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終わりの始まり


突然の出来事だった。早乙女学園に入って、Sクラスになって、自己紹介をして。パートナーも決まった。私のパートナーは女の子。数少ない女の中で、彼女はアイドルとして、私は作曲家として2人でデビューを飾ろうとしていた。
話もそこそこに合うし、彼女の曲は私の心を揺さぶる良いもので、凄く私は嬉しかった。それに加えて寮では同じ部屋で。こんなに良い事尽くめで良いのかなと思った矢先に。

「な…にこ、れ」

朝目が覚めて、今日も頑張ろう、今度は歌のテストがあるから、一緒に練習しようねって、約束、していたのに。
起き上がって見た物は、先日までは隣にあった場所、彼女の私物、布団、何もかもがなく、そこにはまるで元から無かった物のように無駄な空間だけがあった。

「何で…だって、昨日までは普通にっ、」

隣にいた。彼女は何も、悪い事なんかしていない…と、思う。まだ日が浅いから、彼女のすべてを知る事は出来なかったから。悪い事をしていないと言う確信は、持つことは出来なかった。
布団から出て、昨日までは物が置いてあった場所まで歩き改めて何もない感覚に酷く寂しさを覚える。太陽の光だけがそこを照らしていて、余計に虚しさが胸を埋める。

「…1人は…嫌だよっ…」

そして静かに、泣いた。



「雪橋!」

「日向先生…おはようございます」

「ああ、おはよう。それで…話がある。内容は…分かるな?」

「っ、理由…話してくれるんですか?」

「ああ。…大丈夫か、」

「…行きます、理由が、知りたい」

彼女が、いなくなった理由。聴かなければ、納得出来ない。私には今希望がない、成す術が見つからない、夢を、叶える事が出来ない。日向先生の後ろを着いていきながら彼女の事をひたすら考える。この学校からいなくなるとすれば、学園長先生をよっぽど怒らせるような事をするか…例えば、

「(恋愛、禁止令)」

片思いならそれは規則を反する事にはならないって、学園長先生は言っていた。私と彼女はだいたいはいつも一緒に行動はしていたから…そんな事…ないと思う…。どうか違う理由、そうであっていて…。
祈る様に自分の手と手を絡め、一瞬目を閉じた。


「ohーmiss雪橋!此処に呼ばれた理由は分かりマスネー?」

「っ理由を、教えて下さい!!どうしてっ…どうして彼女は学園からいなくなってしまったんですか!?」

「…それは、恋愛禁止令を破ったからデース」

「…っ!?そん、な…事って…!!」

「あいつは見つかりにくい夜中に、こっそりある男子と会ってたんだよ。あいつはその男子と、付き合っていた」

「う…そ…」

体に力が入らなくて、床に座り込む。
嘘だと信じたかった。たまに夜中にドアが開いて何処かに行っていたのは知っていたけど、その次の日の朝は何事もなかった様に隣で寝ていたから…何もないと思っていた。

「わっ私の…夢…どうなるんですか…」

もはや何を言えば良いのか分からない。彼女を失った今、私には何が出来る?床を朦朧と見つめていれば、ふと頭に暖かい何か。顔を上げれば、切なげな顔をした日向先生が私の頭を撫でていた。

「ひゅうが…せんせ…い」

「…1人だけ、いる。お前の夢を叶えられるかもしれない、あいつなら」

「あいつ…?」

「神宮寺レン、あいつもパートナーを失ったんだよ。お前のパートナーと付き合っていたからな」

つまりはこう。私のパートナーがいなくなった、理由は恋愛禁止令を破ったから。彼女と付き合っていた男は、神宮寺レンのパートナーだった。だから今、私と神宮寺レンにはパートナーがいない。その私達2人を…パートナーにする…。

「それで…納得してくれるんですか、彼は…」

「それは、話してみないと分かんねえな…」



「俺は、良いぜ」

「!!じっ神宮寺…レン…さん」

ガチャッと音を鳴らして扉が開いた先にいたのは、神宮寺レン。彼の後ろには、彼を此処に連れて来たであろう林檎先生がいた。

「レディがパートナー…これはきっと運命だ」

「う…?」

「運命…。俺達は、なるべくしてパートナーになる存在…と言う事さ」

そして、私の手を取りキスをした。
…お、驚いて、言葉も、出ない…!!ただ目を見開いて彼を見つめれば、軽くウインクされる。勝手に染まる頬を見られたくなくて俯けば

「勿体ないな…可愛い顔を隠すなんて」

顎に軽く指が添えられて上を向かされた。

「あ…の、神宮寺…さん」

「ん?なんだいレディ」

「わっ私の…パートナー、なって…くれます、か」

そう尋ねれば、彼は微笑みながら
「勿論、レディとパートナーなんて、光栄だよ」と言ってくれた。

「決まりデース!今から2人はパートナーデース!!2人でデビューを目指しちゃって下サーイ!!」



此処から…また始まる。
一度止まった時計が、また針を動かして。この人と上手くいくなんて…会ったばかりの私には分からないけど、でも。
「(夢を…叶えたい…)」
私には、まだ、希望があるかもしれなかった。




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