりながら謝ってきて。確かに恥ずかしかったけど…なっちゃんにこんな悲しそうな顔、してほしくなくて。なっちゃんの頬に手を添えて目元の涙を拭った。
「なっちゃん、私、大丈夫だよ…だから…泣かない、で」
「鈴羽ちゃん…うん、ありがとう大好き…」
「…!え、えっと、あの…そう、何で今日、ケーキ作ろうなんて言い出したの…?」
言えばなっちゃんはさっきの悲しそうな表情はなくなって、頬を少し赤く染めて微笑みながら私の肩におでこをくっつける。
「それは…渡したく、なくて」
「何を?」
「鈴羽ちゃん」
「えっなっ何言って、私…?」
渡したくない、それが一体何からなのか正直私には思い当たる節がなくて。別に他の人とずっと一緒にいる訳じゃない、むしろなっちゃんと一緒じゃない方が少ないくて、いつも一緒だから何もそう嫉妬心の様な物を感じる事なんて、ないと思っていたのだけれど。
「最近、ずっと音楽しか見てないから…それが何か、寂しくて…一緒に卒業するために、僕の為の歌を考えてくれているのは分かっています。でも偶には、僕を見て…鈴羽ちゃん」
「なっちゃん…ごめんね、気づいてあげられなくて。次は、気をつける…大丈夫、傍にいるから私」
背中に腕を回して軽くポンポンと叩いてあげれば、ぎゅうぎゅうと強い力で抱き締められて。苦しいけど、別に全然痛くない。ちゃんと加減してくれてる。何で私なんかにこんなに優しくしてくれるんだろう。
「ありがとうございます…本当に、ありがとう…」
「ん…私も、ありがとう…その、嬉しい。なっちゃんの気持ちが、私も…す、好き」
「じゃあ、今日はずっと傍にいてくれる?僕だけの、ために…」
「…ずっと、大丈夫。傍に、いるよ」
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