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惹かれるメロディー


*主人公出て来ません
レンとトキヤのみです
 
 
 
今日は本当は用事はなかった。ただ彼女と2人きりになるのが怖くて、自分でも何をするか分からないほどに、意識している自分がいる。
レディ…鈴羽の事は、前から知っていた。元パートナーの子と良いコンビで、彼女の曲は音楽を捨てた俺にもどこか響くものがあった。前に、寮の近くで彼女の歌を聴いた事もあったな…。あれは正直、他のアイドル候補生よりも上手かった。アイドルでも、Sクラスにいられる程に。

「いや…俺は、音楽は捨てたんだ」

鈴羽がパートナーになった時、正直嬉しかった。これは運命だって、冗談なんかじゃなく…。

「レン、いますか」

部屋のベッドで特にする事もなく、適当にダーツで暇を潰していれば、扉を何回か叩きその後にあいつ…一ノ瀬トキヤの声。軽く返事を返せば、静かに扉が開いた。

「イッチー…何か、用かい」

「彼女の事で話があります」

まただ。最近のイッチーはレディの話になると人が変わる。表面は普段と同じでも、中はそう、熱い何か。きっとこれは、俺が少しだけ今抱いている何かと同じなんだろうね…。 
「レディがどうかしたのかい?」

「何故、歌を歌わないんです」

「それは言っただろう?俺の歌はもう、完成されている。練習なんていらないのさ」

「彼女は…鈴羽は、テスト関係なく貴方の歌を聴きたがっている」

「………俺は、必要以上に歌わない」

そうだ。俺には歌う理由も、価値もない。家の為に自らが広告塔になった所で結局自分には何の利益もない。だから、歌う必要もない。だいたいは気まぐれで入学させられたんだ…当たり前に決まってる。

「なら、交換しましょう」

「は…?一体何を、交換するんだい?」

「鈴羽です、お互いのパートナーを変えましょう。レンの様な人に、彼女は合わない」

「!それは、」

「私なら…彼女を、鈴羽の夢を叶える事が出来ます」

夢。彼女の、鈴羽の夢。それは作曲家としてパートナーと共にデビューする事。それは決して一人ではいけない…パートナーと一緒だからこそに価値があるのだと、だから2人でデビューしたいと言っていた、夢。

「夢…ね」

「どうなんですか、レン」

「…愚問だねイッチー。勿論」

-レディは、譲らないさ-

「歌の件は気にしなくて良い、イッチーは自分の歌を気にしていれば…ね」

「…信用、なりませんね」

「レディが普通とは違う事位、気づかない俺だと思うかい?…まあ、時間は…必要だけど、ね」

まだ少ししか関わっていないのに、こんなにも気になるのは…きっと何かあるんだろう。自分の本能が引き寄せられるような、何かが。

「仕方ない、ですね。今回の件は保留にしておきましょう…ですがレン、分かっていますね?」

「ああ、ちゃんと伝わってるよ」

「もしまた何かあれば、私は、鈴羽を貴方の元から攫います。せいぜい奪われないように…頑張って下さいね」

そう言って軽く微笑む。相当な自信家だねイッチー…まあ俺から奪えるなんて、そんな事はさせないさ。絶対に。
もしかしたら、俺は心の何処かで彼女の音楽を求めているのかもしれない。おかしいね…レディの扱いは、皆平等なはず。それなのに、最近は他のレディと関わらないで。自分で自分が…分からなくなる。

「…ああ、最後一つ、言っておきます」

「ん、何だい?」

「夜は…いえ、何でもありません。忘れて下さい」

「は?おいっイッチー、」

「忘れなさい。では、失礼します」

有無を言わずに部屋から出て行くイッチーに、少し笑いがこみ上げる。まったく…イッチーは大胆だね、ほんの少し前は好きじゃないって言ってたのに、ほんと。

「面白く、なりそうだよ」

そう言って放ったダーツの矢は、一直線に真ん中に当たった。



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