もっと親しくさせて
「ぅ…ん…ん…?」
いつの間に眠っていたんだろう。気づいたら外は明るくなっていて、そこまで強くない日射しが部屋を暖かくしてる。とりあえず起き上がろうと顔を上に上げれば、思考停止。
「…は、ぅえ!!?!」
そこには数センチしか距離が開いてない、なつの顔が近くにあって。彼はまだ起きてないけど、ちっちちちちち近すぎ…!!自然と頬に熱が集まって来て、どうしようかと働かない頭で考えてればふと急に背中に手が当たった。
「ん…鈴羽ちゃん…」
「(!?ひああぁあダメ…ダメ!!)」
そのまま引き寄せられて密着する形になってしまう。相変わらず力強すぎだよ…!!抜け出せない状況にとにかく逃げ道を探すも、腰を掴まれていて抜け出す事が出来ない。起きるまで諦めようしかないかと思っていれば、ふいに頭上に置いてあるぬいぐるみを見つけた。
「な、なつ…ぬいぐるみさんどうぞ…」
怖ず怖ずとなつの手元にぬいぐるみを近づければ、なつは自然と私から手を離してぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。
「(はあ…良かった…!)、っあ!」
なつから離れてベッドから降りる。自分の服装を見れば、まだ当然ながら部屋着の状態で。まだ早朝だから、今から戻れば間に合うかな…。
「お礼は、後にするから…ありがとう、なつ、翔ちゃん」
凄く良く寝れた。こんなに熟睡出来たのなんて久しぶり…。お礼を小さい声で言って扉を静かに開ける。小走りで自分の寮まで行っていれば、目の前に突然影が出来た。
「!ぅっわ、あ…んわっ!?」
「…!!」
寸前で止まれば、誰かの胸元に軽くぶつかる。
「わわわごめんなさい!!」
「いや…問題ない。!お前…」
「ん?う…えっと、何か…?」
「お前は…確か神宮寺の、」
「雪橋鈴羽です…って、あ!まっ、聖川さん!」
また愛称で呼ぶ所だったのを必死で抑えて、改めて彼を見れば、彼はレンと同室の聖川真斗…まさって勝手に私は呼んでる。
「俺を知っているのか?」
「?有名だからです…?財閥と、か」
「そうか。…あいつとは、大丈夫なのか」
「あいつ?えっと、誰でしょう」
「神宮寺レン…あいつに、パートナーとしとの役目が勤まるのかどうか、心配でな」
「それは、」
まだパートナーになったばかりだから、正直には分からないけど…でも。
「多分、大丈夫な気がします」
「…何故だ?」
「音楽は、嘘をつかないから」
学園に入学して、すぐに自己紹介をした時に彼は自分の得意のサックスを披露していた。普段は女の子達を連れたりしてそれはそれは破廉恥な人だけど…でも、あの音楽。凄くやり込んでいて、素敵だった。レンの声も好き…と言うか綺麗?魅力的?だとも思うけど、あの音色…音楽が好きって。
「だから…大丈夫、です。って、あ!?時間!!」
「?何か、あるのか?」
「着替えて、学校の準備…!!ごめんなさい、行きます!」
「っ待て!」
「へ…ぇ!?」
彼の横を通り過ぎようとすれば、去り際に腕を掴まれる。驚きながら振り向けば彼は少し頬を赤く染めながら私と目を合わそうとしないでいた。
「あの…?」
「っ…無闇に、女性が肌を露出するものではいけないな…」
そう言って、私の服を優しく掴んで着崩れしているのを直してくれた。
「!、ありがとう…です!まさ…っああ!」
やってしまったと口元を抑えて言葉を止めるも、あああ呼んでしまった…また私の悪い癖が…!!彼の様子を窺えば、とくに嫌そうな顔はしてないけど…だ、大丈夫なの、かな。
「ごめんなさい!わわ私今呼び名でっ、」
「いや、お前がそう呼びたいのなら、構わない。無理して…敬語も使わなくて良い」
またここにも良い人がいるなんて…!!まさの事は噂ではよく耳にしていたけど、御曹司の、しかも嫡男だって言っていたから、もっと堅苦しくて超勉学一筋みたいな人なのかと思ってた。
「…!!まっま、まさ!!ありがとう!嬉しい…!」
思わず嬉しくなりすぎて、まさの手を勢いぎゅっと掴む。ハッとなって手を離せば、まさの顔も驚きながら少し赤くなっていていた。
「!そ…そう、か。時間は、大丈夫なのか」
「う?…!!?!だ、ダメ間に合わなくなる…!私、行くねっまさ!まさありがとう!」
「ああ…引き止めて、すまない」
「ううん!まさと仲良くなれて嬉しい!後でAクラス行くね!」
「あれは、名前を呼ぶのが…好きなのか?いや、それよりも何故こんな所に…?」
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