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純粋な音


「何もしなくて良いって言われたけど…」

特に何もする事もなく、今は自分のベッドに座ってただボーっと足をぶらつかせる。さっきトキに何もしなくて良いって言われたけど、今回の問題は私とレンのパートナー同士の問題であって、トキが気にする事じゃ…もしかして心配、してくれてるのかな。

「あ!今日Aクラス行くの忘れてた…!!」

もう色々と今日は出来てない。あっ明日こそはAクラス行こう…。今日はレコーディングテストの事…と言うよりレンの事で全然集中出来てなかったし…。

「ううぅうんどうしようかな…」

伸ばしていた足を折り曲げて、体育座りでベッドに座る。膝におでこをくっつけてしばらく考えても、特に良い方法も思いつかない。いっそのことトキに大丈夫だから自分の事優先してって、言った方が良いのかな…。でもトキの事だから「私が勝手にやっただけです、君は気にしなくて良い」とか言われそう…うん凄く言われそう。

「いやダメダメ、ここで引かないで言ったら、もしかしたら分かってくれるかも」

私とレンの2人の問題だからって言うのも勿論あるけど、私はトキに私達の事で練習を疎かにしてほしくない。たしかにライバルは少ない方が良いかもしれないし、元々トキは歌が飛び抜けて上手いから問題はないのかもしれないけど。大事な友達…仲間なら、お互い一番良い状態で歌ってほしい。

「…決まり、トキの部屋に行こう」




「トキ、いる?」

扉を何回かノックしてみても、特に反応なし。でも中からは確実に誰か、いる。音が聴こえる…これはギターの音。もしかして、トキの同室の…一十木音也?ギターの音にかき消されてノックが聞こえなかったのかもしれない。恐る恐るドアを開ければ、そこには赤茶色の髪の毛を持つ彼がいた。いやむしろ逆に彼しかいない。

「おと、じゃなくて…一十木さん?」

「………」

ヘッドフォンをして更にギターを弾いているせいか、彼は気づいてくれない。仕方なしに肩を軽く叩けば、目に見えるほどに驚かれた。

「!?ごっごめんトキヤ!ってあれ?」

「おっお邪魔、してます」

「あ!君、レンのパートナーだよね!」

「うっうん、雪橋鈴羽…です、あの」

「そっか!俺、一十木音也!よろしく!」

「え、あっはい」

お互いに自己紹介して、差し出された手を取り握手を交わす。わわ…男の人の手って凄く大きい…逞しいけど、指先は綺麗だし、あっでも指はまさの方が細かった。肌も白かったし…って何でまさ? 
 
「あ、一十木さん」

「良いよさん付けなんてさ!俺ら同い年だし、音也って呼んでよ、敬語もなし!」

「じゃっじゃあ…おとって呼びたい」

「うん、良いよ!俺も鈴羽って呼んで良い?」

「うん!よろしくね、おと」





「うーん…一回部屋に戻っては来たんだけどさ、何かまた出て行っちゃって帰って来ないんだ」

「そっ、か…トキ何処行ったんだろう…」

あれから本題を話して。トキはどうやら何かをしに部屋を出て行ったきり帰って来ない状態…。おとが聞けば「少し用事を済ませてくるだけです」と言っただけで行き先までは教えてくれなかったそうな。

「…俺が先に行き先ちゃんと聞けば良かった、ごめん」

「違っ大丈夫!えと…多分、場所分かったから!」

本当はこれっぽっちも分からないけど、とりあえずおとは全く悪くない。むしろ頼る私がいけない訳で。宛てはないけど…とにかく、おとが悲しんでる顔が凄く自分の胸にグサグサと突き刺さって凄く申し訳なくて…何でかは分からないんだけど。

「本当?じゃあ俺も着いて行くよ!鈴羽を1人にしたら心配だし!」 
 
「ううぅうん!?大丈夫大丈夫!1人で大丈夫だよ!」


「でも1人で男子寮をうろつくのは危ないよ、やっぱり俺も行くって!」

ヤバい、とっても今危険、とにかくヤバいどうしよう!!分かってるって言ってしまったから、この状況…何が何でもトキに会わなくちゃ、またさっきと同じ顔をおとにさせる事になる訳で…!!

「やっやっぱり大丈夫、」

「…何をしているんですか、2人とも」

「トキ!」「トキヤ!!」

扉の方に振り向けばそこにはまさに今探し求めていたトキがいて、少し呆れ顔でこっちを見られる。って、あれ、あの、

「…音也」

「トキヤ?何?」

「その手は何です、離しなさい」

「?あっ!ごめん鈴羽…!」

「い、良い…よ、大丈夫」

私が1人で逃げようとしたのが悟られたのかは分からないけど、私が気づかない内におとは私の手を強く握っていて。トキに言われてパッとすぐ離してくれたけど。まだ握られた手、暖かい。

「それで何故、君が此処に?」

「トキに話があったんだけど…まっまた今度!今日ちょっと忙しいんだった、だから、帰るね!」 
 
「?ええ…分かりました」

「うん、そっそれじゃ」

立ち上がって、ドアまで行き扉を開ける。そのまま出ようとすれば後ろから「待って!」と言われ、半分外に出た体を止めた。

「おと?」

「あのさ!今度、鈴羽の曲聴きたい!」

「へ、え?別に良い…け、ど」

「やった!約束な!」

「約束…うん、分かった。また明日ね。おと、トキ、バイバイ」

結局今日は言えなかったけど…まあ、明日?言えば良いかな。うん、明日にしよう。なるべく早めに言わないとトキも練習出来ないだろうから…。




「トキヤ、ねえトキヤってば」

「………」

「トキヤ!ねっトキヤ!」

「一体何です騒々しい…私は忙しいんです、用件なら簡潔に、」

「鈴羽!可愛いね!」

「は?」

「明日もAクラス来るみたいだし、楽しみだなあ」

「(またこれは…面倒ですね)」




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